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赤い世界

 転移させられたことを理解した僕は素早く地図情報を確認した。

 地図画面にはブラジル沖の大西洋が表示されている。

 ……僕は日本の裏側に転移させられたようだ。


 素早く転移札を取り出し使用するが、目の前の画面に『アップデート中により使用不可能です』の文字が表示される。

 『限界突破』をかけても無理な事を確認した僕は、海に向かって『無敵モード』で突っ込んだ。


 地中こっちの方が近い!


『加速』×『限界突破』×『限界突破』、『加速』×『限界突破』×『限界突破』……


 1秒を10秒に……


 10秒を100秒に……


 時間の流れを追い越すように僕は地球の内部を突き進む。

 あの赤黒い巨大なマグマが最悪の未来を作り出す前に……

 僕は魂をすり減らしながら、暗闇の中を全速力で加速した。



 ーーーーーーーーーーー


 赤い災害はこちらに向かって移動している。

 その巨大な体のせいでゆっくりに見えるが、意外と速度が速いようで三分もしないうちに学校の前までやって来た。

 マグマのような体の大きな……50~100mぐらいの巨人が校門前に着き、学校を囲む薄い黄金色の膜にへばりついた。


 コオォォォゥゥオオオ……


 人々は叫び、なげき、流れを作り出す。


 マグマ巨人から出来るだけ遠い場所に行こうとする人。


 学校の中心にある黄金石にすがり付くように集まる人。


 川の流れに耐える岩のようにその場でうずくまる人。


 人の流れの力は強く、私はあっという間に流されて母さんと……

 そして父さんと離ればなれになってしまった。


 近くにいた友人の瞳の姿も見えない。


 ……校舎裏、校門の反対側まで流された私は、マグマ巨人の伸ばされた腕を見た。

 燃えたぎるその赤黒い腕は校門から校舎裏まで伸びて、千切れる。


 えっ? っとみんなも思ったのだろう。

 流れが止まり、みんなが千切れた腕に注目した。


 千切れた腕はうねり、膨脹し、新たなマグマ巨人を作り出す。

 みんなが絶望する中、誰かの呟きが聞こえて来た。


「……もう……終わりだ……」


 振り向くと空中に浮かぶ画面を両手で掴みながら、膝をつく男の人がいた。

 その絶望が伝染したのか、周りの数人も膝をつき、嘆きの言葉を口にする。


 「なんで自分達が……」


 「なんでこの場所を……」


 「なんで……」


 ……それから何回も人波に押され、もみくちゃに移動した私はある事に気付く。



 あのマグマ巨人、私を見てる?



 試しに少し移動すると、やっぱり私の移動に合わせて攻撃方向を変えた。

 ……二美ちゃんの魅力は種族を越えちゃったか。

 ため息を吐きながら遠くの黄金に輝く大きな石を見ると、初めの輝きはすでに無くなり所々ヒビが走っていることが確認できた。


 ……一応、準備をしとこっか。


 主役はお兄ちゃんでヒロインは私ってとこかな?

 出演料はどこで貰えるんだろ?

 私は車椅子を操作して校門の方に進む。

 ありがたいことに、いま私がいる校門方向は人がいないので移動が楽だ。


 何てったって怪物の目の前だもんね。

 いや~暑い暑い。

 熱い人も別に嫌いじゃないけど、熱すぎないか?

 キミたちは?


 近くで見てみると、校門を境目に地面が熔けて沸騰している。

 つまり、校門の外はとろけるほどの熱さなんだろう。

 一般人の二美ちゃんならすぐに昇天しちゃうよ。


 ……そろそろ登場しても良いんだよ? お兄ちゃん。

 遅めの登場は最近の流行りじゃないんだぞ。

 ピンチもなしに一撃で敵を倒すのも人気のパターンですよ~。

 さあ、登場してみよ~


 ……いでよ、我が守護戦士よ!!


 ……だめか。


 いや、最後まで私は諦めない。

 物理がだめなら精神にダメージを与えてやる! っていつもなら悪口を散々言ってやるとこだけど……


 あの眼鏡、シャレが通じそうじゃないからなぁ~

 下手に怒らして、遊びが本気になっちゃうと火傷どころじゃないよ。

 ホント、精神が子供の人には危険なものは持たせられないね。


 いつの間にか、校門前に4体に増えたマグマ巨人が集まっている。

 追っかけ御苦労さまだ。

 サインあげるから帰ってくんないかな?


 だめだよね……

 手に持つ前から消し炭だよね。


 後ろの方でパリパリと石が割れる音が聞こえてくる。

 ついでに悲鳴も……


 目の前の追っかけは黄金の膜を壊し、私に触ろうと頑張ってる。


 間に合わなかったかぁ……

 それも仕方ないか。

 あのお兄ちゃんが手を抜く筈がない。

 一生懸命やった結果なら仕方ない……


 仕方ないよ。


 あ~あ、みんな怒るだろうな。

 激おこだよね。

 ぷんぷん丸でもなんでもいいから、何とかしてくんないかな……


 ごめんね。


 ……いいや、ここは『ありがとう』で最後を締めよう。



 私は車椅子の先を校門の外に少し出す。

 車椅子の先は一瞬で蒸発し、後ろの方から父さんと母さんの叫び声が聞こえてくる。

 その声が近付く気配を感じながら私は「ありがとう! みんな、ありがとう!!」と、精一杯の声を上げ、車椅子を前に進ませた。


 足先が無くなり、車椅子が前に傾く、脳内物質がお祭り騒ぎなのか痛みは感じない。


 どうか、この行為に意味がありますように……




 私は……校門から学校に少し入った所に戻っていた。

 無くなったはずの足先や壊れたはずの車椅子も元通りになっている。


 ……ゆ……め?


「後ろに下がってろ! 二美!」


 聞きなれた声が聞こえる……

 見なれた背中が見える……

 髪の色は真っ白になってるけど……


 ぎりぎりは流行らないって……

 流行りのアニメに詳しくないお兄ちゃんなら仕方ないか……


 そう、仕方ないよね!


「やっちゃえ! お兄ちゃん!!」


 片手を上げたお兄ちゃんはでっかい光の槍になって、マグマ巨人を消滅させる。


 私は父さんと母さんに抱き締められたまま、お兄ちゃんの姿を目に焼き付けていた。


 ーーーーーーーーーーーーーー


 神護結晶×『限界突破』


 僕は大きな光の結晶を体の周辺に発生させると、自分ごとマグマ巨人に突っ込んだ!

 マグマ巨人の体が光の結晶に触れた部分から消えていく。

 僕は一欠片も残さないように、丁寧にマグマ巨人を消滅させた。


「ふぅぅぅ……」


『ぎりぎり間に合ったな、イチ。狙ってたか?』


 胸元から不謹慎な声が聞こえてきた。


「……そんなわけないだろ。地球の裏側だよ? 一杯一杯だよ」


『まだ空が赤いままだ。移動距離は?』


 僕は痛む体を無理矢理動かしながら、渡の質問に答える。


「300kmを切った。正確には287.5km」


『……地球を貫くのは無理があったようだな。何か他に隠し玉はあるのか?』


 僕はポーションを飲みながら走り、ハム助にも新しいポーションを渡した。

 少しはマシ……かな?


「今さっきのがあと一回だけ……マグマ巨人は増えるんだね」

 

『腕から分裂したのは確認したが、歩いた足跡からも分裂可能なようだな。鑑定結果は?』


 僕は龍弾石や鬼弾巨岩を打ちながら、マグマ巨人が大きくなる前に消滅させた。


「ランクA ガイアス・ギ・ライアード 弱点の核は全身。核が集まって個になってる。ちょっと移動距離を使うけど精密鑑定やる?」


『ああ、必要経費だ』


 僕は『カウントダウン』を発動し、マグマ叩きを繰り返す。

 そろそろ打ち出す石に不安を感じ始めたとき、強化した『鑑定』を発動した。


「!? ……こいつ、地下に根を伸ばしてるぞ! 範囲は120km! だんだん広くなっている!!」


『…………『-』『ウイルス』『拡散』』


 僕は返事をするより早く『カウントダウン』を発動して『-』の感染弾を打ち込んだ。

 次々とマグマ巨人が地面から現れ、大地を赤色に染める……


「駄目だ! 感染しない!」


『直接『-』を発動させてみろ。体の表面に結界。指定は『熱』を』


 僕は熱を防ぐ結界を身に纏うと、赤黒い体に触れながら『-』×『限界突破』×『限界突破』を発動した。


「『-』が付加できない!」


『状態異常は無効化か? ……『圧縮』を発動』


 僕は『圧縮』を発動するが……変化がないぞ!!


「駄目だ。効果なし」


『……神護結晶を……いや、まて……増殖が早すぎる。消滅させたそばから復活するぞ………………『カウントダウン』だ。魔弾石の数は?』


 僕は『カウントダウン』を発動し、魔弾石の数を確認する。


「魔弾石は628個だ」


『……これでネタ切れだ。魔弾石314個まとめて『-』『増加』『ウイルス』『コンボ』『限界突破』を発動。上空から半径140kmで満遍なく撒き散らしたら『+』を『加速』して発射』


 僕は『カウントダウン』を重ねて発動すると上空に駆け上がり、『-』弾を赤い地面に満遍なく撒き散らす。

 その三秒後、『加速』した『+』弾が『-』弾を追いかけ、重なり、神雷を発生させた!


 大地は蒸発し、白い煙が大地を隠す!

 その余波で学校のガラスがほとんどが割れた……


 大地を覆い隠した白い煙が晴れると……

 そこには赤く燃えたぎる大地と産声を上げるマグマ巨人の姿がある……


「……渡、ど『撤退しろ』


 胸元から敗北を伝える言葉が届く。


「……皆を連れて、どこに行ったらいい?」


『一人で撤退だ。二美ちゃんを生け贄にできるなら策はあるが……無理なら諦めろ……』


 二美を……生け贄に?


 諦めろ?


「ごめん。その作戦は無しだよ……一人で撤退もね」


『……そうか、ゲームオーバーだ。……最後の言葉、残しとくか?』


 僕は振り向き、二美や父さん、母さん……

 大勢の人々の顔を見た。


 僕が負けたらみんなが……

 僕にはこれからも一緒に笑って過ごしたい人達がいるんだ!!

 今が無理なら……

 戦いながら強くなってやる!!


「……またね」


『…………ああ』


 手持ちの石も無くなった僕はハム助を胸元に入れると、大きな光の結晶を体の周辺に発生させ、赤く燃えたぎる世界へと突き進んだ……


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