現実とゲーム
長子と別れて、学校を出るとスマホの時計は8時34分を表示している。
僕はひとまず家に帰ると、荷物を置いて制服から動きやすい服装に着替えた。
ふー……僕は目を閉じて大きく息を吐くとスマホを手に取り、『イチの冒険』を起動する。
『mission:38 レベル上げ』
『連絡しろ』
僕は渡にメールをして、胸元にある機械のスイッチを入れた。
スマフロの地図で黄色モンスターの位置を確認していると、胸元の機械から声が聞こえてきた。
『……聞こえるか? 体調はどうだ?』
「問題ないよ。渡は大丈夫?」
『問題ない。一番近い黄色は何処だ?』
「臨海公園近くの海の上だね。距離は16km」
『海か……その次に近い場所は?』
「えっと、山の炭鉱跡の近くで距離は20kmだよ」
『なら、山だな。作戦は移動中に説明する。とりあえず走れ』
「了解……ありがとう」
『……次の装備に期待だな』
炭鉱近くにいた黄色モンスターは巨大なお化け亀だった。
もう光る霧になってるけど……
こんなに簡単に倒せて良いのか?
『ガイドルータルを倒した』『職種無しExpボーナス』『レベルアップ』『レベル10到達確認 卵を取り出してください』『エリアモンスター討伐ボーナス』『エリアモンスターソロ討伐ボーナス』『エリアモンスター無逃討伐ボーナス』『『気』を取得』『00123エリアにダンジョンを配置』
次々と表示される吹き出しを確認しつつも、僕はあまりの簡単さに驚きを隠せなかった。
『隠密』×『限界突破』……反則過ぎるだろ。
僕は先程の短すぎる戦い? を思い返していた。
山の炭鉱跡の近くに来ると、モンスターの300m以内に入ったことを知らせるアラームが鳴り出した。
スマホで確認すると10m以上ある巨大お化け亀を発見。200m付近から『隠密』×『限界突破』を発動。
走って近付いたが、巨大お化け亀は気付かずに首を伸ばして遠くを見ていた。
首の根元に『魔弾岩』×『限界突破』で巨大お化け亀は光る霧に…… ごちそうさまでした。
使用した移動距離は『隠密』×『限界突破』が1秒毎に0.8kmが8秒で6.4km。
魔弾岩がショップレベルアップの値引きで5.6kmと『限界突破』の0.4kmで全て合わせて12.4km。
20kmは走って来たから黒字だ!
僕が移動距離の計算をしてると、胸元から声が聞こえてきた。
『どうした? 何か問題があったか?』
「いや、あまりにあっさりと倒せたから……」
『そんなことか。隠密もいずれ通用しない敵が出てくるだろうが、それまでは活用しろ。苦労や経験を通して強くなるならそうするが、特殊能力やレベルアップを狙った方が圧倒的に効率的だからな』
「そう…… 確かにそうだよね……」
『……これはゲームだ。イチ。努力の方向を現実と同じように考えてたら…… 死ぬぞ』
「っ!! ……わかった、ごめん」
『……謝る必要はない。くだらんゲームをやらされているのはイチだからな…… とりあえず現状確認だ。さっさと宝箱も開けろよ。カメラの電池も有限だからな』
「……渡。カメラ壊していい?」
『……くっくっ、それでこそイチだ』
……たぶんこのゲームを続けていく中で、僕と渡の意見が食い違う時もあるだろう。
話し合う時間が取れない状況もあるかもしれない。
そんなときは、どんなに理不尽だったとしても渡の指示に従おう。
きっとそれが…… 僕の最善なんだ。
僕はスマホに表示された吹き出しの内容を渡に伝えると『守護獣のイベント後に宝箱を開けれるとはかぎらん。先に宝箱を開けとけ』と指示を受けた。
3つの宝箱の中身は韋駄天リングと『縮地』が取得できた和風の巻物……
そして亀の甲羅だった。
天女の羽衣をひらひらさせながら亀の甲羅を背負い、虹色に輝くズボンに羽の生えた白い靴を履いた僕を見て渡は『すまん、そこまでいったら笑えん』と言った。
僕が狙ってやってるんじゃないからね!
速くなりたかったであろう亀の甲羅は、防御力大だが鈍足の効果も付いていた。
この鈍足の効果が走れなくなる効果だと分かってお蔵入り……本当に良かった。
韋駄天リングは走力の補正小、『縮地』は移動距離を0.2km消費して100m以内の瞬間移動が可能になる特殊能力だった。
これは移動距離の黒字に期待大だね。
職種に『忍者』が追加されているのを見つけ説明文を読んだが、渡は『必要ない』と言った。
さあ、お待ちかねの守護獣との対面だ。
僕は卵を取り出した。




