間章 ゲームをしない人の話
アップデートが終わったその日の夜、一人の男がパソコンの前で座っていた。
ディスプレイが十数台並ぶその部屋は、まるで警備室のようにカメラの映像を流している。
男の目の前にあるディスプレイを除いて……
カタカタカタカタ……
キーボードの鳴る音と、パソコンを冷やす為のファンとエアコンの音だけが聞こえるその部屋の片隅には、黒い……
闇よりも黒く……まるで小型のブラックホールのような球体に黄金の目がついている生物がいる。
それは置物のように固まっているが、他の世界では生物は絶望という名で……ランクAを越えたランクオーバーのモンスターだった。
「……まさか、システムの壁を越えるとは、な」
男は一人呟いた。
「おかげで、エラーの修復が間に合わんぞ……。ま、とりあえず圧縮して固めとくか……」
男の部屋の片隅に、手のひらサイズの白く光るドラコンが現れる。
人形の様に固まって……
カタカタカタカタ……
夜がふけていく……
部屋中に増えていったモンスター達は、いつのまにかその数を減らしていき、あの黒い球体だけになる。
「……あとは、これで……」
そのランクオーバーも、キーボードの音に合わせてその姿を消滅させた。
「……次はアップデートによる世界情勢と動きだな」
男は隣のディスプレイを見ながらネットワークに忍び込む。
それから数十分後……
正面のディスプレイが輝き、一人の鎧を着た美女が現れた。
男は平然と美女に向かってこう言った。
「……どうだった?」
「……才能は。……いや、精神力は充分に……」
男はくっくっくと笑うと、椅子から立ち上がり窓に近付いた。
そして、カーテンから少し外を覗き「……そうか」と呟く。
「……正気とは思えん!! 可能性など……」
男は手のひらを美女に向け、言葉を制した。
「……上手くいけば、お前の世界を復活させてやる。黙って働け……ハ……いや、亡国の姫君スマール・ディ・フローディア様か……くっくっく」
「……くっ」
男はカーテンを閉め、笑う。
「お前は……皆を楽しませてくれるんだろ? イチ」
日は沈み、また昇る……
アップデート後の世界はその夜明けを迎えるのだった……




