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英雄くぐり

 展望台の真ん中で存在する銀色の扉。


 ……なつかしい。


 再び目にしたそれは最初に見たときと同じ記憶……

 初めてスマフロと出合ったあの銀色の扉が、スマホから飛び出してきた時のことが頭の中に映像として流れる。


 あの頃は凄くドキドキして、とても楽しかったなぁ。


 僕がスマフロをプレイし始めた頃を思い出していると、渡の声が聞こえてきた。


『ダンジョンの入り口が見えるか?』


 「もちろん見えるけど? 渡は見えないのか?」


『ああ、見えない、というかイチ以外は見える人はいない。いまのところはな』


「へぇー、だから誰もいないんだね。ん? 見えないのなら皆どうやってダンジョンに入ってるんだ?」


そういや、ここに来る途中の街並みはいつもと特別に変わっていなかった。我が家を中心にダンジョンが100ヵ所もあるのなら、もっと街中が騒がしいはずだけど。


『この街で確認できるダンジョンは、駅前に新しく現れた一つだけだ。日本では184ヶ所のダンジョンが確認出来ているが、全国的にある程度まんべんなく配置されているな。世界では8,964ヶ所が確認済みだ』


 「新しいのが出来たのか……最初のプレーヤーが100人としてダンジョンは100×100で10,000ヶ所ぐらいかな?」


『そんなとこだろうな。ま、重要なのはこのダンジョンが特別製だってことだ。調べてはみたが情報は0。なんせ初期プレーヤーの生存者は12人だからな』


 「……なるほど」


『このゲームが説明不足なのは仕様だから仕方ないとして……ぶっちゃけ怪しいだろ?このダンジョン』


 「初期プレーヤー専用のダンジョンか……」


 いや、もしかしたら僕専用かもしれない。

 早めに調べてみる価値はありそうだ……危険もありそうだけど。

 僕は銀色の扉に再度目をやるが、最初に出会った時のドキドキは一つも感じなかった。


『ま、心配するな。たぶんこのダンジョンは「渡?」 なんだ?』


 渡に銀色の扉を見て思い付いたことを聞いてみた。


 「事前に情報を知って……効率的に攻略するのって、あんまり楽しくないと思うんだけど、ゲームを作った側からはどうなのかな?」


『!!』


 渡の息をのむ音が聞こえてきた。……そこまで驚くことだっただろうか?

 少し待っても返事がないので心配になり声をかけた。


 「渡? 大丈夫か?」


『……ああ、大丈夫だ。…………確かにイチの言う通りだな。こんな事に気付かないとは……ちょっと待ってろ』


「わかった」


 あの男は『楽しんでくれたまえ』って言ってたが、はっきり言って現状での僕はスマフロを楽しんではいない。

 命がかかっている状態でゲームを楽しめる人はそんなに多くはないだろう。大事な人達の命なら尚更だし、とりあえず僕は楽しめないタイプの人間だ。

 だから安全に効率的な攻略をしている。楽しみや感動などほとんどない機械的な攻略。


 しかし……スマフロの運営側はそれで楽しいのか?

 初めのダンジョンに潜る前からあの男は僕を気に入っていたらしい。あの当時の僕は確かにこのゲームを楽しんでいた。危険を感じながらもスリルや馬鹿げた成長を……スマフロを楽しんでいたのだ。


 今はどうだ?

 全力で攻略するなら、今の方針でも良い。渡や皆と力を合わせて一番効率的な攻略をすることは、ゲームの運営側からも好まれそうだ。少年漫画のような熱い展開で運営側も楽しめるだろう。


 しかし、本気で運営側を接待するならどうだろう。

 ゲームを作った人は事前に攻略本を用意したような遊び方をされたら嬉しいのだろうか?

 僕がゲームを作ったならどうだろうか?

 

 ……それに渡はゲームを楽しむっていうより、ゲームを改造して無茶苦茶しながら笑うタイプだ。

 たぶん運営側を怒らせるのは凄く得意だが、喜ばせるとなるとあまり得意分野とはいえない。できなくはないだろうが……


 でも、あの装備やダンジョンを用意した運営側を接待するプレーか……どう考えても最悪だな。

 

 そんなことを考えながらハム助を撫でていると、渡が考えをまとめたらしい。


『これからは攻略に関係する情報は極力伝えないようにしてみる。サポートしてほしい場合は連絡しろ。

 とりあえずイチの好きなように……いや、最初の時を思い出してプレイしてみろ。たぶんそれが一番面白そうだ』


 たしか最初は二美に楽しいことを沢山見つけてくるってプレイしてたんだよな。

 最強は一路君や他の人に任せて僕なりに楽しむ、か……それで大丈夫かな? ま、やってみて考えよう。


「わかった。気持ちを切り替えられるか分からないけどやってみるよ」


『イチはスマフロを楽しんでやっとけ。こっちはこっちで色々しとく』


「了解。渡も無理するなよ」



 僕は小声で「楽しむ、楽しむ……」と楽しむを何度か口にすると、銀色の扉の前に立った。

 ……うーん、楽しい事って意識してやるのは結構難しいぞ。

 しかもこんな状況で楽しむなんて出来るのか?

 ……うん、やって無理ならその時に考えるとして、とりあえず気になっている事を全てやってみよう。




 頭で無理なら行動から感情を引き出そうと、僕は片手をあげガッツポーズをとる。

 そして1回大きく深呼吸すると、銀色の扉の裏側に歩いて回り込んだ。

 前から気になってたんだよな。裏側ってどうなっているんだろ?


 裏側は普通に銀色の扉だったので、試しに開けようしたが無理だった。

 よし、それなら……僕は扉を叩きながら小声で「開けごま」と言ったが反応はない。


 やっぱり表からじゃないと無理なのか?


 僕は扉の表側に回り込むと咳をしながら「開けごま」と小声で言う。

 ……反応はない。


 次に扉に手をかけ開くと同時に横から裏側に回り込む。

 そして裏側からおそるおそる手を伸ばしてみるが変化はない。

 開いた扉の内側を触って確認したあと、離れて扉の写真を写した。

 なるほど、扉は1,000kmか……なんか能力が付いてるのかも?後で確認だな。

 ついでに『念力』を使ってスマホを操作し、扉の上でポーズをとるなどした写真をとったりした。

 よし、初めて宝箱を見たときからやってみたかったことが出来たぞ。

 今度は空中に浮いてる写真も撮っとこ。



 その後も小石を扉の中に投げたり、木の枝を半分まで入れてだしたりと色々確かめた。


 よし、思い付いたことは大体やったぞ。

 そろそろダンジョンに入るとするか。


 裏側から投げ入れても小石は消えたので、扉の裏側からダンジョンに入ろうとするが……あれ?普通に通り過ぎた。


 小石は消えたのに……


 不思議に思いながら足を1歩後ろに下げると同時にダンジョンに吸い込まれる感覚がした。


『「あっ」』


 何故か渡の声も聞こえた気がしたが、ダンジョンに入ったのだろう。目の前一面に白い壁がある。

 後ろに振り向くと、ダンジョンを攻略したときにいつも置いてある黒い球体が、石ころや枝が散乱する白い部屋の中心で浮いていた。



 ……この時の僕は想像もしていなかった。


 裏側からダンジョン扉をくぐり、後ろ歩きで「あっ」と言いながらダンジョンに入ることが『英雄くぐり』と呼ばれるようになり、みんなが真似して動画サイトに投稿するようになるなんて……


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