一路
20ヵ所目のダンジョンも攻略し、『再生師』が『再生導師』に進化した僕達は順調に物事が進んでいると思い込んでいた。
予定通りの効率的な攻略、幸せな未来を掴む為に必要な力を十分に身に付けて……
未来は大丈夫な筈だと信じていたのだ。
それが勘違いだったことを教えてくれたのは、一人の小さな少年だった。
ドゴォォゥゥォォ……
「ん?何の音だろ」
少し遠い場所から地響きのような音が聞こえてきた。あっ、また聞こえたぞ。
『どうした?イチ』
「いや、地響きが何回も聞こえてくるからどうしたのかな?ってね」
話している間にも結構大きな音の地響きが起きている。
夕方なのに工事中なのか?
『地響き? ……聞こえないぞ。小さな音なのか?』
「結構大きな音もするけど……聞こえないの?」
『……モンスターの確認をしてみろ』
「もう、やってる……いた! 黄色モンスターが東方向に2kmっ!! 人のマークもあるぞ!」
『プレイヤーか!? ……どうしたい?』
僕は渡の言葉を聞くよりも早く走り出していた。
「確認して危なそうなら助ける!」
『……そうだな。注意しろよ。プレイヤーにもな……』
「……了解」
できれば良い出会いになるようにと祈り、僕は黄色モンスターの元へと到着する。
そこにいたのは雷を帯びた巨大な鉄槌を両手に持つ、牛の頭と巨人の体の化け物、ミノタウロス。
そして、その化け物と戦う小さな少年だった。
ミノタウロスは少年目掛けてその鉄槌を振り落とす!
少年はギリギリで避けるが、地面に激突した鉄槌から放たれる雷と大地が少年に襲いかかった。
僕は急いで助けようとするが間に合わない!
『再生』で助けることを考えた僕を笑うかのように、雷と大地は少年のいる場所以外を破壊する。
僕は少年に近付くと一つだけ聞いた。
「助けはいるか?」
少年は笑って答えた。
「お願いします」と
光る霧を背中に僕は少年を見つめる。
……小学生?
少年は小さく…… 痩せていた。
まるで虐待を受けている子供のように……
「ありがとうございます。『再生』のお兄さん」
「!! ……どういたしまして。怪我はないかい?」
少年は怪我が無いことを教えるようにくるりと回ると、ニッコリと笑顔になった。
「やっぱり『再生』のお兄さんにして正解だね。ぼくは一ノ宮一路、小学二年生だよ」
「……僕の名前は一文路一。高校三年生だよ。それで正解って何のことかな?」
僕は何故かこの少年が怖かった。
小学生を怖がる高校三年生なんて……
などといった冗談ではない。
僕の本能が危険信号を必死に送ってくれている。
油断すると歯が鳴り出しそうだ。
僕の背中には冷たい汗が流れ出していた。
「ふふっ……怖がらなくてもいいよ。『再生』のお兄さんもイチって名前なんだね。ぼくと同じ呼ばれ方だ。ぐうぜんだね?」
「そうだね。凄い偶然だよ」
たまたま同じ呼ばれ方をする人が、たまたまスマフロのゲームに選ばれる?
本当に凄い……偶然だよ。
「えーと。イチさんは知らないと思うけど、ぼくはイチさんにお礼を言いたかったんだ。えっと、ありがとうございました」
「……何のお礼かな?」
全然心当たりがないぞ。
こんな特徴的な子供を見たら記憶に残っている筈だ。
「ぼくが金色の宝箱をあけたとき、妹が大きなケガをしていて……文字も読めないし『再生』をえらぼうとしたら、とつぜん消えて『超越鑑定』を取っちゃたんだ。それで妹も助かったし……とても強くなれたんだよ」
「……なるほど。そうだったんだね。妹さんが助かって本当に……本当に良かったよ」
大まかにだが状況が理解できた。
とりあえず危険はないようだ。
名前もそうだが妹を助ける……か。
この子を他人に思えないぞ。
「イチさんがイイ人で良かった~。 ぼくと妹のおん人が悪い人だったらどうしようかと思ってたんだ。超越鑑定はそこらへんは全く教えてくれないし……」
「え? 鑑定が教えてくれるのかい?」
「うん! とくしゅイベントもダンジョンも、これからどうしたら良いかも全部教えてくれるよ」
……なんだ、その反則能力は?
もしかして、この危険信号はそれのせいか?
「……ちなみに、一路君はどれくらい強いの?」
「えっとーいま超越鑑定に聞いてるからまってね。レベルは5243でのう力のそうちゃく数が5220でしょ。とくしゅイベントで手に入れたレジェンドのう力が375個、今回ので376個になるんだって」
ナンダそれ? なんだ……それ?
「そ、そうか…… さっきの戦いはどうしたの?」
「なんか、いどうきょりを使わずに、だれかに助けてもらうイベントなんだって。イチさんにも金色宝箱があるはずだよ」
「……それは……本当にありがとうございます」
「いいよ。イチさんイイ人だもん……。お父さんと違って」
「え?」
「あっなんでもないよ! 宝箱あけにいこ」
僕の耳にはきちんと聞こえていたが、こちらから話す話題ではないだろう。
『お父さんと違って』か……
僕達は金色の宝箱の元へと移動した。
「せっかく金色の宝箱だったのに。イチさん、ごめんね。あまり良いのがのこってなくて……」
「いや、この『結界』は僕にとっては凄く良い能力だよ。本当にありがとう。一路君」
『結界』であまり良いのじゃないって、どれだけ特殊能力が充実してるんだ。
「それなら良いんだけど……また会えるかな?」
「もちろん! 一路君より弱いかもしれないけど、困ったことがあれば何時でも話してくれると嬉しいよ。困ってなくても、何時でも連絡をしてもいいんだぞ」
一路君はパッと笑顔になると、少し考え事をするかのように頭を抱えてウ~ンと言い出した。
「どうしたんだい?」
「うん! 決めた。イチさん……正直に言うね。このままじゃ……死んじゃうよ」
「え?」
「ダンジョンを90ぐらいはやっつけなきゃ死んじゃうって超越鑑定が言ってるよ。家族も妹さんも助からないって……」
「…………そうか」
一路君は僕を見上げて手を合わせた。
「ごめんなさい。ぼくが助けてあげれたら良いんだけど……。イチさんはともかく家族は助からないんだって……」
「……謝る必要はないよ。……本当にありがとう。……本当に」
僕は深々と頭を下げた。
本当に……ありがとう。
一路君。
一路君と別れて僕は渡に声をかけた。
「……聞こえてた?」
『……ああ』
「今日から、渡の所に泊まることにしても大丈夫?」
『……大丈夫だが、説明はいいのか?』
「大丈夫。死なれるよりはマシだから、ね」
『……イチ。俺は』
「この話はおしまい! ちょっと無茶するね」
『……わかった。サポートする』
僕は……また間違えるところだった。
大丈夫な筈は大丈夫でないと11年前に知ったはずなのに……
こんどこそ……守ってみせる




