休み
いつのまにか朝の授業が終わり、のろのろと弁当箱を出しているときに魔王が声をかけてきた。
「くっくっ、どうしたイチ? 死んだ魚の目をして」
「……お前のせいだよ」
絶対に渡は赤色モンスターに違いない。
こいつに比べたら黄色の二匹は雑魚だった。
死の気配がしないことが逆に恐ろしい。
……逃げられないし。
「まあ、聞け。俺があの映像を確保してなかったらどうなってたと思う?」
「え? どうって?」
どうなってたんだ?
僕は想像してみた。
「あれは町の防犯カメラとちょっとした道具で撮影したが、もし『アレ』が町の職員の目に入ったら、な?」
『アレ』が町の職員に!!
……た、大変だ!!
「くっくっ、そんなに青くなる必要はないぞ、イチ。いま『アレ』の映像を持ってるのは、俺と二美ちゃんだけだ。他の『アレ』は平凡な塩田跡地の風景になってるからな」
「えっ? じゃあ……」
「それに、二美ちゃんには、俺が嘘の情報をイチに教えて『アレ』をさせたように伝えてある。完全に俺のイタズラが原因だと信じてたぞ」
「えっ? でも、あれは……」
「ああ、貸し一だ。まあ、面白かったし、今回はサービスしてやるよ」
「わ、わたるっ!」
僕は、渡に駆け寄りお礼を言おうとした。
しかし、渡はにやりと笑うと僕の肩に手を乗せてきた。
「で、誰がツンデレだっけ? 教えてくれるんだろ? イチ」
「……ごめんなさい」
渡は赤色モンスターじゃなかった。
きっと金色モンスターだろう。
僕の親友、金色モンスターだ。
今日の授業も終わり、下校の時刻になったとき、渡が声をかけてきた。
「そういや、イチの家。工事するぞ」
「はぁ? 何で?」
「前からセキュリティが甘いと思ってたんだが、用意ができたからな。明日から工事だ」
「ええ! 明日から!?」
「ああ、明日なら一万以内でいけるが、違う日だと百万は固いな。払うか?」
「払えるわけないだろ! 何でそんなに値段が違うんだ?」
「人件費と材料費が無料だからな。……詳細、聞きたいか?」
「……いや、いい」
たぶん聞かない方が良いやつだ。
「そうか? まあ、明日の工事は決定だから部屋の整理はしとけよ」
「部屋に入るのか? どこまで整理したら良いんだ?」
「配線辺りを弄るだけだ。貴重品以外は、そのままほっとけ」
「ああ、わかったよ」
「あと、明日休むからな」
「え? 何で?」
「……聞きたいか?」
僕は無言で首をふった。
渡と校門で別れると、ちょうど長子が少し前を歩いていたのが見えた。
僕は少し考えると、長子を追いかけた。
「そうか、長子は先生か保母さんになるのか……」
「まだ目指してる段階だけどね。いっくんはやっぱりお医者さん?」
僕か、僕は……
「たぶんね。いや、少し悩んでるかな」
「へぇ、さすが二美ちゃんだね」
「ん? 何で二美が出てくるんだ?」
「ん、なんでだろうね?」
長子がこっちを見ながら、イタズラが成功している子供のような顔で微笑んだ。
僕はそれをとても懐かしいような、なんともいえない気持ちで見ていた。
家に帰ると僕はベッドに倒れた。
スマホを手に取り、少し眺める。
すると、長子からのメールがきた。
土曜の図書館へ行くお誘いだ。
僕は了解のメールを送ると机に向かう。
僕はスマフロをダウンロードして、初めて夕方のランニングを休んだ。




