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ヒーローと赤色の災害

 

 黄色い空の中心が赤色に染まり、その周囲が鮮やかなオレンジ色に変化し始めているころ、僕は自分の家付近を走っていた。


『今のところ怪我人はいるが死者は確認できない。ポーションもある。良かったな、英雄』


「……まだ、それ続けるのか?」


 空には僕や猪熊先生達の活躍がダイジェストで映し出されている。


『避難場所は黄色を倒した人達に結界石を購入させて増加&強化中だ。計算では少し余裕がある。後は赤色だな』


「……来るよ」


 黄色い空に広がりつつある赤色から、赤黒い稲妻が落ちる。

 地図上に10個の赤マークが現れた!


「10匹!こっちに来てるぞ」


『全員、鷲のような人タイプだ。転移、もしくは縮地で移動。速い! 『無敵モード』だ! イチ!』


 僕は地図上でも速さを感じる赤色を見て、既に強化持続タイプの『無敵モード』を発動し終わっていた。

 画面を3つとも戦闘用に切り替えたとき、僕の胸から鳥の足のようなものが生えた!

 僕は素早く振り向くと、また背後から体を斜めに裂くように長い爪が通りすぎる。


 速い!


『加速』×『限界突破』×『限界突破』


 強い痛みを感じながら僕は振り向き、人影を確認すると同時に『加速』した龍弾石を発射した! が、また消える!

 いつの間にか10体の鷲人間が僕の周りを囲んでいた……


『じょょょ……ぉぉぉきょょょ……』


 渡の酷く間延びした声が聞こえている。

 鷲人間がこちらの様子を伺っている間に鑑定をかけた。


『ガルシャアン・ゲル ランクB……』


 初のランクBだ。

 『予知』と『縮地』、『省略』持ちか……


 僕は『結界』×『限界突破』×『限界突破』を範囲1kmで発動する。

 指定は鷲人間と『縮地』だ。

 その結界に『圧縮』を発動。鷲人間は逃げようとするが、結界が邪魔をして逃げられない。

 僕は中心部分に向かって『龍弾岩』×『増加』×『限界突破』を発射した。


 青白く光る龍の群れが鷲人間に襲いかかり、光る霧になってゆくのを横目で見ながら地図を確認する。


 赤色は……ない。


 『無敵モード』を維持しながら黄色い空を見上げると、赤色の空が一端収縮し、バッと広がると空一面を血の濁ったような赤色に変えた。

 その赤黒い空の中心から巨大なマグマが降りてきているのを見ていた僕は、足元の白い光に気付かない。


『イ……』


 渡の呼ぶ声に反応して胸元を見た僕は、海の上空を落下している……

 僕が誰かに転移させられたことを理解すると、首筋から身体中へと血が引いていき、僕は体を震わせた……



 ーーーーーーーーーーーー


 空から降りてきた赤黒い巨大な人型の災害……

 その災害は地面に降り立つと、大気が震えるような産声を上げる。


 コオォォォゥゥオオオ……


 谷に風が吹き下ろし、岩が鳴くような悲しげな声。

 しかし、その音はあまりに大きすぎて……強すぎて……

 私達の耳と心を破壊する。


 周りの人達の絶望の叫びが聞こえてくる。

 悲鳴が街中に鳴り響く……

 お兄ちゃんへの怒りと失望が木霊こだました。

 私達はヒーローを失ったエキストラだった……


 私のお兄ちゃん、一文路一は結構重度のシスコンだ。

 まあ、私が5才の頃に起こした事件が大きな原因なんだけど……

 我ながら二美ちゃんの魅力は罪深いね。

 そう…… 罪深い……


 あの時の記憶は所々残っている。

 お兄ちゃんと手を繋いで入道雲の下を歩いた道のり。

 一人でドキドキしながら登った虫の木。

 そして、熱く強く握りしめられた手とお兄ちゃんの叫び声。


 ……あと、病室に泣きながら現れたお兄ちゃん。

 お兄ちゃんがあんなに泣くなんて初めてだったから、私もびっくりして泣いたんだよね。

 ……お兄ちゃんはあれから変わった。


 まだ5才だったから何がどう変わったのかは詳しく分からなかったけど、変わったことだけは覚えてる。

 探検家だった将来の夢もお医者さんになり、喧嘩なんかしたことないのに、私が馬鹿にされるとすぐに助けに来てくれた。

 自分より大きな人にも一歩も引かず立ち向かうお兄ちゃんは、私の自慢のヒーローだった。


 中学二年生になった私は、そんな頑張ってるお兄ちゃんの姿を見ていて腹が立った。

 お兄ちゃんが私を幸せにするといった仮面を被り、素顔を見せていないように思えて仕方なかったのだ。

 本来のお兄ちゃんの可能性を無くし、重石にしかならない自分が嫌いになった。

 ……惨めになった。


 そんな私はお兄ちゃんから巣立つことを決める。

 お兄ちゃんを妹思いの優しいヒーローから重度のシスコンに変化させ、そのまま無理矢理に妹離れをさせてやる!

 そう心に誓ったのだ。


 私はこの身体……

 いまの私自身でも幸せであること、幸せに成れることをお兄ちゃんに見せつけることを考え、私の幸せな未来を想像した。


 その答えが建築家になること。


 そうと決まれば本気でやってやろうじゃないか。


 私は私なりに頑張った。

 将来の目標をみんなに宣言し、高校も美術や建築系の仕事に取り組むOBが多い所を選び合格。

 みんなも応援してくれて、お兄ちゃんも世話を焼きすぎるほど応援するので白い目で追い出して……


 とても楽しかった。とても幸せだった。


 だけどお兄ちゃんの目標は変わらないまま……

 これはこれで良いのかなって思い始めたとき、位置情報ゲームの話を聞いて、コレだ! と感じてお兄ちゃんに無理矢理やらせてみた。


 結果は成功で失敗。

 お兄ちゃんは始めは楽しそうにしてたけど、途中から悩んでいた。

 学校を休むことを宣言したあの日……

 きっとお父さんに反対されてもお兄ちゃんは自分の決めた事をやっていただろう。

 そんな目をしていた……

 お兄ちゃんが誰かを助けようとしてるときの目だった。

 自分のことは後回しにしそうな目だった……


 お兄ちゃんが家に帰らなくなって、みんな凄く心配した。

 連絡も繋がらないし……

 渡さんもどこにいるのか分からない。

 みんな疲れて……

 みんな苦しくて……

 お兄ちゃんは馬鹿だよ……


 渡さんから連絡がきて、お兄ちゃんを家に帰したいから協力してくれって。

 当然、みんなで協力したよ。

 聞きたいことは山ほどあるけど、あとでお兄ちゃんを吊し上げればそれでいい。

 お母さんを残して私は学校へと向かった。

 楽しい未来を夢描いて……


 それで空に眼鏡男が現れた。


 ……お兄ちゃんは本当に馬鹿だ。

 みんなを守るため、絶対に無理を……

 無茶をしたはずだ。


 あんなに怖い化け物に立ち向かうお兄ちゃんはヒーローみたいだけど、本来のお兄ちゃんは恐がりなんだよ。

 『命を大事に』が合言葉の草食系。

 護身術だって逃げることと、守ることだけは褒められる人。

 それがお兄ちゃんなのに……


 化け物をあっという間に倒していくお兄ちゃん。

 たぶんバカみたいに努力したんだ。

 お兄ちゃんはやると決めたらやり込んでしまうから……

 自分を二の次にして突き進む人だから……


 現れた敵を一瞬で倒していき……


 空を覆い尽くす黒い絶望を神々しい雷で一蹴して……


 信じられないスピードでお兄ちゃんの体に穴を開けたモンスターを、青白く輝く龍達で消し去ったヒーロー。


 その姿を空に映し出された映像で見ているみんなは……

 

 歓声を上げ

 

 溢れる興奮を叫び


 応援と祈りの言葉を捧げる。


 お兄ちゃんはみんなのヒーローになってしまったのだ……



 お兄ちゃんが突然に消え、空から現れた赤色の災害がこちらを見る。

 その顔らしき部分が一瞬光ると世界は白色に包まれた。


 ビィィィィィィ…………


 無機質な音が鳴り響き、白の世界は色を取り戻す。

 私達が見たのは赤色の災害と私達の学校を繋ぐ道だった。

 

 何も無い道。


 今さっきまで存在していたはずの家やビル、道路すら消滅している。

 この黄金に輝く大きな石が守ってくれなかったら、きっとこの場所も……


 私は隣で立つ父さんと母さんの手を強く握った。


 赤色の災害はこちらに向かってゆっくりと、確実に移動しているのが見える。


 学校はパニックに包まれた……

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