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黄色が混じる空の下で

 青紫色だった空に黄色が混ざり始めて数瞬後、街の中から聞き覚えのある咆哮が響き渡る。


 グォゥォゥォォォォオ!!


 『東に3Km付近、熊怪獣』


 「了解」


 僕は地図画面が表示する黄色のマークを目標に『縮地』×『限界突破』で移動した、と同時に右手に現れた半透明の槍のような武器で熊怪獣を真っ二つにする。

 光の霧を確認するより早く渡の指示が次の目標を伝えた。


 『南5Kmに蛇、そこから南西3Km岩巨人、西6Km……』


 僕は返事もせずに移動、撃破を繰り返す。

 途中でお化け亀の首を切り落とす猪熊先生や、頭に槍が貫通して光る霧になっていく炎蛙と、すぐ側で佇む咲さんがいた。


 ……うん。


 時折、破壊された街並みと傷ついた人々の姿が見える。

 余裕があるときは、傷ついた人に向かってポーションを投げつけた。


 「……僕の手は……広くない」


 自分に言い聞かすように一人呟く。


 『……東9Km角蜘蛛、南東7Km……』


 青紫色だった空はいつの間にか黄色の空に侵食され、暗くくすんだ緑色に変化していた。


 『……北18Km棘饅頭、東20Km骸骨巨人、少し距離と時間の間隔が開いてきた。街中でもないし、人もいない。『縮地』の使用は禁止。走って移動距離を貯めろ』


 「了解」


 僕は『限界突破』を足に発動すると、光る霧を背に北に向かって走る。


 『確定ではないがイチの家から螺旋状にモンスターが出現している。頭に入れて走っとけ』


 「わかった」


 徐々に黄色モンスターが出現する勢いも衰えてきて、渡と話す余裕も生まれる。


 「赤色……来るかな」


 『まず間違いなく来る。移動距離は残しとけよ』


 モンスターを倒し、移動する度に暗い黄緑色から黄色に変化している壁に近付いている。

 僕の家から150km付近まで近付いて来たようだ。

 僕は三日間で手に入れた特殊能力を鑑定して、渡に伝えていた。


 『……南に58km電気ナメクジ、周囲に人はいない。やはり螺旋状だな。先回りして避難は終わっている。さっさとっ! ……移動しながら聞け、空にイチの姿が写ったぞ』


 「えっ?」


 渡の指示通り、移動しながら空を見ると僕が黄色モンスターを倒し、人にポーションを投げている映像が流れていた。


 「……どうして」


 『……確定ではないが楽しんでいるんだろう。速度が少し落ちてるぞ』


 僕は全力疾走に戻すが、頭の中では先程の言葉を反芻していた。


 「楽しんでいる……のか? この状況を?」


 『ああ、エンターテイメントだな。明日には街の英雄だぞ。イチ』


 「……ハハハ、とんだ道化だよ」


 頭ではわかっていた。

 いや、わかったつもりだった。

 あの男がこの状況を楽しんでいると……


 でも、実際にこんな状況を体験すると……

 体の奥から熱いものが込み上げる。

 それは僕の体の中で収まらずエネルギーになり、言葉となって吐き出された。


 「うぅぅぅぉぉぉおおっっ!!」


 僕は全力疾走を越えて走り、敵を潰す。

 あの男の顔を思い描きながら……


 『次で100体目だ。倒したらイチの家まで戻れ……少しは落ち着いたか?』


 「……ごめん。ちょっと黄色に八つ当たりしちゃったね。ご馳走さま」


 僕は光る霧になっていく巨大雪兎を背に、反省と礼の言葉を残した。


 『……まあ、気持ちはわかる。イチをからかうのは面白いからな』


 「なんでアッチの気持ちに共感してんだよ!」


 ここは僕を慰める場面だろ!


 『くっくっく、おっ! 空を見てみろ。カッコいいぞ! イチさま~』


 「……最悪だ。最悪だよ……」


 僕は全力疾走で家に向かいながら、うなだれていた。


 『これはイチの秘蔵ファッション写真集も売れるか……イチ、空を見ろ』


 「渡……一緒に消えたいの?」


 僕はあの男より渡を倒すべきではないかと悩んでいた。


 『本気で空を見ろ。大軍のご到着だ』


 「え? あっ!!」


 黄色の空が大量のモンスターの影で黒色に染まっていく。

 『遠視』を発動するとランクDと、ごくたまにランクCの姿も見えた。


 『……いけるか?』


 「……たぶん」


 僕は思わず足を止めて、黒色に染まった空を見上げていた。


 『使う特殊能力は『-』『増加』『ウイルス』と『予約』『拡散』『加速』。最後は『+』『増加』『コンボ』だ。石は魔弾石』


 『『予約』は『ウイルス』に、条件は敵との接触。『カウントダウン』10秒で発射。『限界突破』はいつも通りで』


 「了解。『カウントダウン』発動」


 10秒のカウントダウンが始まると、僕は2秒後に『カウントダウン』を重ねて発動した。


 ……少しずつモンスターの姿が大きくなってきている。

 あと10秒が長い……

 モンスターが肉眼で判別できるほど近付いて来たとき、一発目が発射された。


 『-』×『増加』×『ウイルス』×『限界突破』を魔弾石に発動。


 『予約』を使い『ウイルス』に『拡散』×『加速』×『限界突破』を発動して魔弾石を発射。


 その2秒後に魔弾石に『+』×『増加』×『コンボ』×『限界突破』を発動して発射。

 ついでに魔弾石を適当に発射しておく。


 『+』と『-』は発動したもの同士で引き合う力が生まれ、当たると凄まじい雷が周囲に発生する。

 その『-』を帯びた魔弾石を『増加』で増やし敵に当てた。

 

 『ウイルス』で敵に『-』を感染させると『拡散』で周囲も感染、それを『加速』する。

 あっという間に『-』の感染を広げる敵に、『+』と『コンボ』を搭載した魔弾石が牙を剥く。


 黒色に染まった空は、激しい光に覆われた。

 雷鳴が地面を揺らし、あまりのエネルギーに髪の毛が逆立つ。

 神雷、神の裁きとも呼べるようなその稲妻によって、空は黄色に戻っていた。


 その中心から滲み出る赤色を残して……


『コンボ』は連続して敵を倒すと、威力や効果にボーナスが付く特殊能力です。

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