青紫色の空の下で
青紫色に染まる空。
その空に写し出された学者風の男は、スマフロの説明を始めていた。
『……では、スマフロを楽しむ為のルールをいくつか教えるので良く聞いておくように。始めに君たちの目の前に現れた表示画面についてだ』
振り返ると母さんの目の前の空間に、あの見慣れた地図画面が表示される。
僕が母さんに説明しようとした時、胸元から渡の声が声が聞こえてきた。
『イチ、聞こえるか?』
「渡!」
スマフロの説明を続ける声が街中に響くが、僕は渡の声に集中した。
『時間がない。まずはこの3日間で手に入れた特殊能力を画面に表示させろ。それから、おばさんを連れて二美ちゃんの学校まで移動。今後の行動は移動しながら説明する。急げよ』
「わかった!」
「キュッ!」
僕は目の前の画面をチョンチョンと触る母さんを抱えて、玄関へと急ぐ。
「母さん。靴を履いて。避難するよ」
「そうなの。貴重品は?」
母さんは靴を履きながら僕に質問した。
「そんなの後でいいよ! 命の方が大事だろ!」
「そうね。いっちゃんの言うことが正しいわね」
僕は靴を履いた母さんを抱き抱えると、玄関の鍵も掛けずに二美の学校へと急ぐ。
母さんがいるから時速100kmぐらいしか出してないけど、母さんは「あらあら、ハムスターがいるのね」と言っている……もういいや。
『とりあえず避難指示は出した。お偉方は大急ぎで皆を避難させるはずだ。猪熊のおっちゃんたちにはイチの名前を出したぞ』
「了解。よく皆を動かせたね」
『頭を下げて脅し込んだからな。誰でも世間に見せたくないものぐらいあるだろ?』
「……仕方ないけど、ほどほどにね」
渡の恐ろしさに身震いをしながら、僕達は二美の学校に着いた。
学校ではグラウンドや校舎から空を見上げる人……
目の前に現れた画面に自分の写真が表示されたことを驚く人……
頭を抱えてうずくまる人……
跳び跳ねて奇声を発する人など様々な人達がいる。
母さんをグラウンドに下ろして校門の方を見ると、少しずつではあるが人が避難しているようだ。
『よし、学校に着いたな。学校の周囲を走りながら説明を聞け。少しでも移動距離を貯めとくぞ。街中の様子はカメラでチェックしてるから何かあれば知らせる。
まずは状況確認だ。この青紫色の空はイチの家を中心に半径150kmの円上に広がっている。青紫色の壁に向かって脱出を試みている人もいるが、現在は脱出成功者はいないようだな』
「カゴの鳥状態だね」
母さんに別れを告げて、隠密状態の僕は学校の周囲を走り回る。
ハム助も全力疾走だ。
……家に帰っていて本当に良かった。
もし遠くに……
ダンジョンに潜ってたら……
『結界石はいくつある?』
「えっと、結界石20個と真界石11個、神界石1個だね」
僕はアイテム画面を表示させてアイテムの確認をする。
『なら学校を囲むように神界石を発動させろ。『限界突破』や『強化』『延長』『カウントダウン』も忘れるなよ。あと『適応』の効果を『鑑定』×『限界突破』で教えろ。使えるならそいつも追加だ。指定はモンスターと攻撃で』
「了解。『適応』の効果は……」
『適応』の効果は状況に合わせて適応し、耐性を得ることだったので追加に決定。
『結界』は対象を絞ることで強度を上げる事ができる。
普通の結界石が10トンの鉄しか支えられなくても、『鉄』の指定をすると測定不能なほどの重さまで支える事が出来るのだ。
鉄以外は素通りだけど……
『神界石を設置したら俺達の学校に移動して真界石を設置だ。もう少しで眼鏡の男の説明も終わりそうだぞ。急げ』
「わかった!」
僕は神界石を学校の中心付近に設置すると、全速力で僕達の学校へと向かって走りだした。
僕達の学校の中心付近に長子が待っている。
僕は肩に手を置き「いってくる」と一言だけ言葉を伝える。
長子が振り返るより早く、僕は真界石の設置を済ませ次に向かって走り出した。
たぶん長子は手を振っているだろう。
僕は32ヶ所を巡り結界を設置していく。
途中でスケルトンや兎、芋虫、コウモリなどを見かけたが渡の指示通り無視した。
『青色は無視しろ。街の人達も魔弾石や移動距離50kmを貰っているみたいだ。位置情報ゲームをやってた人達も大勢いるから大丈夫だろう。レベル上げさせてやれ。
黄色の恐ろしさは前に幻視で撮影した映像などで伝えたが、どこにでも馬鹿はいる。全ては救えん。捨てておけ』
「……了解」
多くの人達は避難行動をしているが、自ら敵を探して戦いに没頭する人もいる。
猪熊先生とか……
あの人なら熊怪獣ぐらいなら何とかしそうで怖い。
咲さんは壁を走ってるし……
今後はもっと丁寧な対応を心掛けよう。
途中で父さんを見かけたので声をかけておいた。
簡単な事情は渡から聞いていたようで、母さんが二美の学校にいることを伝えると即行で走っていった。
一応、父さんに『強化』×『限界突破』、『加速』×『限界突破』、『延長』×『循環』×『限界突破』をかけておいたので無事に学校まで行けるだろう。
何かあれば渡が連絡をくれる。
「そう言えば渡の場所は大丈夫?」
『心配するな。この世で一番安全だ』
「そうか。安心したよ」
『……真面目に答えるな。恥ずかしいだろ』
「そうか。そりゃ良かったよ」
僕は32ヶ所の避難場所に結界石を設置し終え、空を見上げると、青紫色だった空に少しずつ黄色が混ざってきている。
それは僕達に次のステージを予感させる色だった。




