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会話


 歌でみんなに元気を与える歌姫


 どんな所にも現れ、いたずらを楽しむ小猫


 結界を築き、主人の墓を守る忠犬


 恥ずかしがりやのクノイチ


 立派な商会を営む商人のおじさん


 巨大な優しい大男


 雷を操る双子のチビッ子魔導師


 最速を求めるレーサーの男性


 様々な司会をこなす女性司会者


 孫が患った不治の病を根絶しようとする初老の医師


 そして、森の奥で世界の崩壊を食い止める再生の巫女


 そんな時代も……文化も……世界も……何もかもが違う人達が一つのゲームに振り回される……


 そんな夢をみた……


 目が覚めると……少し見覚えのある天井だ。

 たしかここは……


「おう、いち坊。目ぇ覚めたか」


 襖が開き、聞き慣れた声が聞こえる。


「猪熊先生……僕はどうし……」


 事態が飲み込めない僕は、猪熊先生に現状を聞こうとしたが、猪熊先生は手を二回鳴らして話を止めた。


「話は後だ。咲さん!みんな!いち坊が目ぇ覚ましたぞ!」


 襖の奥から足音と家族の声が聞こえてくる。


「お兄ちゃん! 大丈夫!?」


 二美が一番に声をあげた。


「気分はどう? 痛いところはある?」


 母さんが近付いて、心配そうに僕の様子を確かめている。


「いきなり倒れるからみんな心配したぞ。……よく頑張ったな、一」


 父さんが心配そうな、誇らしそうな笑顔で僕を見ていた。


 家族で泣きながら抱き合った恥ずかしい記憶はある。

 ……あれから僕は気を失ったみたいだ。


 父さん、母さん、二美、猪熊先生と咲さんの五人が見守るなか、僕はお昼ご飯を食べていた。

 みんな先に食べていたので、僕とハム助だけでご飯をいただいている。

 二美は敬礼や『いただきます』をするハム助を見てくねくねしている。

 ……僕は気を付けよう。


 ご飯を食べながら意識を失って今までの話を聞いてみて、今があのアップデートから一日過ぎた昼だとわかった。

 約一日ぐらい寝ていたのか……

 きちんと再生はしたはずだけと、やはり限界突破の影響かな?


 いや、意識があるだけでもありがたいのだ。

 身体を動かしてみても違和感はないみたいだし。

 ハム助も元気そうにヒマワリの種を食べている。

 再生様々だね。


「――――つまり、猪熊先生達は前もって渡からスマフロについて聞いていたのですか?」


「ああ。わた坊が変なこと言ってきやがったんで、いたずらかと疑ったんだが……

 まあ、わた坊ならもっと上手くやるだろうし、それからお前の様子も納得できるからな。いち坊は気付いてないだろうが、立ち上がる動作一つにしてもいっぱしのもんだぞ? 言葉は嘘をつけても体はな……」


 どうやら僕の身体能力が向上した関係で、体幹などが異常に鍛えられ動作の一つ一つが安定しているらしい。

 相談しにきたときの僕の雰囲気と動作を踏まえて考えて、渡の話を信じてみたとのことだ。


「ま、半分は騙されても良いつもりで行動しとったんだがな。後で探ってみたら、あのわた坊が本気で動いているじゃねえか。こりゃ本当に化け物が出てくるのかと、ツテも含めて用意しとったらあの状況ってわけだ」


「そうでしたか……」


 渡は僕の想像以上にいろいろサポートしてくれていたようだ。

 本当に感謝しかないな……


「予想よりも五日ほど早かったんで、準備万端とまではいかんかったがな。まあ、わた坊が言うにはきちんと準備ができなくて逆に良かったらしいぞ」


「えっ? それはどういう意味ですか?」


『それについては俺から説明しよう』


 渡の声が咲さんが持ってきたノートパソコンの一つから聞こえてきた。

 画面には久しぶりに見た、少し疲れた顔をした親友が写っている。


「……渡。ありがとう」


『いや、結果的にはまずまずだが……サポートどころか足を引っ張ったというのが現実だな。簡単に説明するとサポートが強力なほど、アップデート時の難易度が高かった。イチの難易度はプレイヤー内で上から三番目だったようだな。ちなみに上位二名の街は壊滅だ』


「えっ? そうだったんだ。……それでも、ありがとう。それでプレイヤーは何人ぐらいいたんだ?」


『確定ではないが全員で100名だな。その中で死亡が確認できたのが81名。行方不明者7名。生存者12名。一ノ宮一路も生存しているぞ』


「……そうか」


 亡くなった人には悪いが、一路君の無事を聞いて僕はほっとした。

 実力的には心配するのもおこがましいが……


『その一ノ宮一路だが、現在各国に兵器扱いされている状態だ。お前もな、イチ』


「えっ?」


『実際、国の一つどころか全世界の軍隊を相手にしても99%イチが勝つ。現実世界の攻撃が無効で、音速以上の速度で地形無視、ほぼ完全なステルス移動するんだぞ。どうやって戦うんだ?

 その上、毒や『ウイルス』持ちで、戦闘持続力もあり、結界のオマケ付きだ。正直なところ負ける奴が馬鹿だ。一路は論外だな』


 僕は驚き周りを見てみると、猪熊先生と咲さんは頷いて渡の意見に賛同している。


『つまりお前たちは危険物扱いされてるんだよ。英雄も大変だな? イチ』


 だから、これからは印象操作が必要なんだ。


 渡はそう言葉を続け、これからの計画を説明しだした。


 僕の印象は人畜無害の誠実な英雄様の方向でやっていくらしい……すでにその道のプロに頼んでいるそうだ。

 戦いの映像が全世界の空で放送されたので、火消しは無理とのこと。


 動画サイトでも人気の英雄なんだって……ダレだソレ?

 なんでもアップデートで損害を受けた100の街の中で、損害0は僕の所だけだったようだ。

 ネット上の動画を見せてもらいながら僕は、あの日世界で起きた出来事を知る。


 一路君は一瞬で倒していたが、多少建物に被害があったのと、逃げる時に転ぶ等の怪我人が数名いた。

 しかし一路君はその後90もの街を救っている。


 一路君の戦いはあまりに一方的な殺戮だった。


 超越鑑定と会話をしているのだろう。

 ときおり誰もいない空間に向かって会話をしている姿は狂気的で……

 つぶやく言葉は支離滅裂だった。


『昨日ここにも一路が来たんだぞ。妹が心配だからとすぐに帰ったがな』


「そうだったんだ。……一路君はなんであんな支離滅裂な言葉をつぶやいていたんだろ?」


『俺もその質問をしてみたが、本人はそんな言葉を言った覚えはないらしい。映像を詳しく調べたら、違和感のある場所が数ヵ所あった。だぶんあの映像は編集されているな』


 編集されてる!?

 あの男は何を考えているんだ?


「なんでそんなことを……」


『目的は分からんが、一路は悪魔の子と呼ばれている。世界中でな』


 渡も印象操作を頑張ったが、空に映し出された映像は悪意を感じる編集だった。


 一番多くの人々を助けた一路君が悪魔の子……


「……一路君に連絡しても良いかな?」


 そんな状況の一路君を放っておくことなんか出来ない。

 僕はスマホを手に取った。


『……その前に状況を聞け。思考が誘導、もしくは洗脳されている可能性がある。一路に対する世間の反応は異常だからな。

 ここにいる皆は先に一路の情報を渡していたからマシなんだが……一路に対する嫌悪感はある。俺もな』


「渡も、なんだ……」


『下手に庇うと悪魔の手先のレッテルを貼られるぞ。洗脳を公表していく方法もあるが、難易度の上昇がな……

 あの男がどんな未来を望んでるのかは不明だが、ろくなことにはならんはずだ。な、おっちゃん』


「うむ、あの男は八つ当たりであっても邪魔するものには制裁を与える性質だな。そして他人の不幸を楽しむ輩とみた」


『俺がお願いした心理系の先生方の評価も酷いもんだ。世界すら違う可能性がある中で、地球の心理学がどれ程アテになるかわからんがな』


 あの男はたぶん僕達を遊具や実験動物のように思っているのだろう。

 人も大勢亡くなっているんだよな……


『最終的に何をもってスマフロはゲームクリアになるのか?永遠に終わらないゲームだとしても、どうやって安全な状態までもっていけるのか?

 最悪あの男やスマフロ自体と戦う可能性もある。ゲームの力無しで、な』



 ………………



 部屋が沈黙につつまれる。


 スマフロの力を借りれば、僕1人の力でも全世界の軍隊に99%勝てるのだ。

 なら、スマフロを支配しているであろうあの男にこの世界の力で勝つ可能性は……


『一路に会う前に、あの男が何でそんな状況を望んでいるのかを考えておかないとな……無駄にあの男を刺激して強制的にラストバトルなんてこともありえるだろ?

 消極的に行動してあの男に飽きられても困るが、希望的な考えで動いて詰みってのもな……』


「……渡の予想ではあの男は何を望んでいると考えているんだ?」


 渡なら大まかにでも見当をつけているはずだ。


『そうだな……あの男についてはイチが目覚める前にも皆で話し合った。全て憶測になるが、後でイチの考えも聞かせてくれ。

 まず、世界征服や金銭、名声が目的ってことは無いだろう。そんなもん、あの技術と思考誘導でどうとでもなる。

 まあ、遊び半分で世界征服をする可能性はあるがな』


 確かにあれだけの科学技術? があれば、もっと効率的な方法はいくらでもあるだろう。


『スマフロ開始時の説明を素直にとればゲームを楽しめってことだが……信用できるか?』


「……正直難しい」


『ま、そうなるよな。

 あの男の言葉を全面的に信頼するのは俺には無理だ。

 だが、猪熊のおっちゃんいわく『好奇心に化粧するタイプではない』とさ』


「好奇心に化粧、ですか?」


 僕は上座に座り、お茶を飲む猪熊先生の方に体を向けた。


「うむ。あの男は自分が上位であることが大切なんじゃねぇかってことだ。だからこそつまらん言い回しをし、勘違いをした相手に優越感を得たがるってわけだ。そういう輩の言葉は信が薄い。

 ま、そのぶん好奇心は素直になっとる。上位にこだわるからこそ、好奇心に化粧をしたくないってこった」


 なるほど、強気でわがまま言えること自体が上位者の証明になるのか。


『その意見には俺も賛成だ。昔っから神様はわがままなもんだからな。で、その神様のお気に入りがイチ、お前だよ』


「……わがままな神様のお気に入りになる人の話って、ほとんど不幸になるんだけど?」


 気に入られても苦労人生、途中で飽きられたらアウト……

 神様についての本でも読むべきだろうか?


『とりあえずイチの不幸な人生は置いといて、神様が何故イチを気に入ったかだが……これは簡単だ。イチをいじると楽しいからだな』


「はぁ!? なんだよそれ!?」


『いや、これは満場一致で即決したぞ。実際1分経ってなかった』


 僕は驚いた表情でみんなを見渡す。


 腕を組んで頷く人、優しく微笑む人二人、ばつが悪そうに頭をかく人、そして下手な口笛を吹きながら明後日の方向を向く妹がいた。


「…………」


『ま、それ以外にもダンジョン攻略数が2位。レアな特殊能力持ち、シスコンなど探せばいくらでも出てくるが、最初のダンジョンであの男に会ったんだろ?「君は合格だ」だったっけ?』


「ああ、あとシスコンじゃないからな」


『あのイベント他のプレイヤーでなかったみたいだぞ。一路を含めて個別に9人確認したから、まず間違いない。

 つまり最初のダンジョンに入る前から、イチはお気に入りだった可能性が高いってことだ』


「……そうなんだ」


 ダンジョンに入る前からってなんか特別なことしたか?

 僕はスマフロをプレイし始めた頃を思い出しながら考えてみる。


『いっとくが全部憶測だからな。好きの反対は無関心ってやつだから、イチに興味があるのは間違いないだろう。

 ヤンデレなら困るが、普通なら興味深い存在の言動には心を動かされやすい筈だろ?

 つまりスマフロを制御している側は、イチの言動次第で恵みの神様になったり滅びの悪魔になる可能性があるってことだな』


 なんてこった……


 いつの間にか僕に重大な責任がおぶさって来ているようだ。

 その重圧を肩に感じ、僕は思わずうなだれるのだった。


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