夢の前
夢を見た。
この夢を見たのは、もう何回目になるだろうか……
11年前の…… 夏の夢……
「ありがとうございました」
「おう、いつでもこい」
「また、いらっしゃい。琥次郎さんも喜ぶわ」
僕は猪熊先生と咲さんに、何度もお礼を言うと家路を急いだ。
家に帰ると、手洗いなどを済ませて朝食についた。
朝食は……昨日の夕食を思い出させる雰囲気だった。
二美は、僕の顔をできるだけ見ないようにご飯を食べている。
見たら吹き出すからだ。あっ、また吹いた。
父さんも、たまに僕の顔を見て肩を揺らしている。
母さんは平然とご飯を食べているが、昨日の夕食で父さんにスマホを見せられて、パスタが飛び出たのを僕は知っている。
「……もう、みんな知ってるけど、今日は工事の人が来るから。たぶん、渡も」
父さんは「わ、わかったよ」と返事をして肩を揺らし、母さんは「お茶の用意しとかないとね」と言って、二美はまた吹いた。
「……よろしく」
僕は無言で家を出た。
学校に着くと、長子に心配された。
なんか顔が、本当に困って悩んでる顔になっているらしい。
家族でも気付かないのに、よく気が付くよ。
いや、今の家族は、僕の顔をしっかり見れないポンコツ状態だったね……
長子には『アレ』を見せないようにしないと……
そんなことを考えてたら長子が「昨日の旗振りは美化のボランティア?」と聞いてきた。
僕の眉間のシワがまた深くなると同時に、情報化社会の恐ろしさを実感した。
今、僕は悩んでいる。
このゲームを続けるかどうかを。
安定した将来を望むなら止めるべきだろう。
削除しても良いかもしれない。
人外の力や能力を失うけど、生まれてスマフロをダウンロードするまで、それでやってこれたんだ。
過ぎた力は身を滅ぼすという、ありがたい格言もあるし、あれは危険なものだ。
正直、頭の楔と一緒にさっさと捨ててしまいたい。
しかし、本当にそれでいいのか?
二美の足は現代の医学では治せない。
もし、治せたとしても、何十年も後のことになるだろう。
スマフロなら可能性がある。
『再生』など、現代の科学を越えた力がある。
それに……ゲームを止めたからといって、学者風の男性が現実の世界に手を出さないと言い切れるか?
そのとき力がないことを後悔しないか?
家族を……大事な人達を守る力が、必要になるときがくるとしたら?
……でも、ゲームを続けなければ、その危険も来ないかもしれない。
普通の人生を、普通に幸せに過ごせるかもしれない。
大事な人達に、恐い思いを、心配な思いをさせないですむかもしれない……
……僕も死なずにすむかもしれない……
僕は悩んでいる。
どちらの道を選ぶべきかを……
……学校も終わり、今日は一人で帰っていた。
長子は心配そうにしてたけど、少し一人になりたかった。
少しぶらぶら歩いていると、スマホのアラームが鳴り出した。
スケルトンがいたのだ。
僕は左腕の袖をまくると、スケルトンに近付いた。
スケルトンの体が少し左に傾き、右手でこん棒を高く上げる。
そのこん棒は重力を味方に付け、僕が差し出す左腕に、迷うことなく振り下ろされた!
ブンッ! ゴキッ!
スケルトンのこん棒は、僕の左腕を折り、曲げた。
血がにじんでいる。
……とても痛かった。
……ひどい怪我をした。
怪我を…… した……
僕はスケルトンから逃げ出して、家に飛び込んだ。
家に帰る頃には、腕の怪我はもう完全に治っていた。
僕は母さんに、今日の夕飯はいらないことを伝え、自分の部屋のベッドの上に横になった。
僕は…… 静かに目を閉じた……




