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悪夢

 青白く燃えた空が落ちてきた。

 その炎は見慣れた街並みと一緒に、父さんをワラ人形のように燃やしている。


 母さんは黒く毒々しい色をした粘りのある物体に包まれていた。

 大地に幾万と広がる亡者の一員となった母さんは、その手を僕の方へと伸ばしている。


 僕は二美の手を握りしめ、必死に化け物達から逃げていた。


 「ハァハァ……二美! 大丈夫か!」


 僕の振り向いた先には誰もいない。

 ただ、僕の握りしめている見慣れた腕先だけがブラリと揺れた。


 ガバッ!! ハァハァ……


 また…… この夢か……


 あれから僕はダンジョンに潜り続けた。

 食事は移動中に済ませ、睡眠は『回復』『休憩』『循環』『瞑想』『カウントダウン』『マイホーム』『強化』『限界突破』などを発動し、毎日1時間も取っている。

『省略』もあれば十分で疲れが取れるのだが渡に止められた。


 『そこまでするなら俺は手を貸さない。本当に皆を守りたいなら……指示に従え』


 どうせ先程のような夢しか見ないのだが、スマホの充電もあるし……ハム助も限界みたいだ。

 僕はハム助を僕の周囲に浮かぶ小さな家にそっと入れた。

 ゼリー状の食べ物を口に含みながら、アップデートまで残り10日になった時計を確認する。


 スマホに表示された家族からの大量の連絡通知を無視して、僕は63ヵ所目のダンジョンへと向かった。

 地獄のようなダンジョンを攻略している時だけが、あの悪夢を忘れ僕に安らぎを与えてくれる……

 僕は最悪の未来への免罪符を求めるかのようにダンジョンに潜り続けた。


 「イチお兄さん、すごく強くなったね」


 「……そうかな? やっとダンジョンを110ヵ所やっつけられたぐらいだよ」


 僕は太平洋の中心付近で一路と話をしている。

 僕達が110ヵ所目のダンジョンを攻略して出てくると、一路君が出口で待ってくれていた。


 「でも、これなら6日後も大丈夫だよ。超越鑑定もそう言ってるよ」


 「……それは嬉しいね。けど、もう少し頑張ってみるよ。……後悔はこりごりだからね」


 夢を現実にしないためにも、僕が頑張らないと……


 「……頑張ってね。助けに行けたらかならず行くから」


 「ありがとう。そのときはよろしく頼むよ」


 一路君には足を向けて寝れないな。

 このゲームが一段落着いたら、何かプレゼントをしてあげたいよ。

 そのためにも……


 「ふふっイチお兄さんはおもしろいね。ふつうはぼくみたいな子供にこんなこと言われたら、気持ちに変化があるのにね」


 一路君には気持ちの変化がわかる特殊能力があるらしい。

 ……色で判別するって言ってたな。


 「……自分の実力を知ってるだけだよ」


 僕は無力だ。

 だからこそ努力しなければ……

 もう、大事な人を不幸な目に遭わせはしない。


 あんな思いは……


 「……イチお兄さん、すごい顔してるよ? ちょっと休んだ方がいいんじゃないかな?」


 「……大丈夫。まだ行けるよ」


 「そ、そう? 体に気をつけてね」


 「……ああ、ありがとう。一路君」


 僕は一路君と別れて次のダンジョンへと向かおうとしたそのとき、胸元から懐かしい声が聞こえてきた。


 『イチ、聞こえるか?』


 「…………」


 三日前にスイッチを切った筈の機械から、渡の声が聞こえる。

 僕は無視してダンジョンへと走る。


 『イチ、お前このままじゃ負けるぞ。……断言する。お前は全てを失う』


 「っ!! ……なんでそんなことが分かるんだ……」


 一番聞きたくない言葉を……

 一番言って欲しくない人に言われた僕は、思わず足を止めて聞き返す。


 『お前は勘違いしている。強いやつが勝つわけじゃない。自分の強さを生かせたやつが、勝つ権利を貰えるんだ』


 「なんだよ!! 自分の強さ? 強くならないと守れないだろ!!」


 あのときも……

 もっと力が強ければ……

 もっと足が速ければ……

 もっと能力があれば……

 僕は二美を守れたんだ!!


 『その通りだ。だがイチはその強さを既に持っている。……理解はしていないがな』


 「……言ってる意味がわからないよ」


 強さだけじゃだめなのか?


 努力だけでは届かないのか?


 『イチ……今のお前はダンジョンに逃げているだけだ。逃げているやつが勝てると……望む未来を手に入れることができると本気で思ってるのか?』


 逃げている……

 ダンジョンに安らぎを求めていた僕にとって、その言葉は……猛毒だった。


 「……どうしたらいいの?」


 『……家に帰れ』


 訳のわからない答えだった。

 とても正解とは思えない行動……でも。


 『どんなに理不尽だったとしても渡の指示に従おう。きっとそれが……僕の最善なんだ』


 僕は……家に帰った。

 少しの間しか離れていなかったのに、とても懐かしい玄関。


 そこで待っていたのは、学校に行っている筈の長子だった。

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