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走る

 間違ったゲームをダウンロードしたかもしれない……

 でもあの扉が現れたときのワクワクを思い出すと、このゲームを削除する気持ちにはなれなかった。


 少し思い悩んだ僕は一階に降り、二美の部屋をノックした。


「二美、入って大丈夫か?」


「お兄ちゃん?ちょっと待ってね……ん、大丈夫だよ~」


 返事が聞こえたので扉を開けると、二美は机に向かって何か作業をしているようだった。


「ごめん、勉強中だったかな?」

 

「大丈夫だよ、勉強じゃないし。ちょっと良いデザイン思いついたから形にしていたんだ」


 そう言って車椅子ごと振り返った二美の顔は少しどや顔だった。


 二美の将来の夢は建築家だ。

 車椅子の生活をしている中で不便な所やもっとこうしたら良いのに!と思うことが多々あるらしく、初めは物の配置等の小さなことだったが、今では僕や父さんと一緒によく日曜大工もやっている。

 前に二美が「車椅子の生活が羨ましい!と思うような建物を建てるんだ」と言って笑っていた。


 そんな妹を僕は尊敬している、言わないけど。



「そうか、邪魔して悪いな。大した用事じゃないから明日話すよ」

 

「そんなに気にしなくても一区切りついたとこだから大丈夫だよ。なに?何か用?」


「いや、スマホのゲームだけど、間違って違う位置情報ゲームをダウンロードしたんだけど……それが結構面白そうだったんだ」

 

「へー、良かったじゃない」


「え?二美の言ってたゲームじゃないんだぞ?」

 

「別にどのゲームだって良いよ。面白そうなんでしょ?」


「ああ、興味はあるかな……ってどのゲームでも良いのか!?」

 

「も~お兄ちゃんは気を使い過ぎだよ。ゲームなんだから楽しまなくてどうすんの?」


「いや、しかし報告とかも必要だろ?」

 

「もう!……わかった。今後、私からゲームについて聞くまでゲームの話は無しね。面白くなかったら自由にやめていいから。とりあえずそのゲームで決定!わかった?」

 

「い、ああ……わかった」


 二美の迫力に負けて部屋から退散すると、もう20時近くになっている。


 僕は日課のランニングをするためにジャージに着替えると、スマホとカギをポケットにいれてジッパーをしめる。

 いろいろあってランニングを忘れるところだったよ。


 「いってきます」


 一人つぶやいて玄関を出ると、いつの間にか雨が降ったのか地面が湿っていた。

 ドアにカギをかけるとスマホを手に取る。

 スマフロの地図画面が表示されているのを確認すると少し移動してみた。

 すると地図上の自分も移動し、距離の表示も0.10㎞から0.11㎞に変化する。

 モンスターのマークは見えない。


 「よし。ゲームを調べるのは後にして、とりあえず走ってみるか」


 準備運動をして軽く走りだす。

 とりあえずはいつもの臨海公園を目指して走り、そこでスマホを確認してみよう。


 体が暖まってきたのでだんだんと走るペースを上げていき、20分ほどかけて公園の中央広場に着いた。


 いつもは何人か人もいるのだが、雨の影響か人がいる気配は……ん?

 周りを確認したが誰もいない。気のせいか……


 「ふぅ、よし、スマホを……」


 スマホをポケットから取り出そうとしたとき、突然左腹部に強い衝撃を受けて転がった。


 「ぐっ……かはっ」


 完全に油断していた腹部への一撃に思わず息が詰まるが、頭は冷静に今の状況を判断しようとする。


 とにかく動け


 僕は体を転がしながら手足で地面をとらえると、素早くジグザグに走りだした。

 腹部に手を当て出血がないのを確かめる……大丈夫だ。

 ある程度ジグザグに走ると、今度は一気に最高速度で走る。

 後ろから追ってくる気配はないがかまわず走る。

 走る途中にカーブミラーがあったので、後ろをちらりと確認したが姿も見えない。

 それでも僕はひたすら走った。



 自分が小学3年生の頃、小学5年のバカと喧嘩したことがあった。

 理由は一年生になった二美が車椅子なのを馬鹿にして泣かしたからだ。

 喧嘩は勝ったが先生にとても怒られた。

 僕が青アザだらけの目立つ怪我だったのと、相手のただひとつの噛み傷が結構な怪我だったからだ。

 親からは「怒った理由は理解できるが、次からはやり方を考えなさい。そしてやり方を間違えた所だけは謝るように」と言われた。


 次の日、僕は近所の武道を教えてくれる場所に行った。

 そこでちょび髭の猪熊先生に出会い護身術、つまり『なるべく怒られない勝ちかた』を教えて貰うことになった。

 最初に教えられたのは逃げる方法だった。




 (息が上がってきた……速度を落として息を整えろ……余力を残さないと)


 途中で車やバイクでは通ることが不可能な道を走り、近所のコンビニまで走り込んだ。


 「ハァ……ハァ……ふー」


 少し奥に移動して出入口を確認しながら息を整える。

 左腹部を確認するが軽い打撲程度で内臓に異常はないだろう。


 「何だったんだ……」


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