内面
ピピピ……ピピピ……
そういや、目覚まし時計を5時30分にセットしたままだったな。
僕はベッドから手を伸ばし、目覚まし時計のアラームを止めた。
少し肌寒くなってきた朝の空気を感じながら、僕はベッドで横になり天井を見つめ今後について考えていた。
僕は医者を目指して、それなりに努力してきた。
小学生の頃からの目標だったので、学力的にも問題はない。
いろいろあるだろうけど、ある程度安定した将来にはなるだろう。
けど…………
わかってる。
いや、昨晩休んで理解できるようになった。
スマフロをダウンロードしてからの僕の思考は、意識的に誘導されていたようだ。
このゲームの異常性に気付かないなんて……
このゲームは普通じゃない。
こんなゲームが世の中に出てきて、テレビやネットで噂にならないはずが無いじゃないか!
国だって動くだろう。
渡だって気付いている。
時速40kmで何十kmも走れる人間がいるはずない。
それを映像で見た渡が気付くのは当然だ。
今思えば、旗を持って走りまわる動画は、普通の人レベルに遅くなっていた。
『おい! 何かあったか!? イチ?』
『なんか隠してることはないのか? イチ』
あのときは気付かなかったけど、あの質問はそういった意味なんだ。
きちんと説明しない僕を責めるどころか、守ってくれた……
そして守ろうとしてくれている……
ホントに渡は……
僕の正しい道は、国や家族に相談することなのだろうか?
でも、『それ』は駄目だ。
理由は分からないが、『それ』はみんなを不幸にしてしまうと確信している。
このゲームをダウンロードしてから感じるこの確信は、まるで僕の思考に打ち付けられた楔だ。
……僕の頭はまだ大丈夫なのだろうか?
『そうかぁ、そんなこと思ってたかぁ……まあ、頭は大丈夫そうだな』
渡の言葉を、目を信じよう。
あの学者風の男が何を考えているかは、わからない。
ただの凄いゲームを自慢したい人なだけかもしれないし、意外と楽しい人なのかもしれない。
そもそも人かすら怪しいが……
もし、こちらに危害をくわえるつもりなら覚悟しろ!
僕の親友は魔王だぞ!!
僕はベッドから飛び出した。
僕は久しぶりに道場の門をたたいていた。
猪熊先生の道場はこれぞ道場といった佇まいで、立派な門の中には白い砂利が敷き詰められて、所々に飛び石がある。
松も植えてあり、時代劇にでてくる道場とそっくりだ。
「おう、いち坊じゃねえか。久しぶりだな」
ちょび髭を生やした中年の男性が縁側からこちらを見ている。
猪熊先生だ。
「お久しぶりです。猪熊先生」
僕は猪熊先生に向かって深く頭を下げた。
「おう、元気にしてたか?」
「はい、おかげさまで。それで」
僕の話している途中で猪熊先生が二回手を叩いた。
「話は中でもいいだろ? 茶ぐらいは飲め。おい、咲さん、お茶頼む」
奥の方から返事が聞こえ、猪熊先生がスッと奥の方に歩いていった。
僕は変わらない猪熊先生に少し笑みを浮かべ、猪熊先生の後を追いかけた。
僕がお茶を持って来てくれた咲さんにお礼を言っていると、猪熊先生が僕に声をかけてきた。
「で、どうした?そんなしけた面して。言ってみろ」
「はい、人を見極める方法を伺いたいと思いまして」
頭を下げる僕に、猪熊先生はため息を吐くと頭をがしがしと掻き出した。
「礼儀が悪いよりはましだが、礼儀が過ぎると非礼になるぞ、いち坊」
僕が頭を上げると、それでいいと少し頷く。
「ふむ、人を見極める方法なぁ。ここに連れて来ることはできんのか?」
「はい。僕も画面越しに見ただけなので」
「それは録画か?」
「たぶん録画だと思います」
「見せてみろ」
「あ、すいません。その時だけの放送だったんです」
「そうか……」
猪熊先生はお茶を一口飲むと、僕にお茶を飲むように命令した。
「録画ではいち坊に見極めは難しいわな…… そいつが作った物はないのか?」
「え! それなら、あります。位置情報ゲームを作ってます!」
「……作品は人の内面を見せる。自分でも気付かないような内面もな。表面は繕えても、その作品に力を入れれば入れるほど、その人物の内面が出てしまうもんだ。どうだ? そのゲームは?」
僕はいままでのゲーム内容を思い出していた。
危険性のわりに足りない説明
初めての戦闘での不意打ち
進化の宝箱の発生条件と選択
見た目の変な装備
初見殺しの可能性が高い黄色モンスター
虹の宝箱とガチャガチャ
簡単に人外の力を手にするレベルアップ
現実で恐ろしいほどの力を発揮するであろう特殊能力
緻密に作られたゲームシステム
何度も確認したかのようなゲームの完成度
そして、頭の誘導と楔
性格…… 悪そうだ……




