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ごめんなさい

 部屋に響いた笑い声も落ち着き、僕は皆に声をかける。


 「それじゃ、電話をかけてみるね」


 僕は縁側まで移動し、両手を上げて一度体を伸ばしてから電話をかけた。


『プップップッ――――……もしもし?イチお兄さん?』


 「一路君?久しぶり、じゃないや。二日ぶりかな?お見舞いに来てくれたらしいね。ありがとう」


 一路君と別れて二日しか経過していないが……いろんな出来事があったせいか久しぶりな気がする。


『うん。……体はだいじょうぶ?』


 「大丈夫だよ。『再生』もあるからね。元気そのものだよ」


 僕は元気そうに笑いながらそう言った。


『そっかぁ、良かったぁ~。『超越鑑定』が問題ないって言うからだいじょうぶだと思っていたけど……やくそく守れなくてゴメンね』


 「いやいや、こちらこそ心配をおかけしました。一路君にはお世話になりっぱなしだよ。お礼も直接言いたいし、会える時間はあるかな?」


『あっ……うーん。イチお兄さん……僕のうわさ知ってる?』


 「ああ、90ヶ所も街を救ったらしいね。たいしたもんだよ」


『うん……でもね……「一路君」えっ?』


 僕は一路君の言葉をさえぎって名前を呼んだ。

 言葉には力がある。

 たとえ真実でなくても何度も声に出すだけで、心が言葉に引っ張られる場合もあるのだ。

 特に傷ついた心は動きやすい。


 「一路君は多くの人を助けたんだよ?僕も……この街の皆が助かったのも一路君がアドバイスをしてくれたからなんだ。だから一路君は僕達の恩人だね」


『おん人?』


 「そう、恩人だ。一路君が妹の恩人に『結界』やアドバイスをプレゼントしたように、僕も恩人の一路君に何かお礼をさせてくれないかな?」


『……でも』


 「断っても絶対お礼はするよ。いつのまにか一路君の枕元に立って『お~れ~い~さ~せ~ろぉ~』って毎朝起こすからね」


 僕は空いた手でお化けのポーズをとった。


『くすっ、なにそれ』


 一路君の笑い声が聞こえてきた。


 「怖いかい?さすがの一路君でも怖すぎて起きられないかもね」


 からかう様な声で僕は話しかける。


『ぜ~んぜんこわくない!絶対すぐに起きるから!』


 「そうかな?僕は寝起きであまり知らない人にやられると相当怖いけど」


 冗談半分で言ってるが、実際に体験したら……うん、怖い。


『イチさんはこわがりなんだね』


 「知らないってことはそれだけで結構怖いもんだよ。だから一路君だったら何してきても全然怖くないよ?」


 僕は一路君を挑発するかのような声を出した。


『ほんとかな~?よ~し……』


 「えっ……わっ!!」


 僕の足元に黒い穴が突然出現すると、僕は暗闇に落ちていった。

 数秒で落下が止まると、下半身が暗闇のクッションに包まれる。


 「こわかったでしょ?」


 目の前で一路君が笑っている。


 「……ちょっと驚いた。やっと直接お礼が言えるね。ありがとう、一路君」


 僕は姿勢を正して頭を下げた。


 「あっ……う、うん」


 一路君は恥ずかしそうに頭をかいた。


 ――――暗闇のクッションに二人で腰を掛けて、僕は一路君の話を聞いていた。


 この場所、特殊能力『夢所ゆめどころ』は滞在中の時間が緩やかに進むらしい。

 約千分の一……一時間滞在しても現実に戻れば3.6秒しか経過していないし、歳もとらない夢の場所だ。

 ……正直うらやましい。


 始めはスマフロの話をしていたが、僕が二美の話……過去の過ちを晒したことがきっかけで段々と身の回りの話、過去の話と移っていった。


 一路君は幼い頃に母親を亡くして、父親と妹の三人で暮らしていたらしい。

 初めはそれでも仲良く暮らしていたらしいが……だんだんとお父さんが仕事で家に帰らなくなった。


 「それからしばらくして、引っ越しをしたんだ……」


 一路君は真っ暗な地面を見ながらそう言った。


 幼稚園にも行けなくなって、食べるものは、たまにお父さんから投げ込まれるコンビニのおにぎりやお弁当……それもだんだんと少なくなって……


 「――それで、ひさしぶりにお父さんがボクたちに会いに来てくれたんだ。こうヒゲがモジャモジャだったけど。ご飯を沢山持ってきて……これを渡して遊んでなさいって……」


 一路君はスマホを大事そうに胸に抱えながら「……うれしかったなぁ」とつぶやいた。


 「その日のお父さんとってもイイ人だったんだよ。ずっと話も聞いてくれて……妹の二菜にいなともいっしょに寝てくれて……ごめんって泣きながらあやまってた」


 「……そうか」


 無関心だった親が突然優しくなるか……。

 悪い予感を感じながらも、僕は頷き話をうながした。


 「……次の日ね。……お、お父さん……ゲームから出てきたモンスターに殺されちゃったんだ」


 「!!」


 「二菜もケガして……なんとかモンスターやっつけたけど二菜もどんどん元気がなくなってきて……お水持ってこようとしたら何かにつまずいて……それが金色の宝箱だったんだ」


 ……かける言葉が見当たらない。

 下手な慰めは一路君を傷付けるかもしれないし、話の腰を折りかねない。

 だが沈黙は駄目だ。

 僕は当たり障りのない言葉を吐き出した。


 「……そんなことがあったんだ」


 「うん。あとは『超越鑑定』に相談しながら二菜を助けて、誰にも負けないようにがんばったんだ。お母さんとの約束だからね」


 「約束?」


 「うん、約束。『二菜のこと守ってあげて』って言われたんだ」


 「……そうか。立派なお兄ちゃんだな。本当に……たいしたお兄ちゃんだよ」


 僕が一路君の背中に手を当ててそう言うと、一路君は恥ずかしそうに笑っていた。




 「――――いや、ほんと。変な装備ばっかり出てきてさぁ……」


 僕はハム助の事や失敗談、渡との会話を面白おかしく一路君に話していた。

 一路君は笑いながら楽しそうに話を聞いている。


 さて、どうしようか……


 一路君に確認したら、あの男に悪い感情を持っていないらしい。

 お父さんは死んでしまったが、生活的には今の方が幸せなのだ。


 一路君は現在スマフロの能力を頼りに妹と二人暮らしをしている。

 祖父母や親戚の話も聞いたがよく知らないとのことだ。

 仮にいたとしても嫌悪感の問題もある。


 ……たぶん渡は一路君について調べている。

 何も言わなかったのは、一路君の能力を考慮したのもあるが、保護を選択しても問題ない状態にしているってことだろう。

 多少の問題があっても、一路君だけでも自給自足しているので必要なのは温かい居場所と防波堤、法的な処置か。


 それなら……


 「一路君、良かったら僕と一緒に暮らさないかい?」


 「えっ?」


 「もちろん二菜ちゃんも一緒にね。安全な場所だよ?なんなら『結界』で囲むのもアリだけど、そのへんは一路君の方が上手くやれるかな?」


 僕は一路君が遠慮モードに入る前に、ちょっと強引に話を進めていく。


 「一路君と二菜ちゃんの二人でいるのも楽かもしれないけど、みんなで暮らすのも楽しいよ?

 行きたいなら学校や幼稚園なんかもいけるだろうし、家に優しい先生を呼ぶことだって出来る。きっと楽しいよ?」


 「……ようちえん。で、でも……」


 「遠慮しないでいいんだよ。なんたって『恩人』なんだから。気になるなら、色々手伝いをしてくれると凄くありがたいんだけど……駄目かな?」


 「ダ、ダメじゃないけど……」


 一路君は慌てたように答え、少し考えてから声を出した。


 「……二菜がね。『ようちえん行きたい』って言うときがあるんだ……。ぼくが知ってる楽しい話ってようちえんの話が多いから……」


 「そうか……楽しい幼稚園を選ばなくちゃいけないな」


 「……ごめんなさい。ぼ、ぼく……がんばって手伝うから……」


 一路君はうつむきながら承諾の言葉をつぶやいた。


 僕はうつむいた一路君の頭を撫でながら優しく声をかける。


 「そういえば一路君や二菜ちゃんが好きなお菓子は何かな?できれば一路君や二菜ちゃんが楽しめるようにしたいからね。手伝ってくれるかい?」


 一路君は肩を震わせながら、頭を何度も下げた。


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