あの空の下で
神護結晶に『再生』と『限界突破』をかけながら、僕は燃えたぎる赤い地表を削り、消滅させていた。
僕が通った後の道は白く光り、元の大地を覗かせるが、瞬く間に燃えたぎる赤い大地がまた浸食する。
燃えたぎる赤い大地は所々でマグマ巨人を形成し、その数を増やしていった。
このままでは僕より結界が持たないぞ!!
時間が経つにつれて、じり貧になっていく……
勝負だ!!
僕は神護結晶に『巨大化』×『限界突破』×『限界突破』を発動して、『加速』×『限界突破』×『限界突破』を発動すると、『限界突破』を自分にかけて走った。
2回目……『限界突破』が魂を傷つける。
『再生』
……3回目、魂が削れ激痛が走る。
『再生』
……4回目、魂にヒビが走り地獄の業火に身を落とす。
『再生』
……5回目、……僕は走った。
赤い世界を消滅させながら……
時間の感覚が解らなくなってしまったが、赤い世界が確実に小さくなっていくのを感じる。
……僕はどうして赤い世界を消滅させているのだろう?
……僕は誰だ? なぜこんなに苦しいんだ?
『限界突破』
誰が僕で、何をしてる?
赤で倒す?
……守る?
……赤は嫌だ。
消そう……
『限界突破』
……赤……消……え……
赤い大地が神々しい光に包まれる。
地表の全てを白金の光で覆い隠した光の筋は、光る大地から赤く染まる空へと駆け昇った。
誰もが勝利を確信したそのとき、赤く染まる空から黒い光が降り注ぎ、光の筋を浸食する……
光の筋が消え、一人の男が空から堕ちてきた。
人々は絶望し、命を諦めた……
一人を除いて
「あきらめるなぁ!! お兄ちゃんは……勝てるよおぉぉぉ……!!」
……暗い
……僕は……負けたのか
ごめん、父さん……
ごめん、母さん……
ごめん、二美……
ごめん、みんな……
もう、力が残ってないや…………
眠い……僕はもう消えるよ……
ごめ……
『……るなぁ』
…………
『……めるなぁ!!お……』
……ん
『あきらめるなぁ!! お兄ちゃん……』
……え?
『あきらめるなぁ!! お兄ちゃんは……勝てるよおぉぉぉ……!!』
二美!? ……僕が……勝てる?
もう、無理だよ……
でも…………
そうだ……
たとえ世界中の人があきらめたって……
僕自身があきらめたって……
あきらめられないっ……!!
二美が勝つと信じているんだ!!
絶対にあきらめられないっ!!
僕は目を開き、自分が落下していることに気付く。
耳の横ではカラカラと音がして、火傷で片足を動かせないハム助が必死に走っていた。
ハム助……
赤く染まる空全体から、赤黒いマグマが流れ落ちてくる。
……見てろ、二美。
僕は負けない!!
移動距離は残り0.4km……
僕は『再生』に『限界突破』を発動する。
『システムエラー その行動は不可能です』
『再生』×『限界突破』×『限界突破』魂が傷付く。
僕は傷付いた魂で目の前の巨大な壁を見上げた。
『システムエラー その行動は不可能です』
……×『限界突破』魂が削れる。
僕は削れた魂で、目の前に立ち塞がる壁に体当たりをした。
『システムエラー その行動は不可能です』
……×『限界突破』魂にヒビが走る。
僕はヒビが走った魂で壁を押した
『システムエラー その行動は不可能です』
……×『限界突破』魂が割れた。
僕は割れた魂で壁を叩く。
『システムエラー! その行動は禁止です』
……×『限界突破』魂が粉々に。
僕は粉々になった魂で壁を削った。
『システムエラー!! その行動を中止しなさい!!』
……×『限界突破』魂が霧になる。
僕は霧になった魂で壁を乗り越えようとした。
『システムエラー!! システムエラー!!』
……×『限界突破』魂が……半分消えた。
…………僕は半分消えた魂で壁を突破しようと試みる。
……半分、通った!!
『システムエラー!! システムエラー!! だだちに中止してください』
……×『限界突破』魂が……消……え……
僕が……消える……
自分が消えるのは凄く怖い……
でも、僕の世界が消える方が……
大事な人達を失って……
それを「僕は頑張った」って……
「限界までやったんだ」って……
一生自分に嘘をつき続ける方が僕にはずっと怖いんだっっ!!
僕は壁をすり抜け、目的のものを包み込んだ。
『移動距離』×『再生』
ーーーーーーーーーーーーーーー
お兄ちゃんは白金の光になり、赤い大地を浄化した。
大地から伸びる光の筋が赤く染まる空へと突き刺さる。
しかし、その前に黒い光が白金に輝く光の筋を浸食した。
黒い光が晴れると……
お兄ちゃんが落ちてきているのが見える。
頑張れ、なんて言えない。
きっと限界を越えて頑張ってる……
負けるな、なんて言えない。
お兄ちゃんは負けるつもりなんか無いのだから……
守って、なんて言えないよ……
私は充分に守って……貰ったよ……
私は気が付けば叫んでいた。
「あきらめるなぁ!! お兄ちゃんは……勝てるよおぉぉぉ……!!」
なんて、無責任なんだろう……
なんて、自分勝手なんだろう……
確信なんか一つも……でも、勝つ!!
勝てるんだよね、お兄ちゃん!!
私は目を閉じると両手を組んで、神に……
いや、お兄ちゃんに祈りを捧げた。
組んだ両手がぎちぎち音をたてるほどに、両手を握りしめ、ただひたすらに祈る。
……そのとき、世界の空気が変わったのを感じた。
目を開けると落下していたお兄ちゃんは空中で停止し、体を震わせている。
髪の色が元の黒色に変化し……
そして『再生』が始まった……
『「うおぉぉぉ△□▼◇▲……っっ!!!」』
お兄ちゃんから発せられた声を越えた雄叫びは、不思議な光を纏い……
大地を……
街を……
人々を……
『再生』する。
赤く燃えたぎる大地に侵され、神々しい光に包まれ浄化した、何もない地表に道が、木々が、草花が、家が、ビルが元通りの姿を現した。
学校内の怪我人も回復しており、学校の中心にある黄金の石もその輝きを取り戻す。
人々はその光景を目の前にして全員その場で息を飲んだ。
雄叫びが終わり、お兄ちゃんの周りに巨大な白銀の龍達が出現すると、お兄ちゃんは白金に光る巨大な光になり天へと駆け昇る!
赤く染まる空から落ちてきていたマグマはすでに消失し、駆け昇る光と龍の群れは赤く染まる空へと続く光の道を作り出す。
赤く染まる空はうごめき、自身に向かう脅威へと黒い光を浴びせようとした!
『「△□▼◇▲……っっ!!!」』
再び発せられた雄叫びによって、黒い光は発射していない状態に『再生』させられる!!
赤く染まっていた空に巨大な光と龍達が突き刺さり、空を光で埋め尽くした……
空から黒い球状の玉が逃げ出して、学校の校門前にコロリと転がる。
全てを元通りに『再生』したお兄ちゃんは、それを追いかけ空から降りてきた。
そして、その黒い玉に足を掛けると一言呟く。
「……お前は消えろ」
お兄ちゃんの足の下にある黒い玉は、音を立てて割れると光の霧になる。
周囲は静寂に包まれていた。
……その数秒後、空は青さを取り戻し、そこには『アップデート完了』の文字が表示された。
…………人々の歓声が爆発した。
街を揺らす程の歓声。
命あることへの喜びが木霊し……
親しい人達の生存に涙し……
笑顔が街中に伝染する。
みんな……理解したのだ。
お兄ちゃんが……
みんなが勝利したことを……
お兄ちゃんがこちらに向かって歩いてくる。
あのマグマ巨人の熱のせいか、秋なのに空には大きな入道雲が出来ていた。
あの夏の日を思い出させるような……
大きな……大きな入道雲が……
お兄ちゃんは私に近付き、手を繋ぐと空いた手で私を優しく抱き締めた。
「……助かってくれて……ありがとう……っっ」
「!! ……あっっう、う……」
お兄ちゃんの馬鹿!!
私のセリフを……
しかも、なんで泣いてるのよ……
そんなんだから……私も……
私達は二人で……
家族四人で抱き締め合って泣き出した……
お兄ちゃんの手は、あの夏の日に手を繋いで歩いたときと同じで……
暖かく……心から安心できた……
第ニ章へ続く




