ミンティ大暴走
「お前、殺したことあんのか!?」
「まあな。ゲーム内なんだからいいだろ」
「おい坊主。そういうのは良くないぞぅ。ゲーム、それもオンラインとなれば守らなくちゃならんマナーの一つや二つはある。シックス・センスは自由度が高いゲームだが……」
なんか説教始まったのでヘッズはマントの内ポケットにねじこんでおく。頭を逆さにして。
「パーティ認証押せ。その目の前に出てるウィンドウだよ」
「こ、こうか……なんか慣れねえな、こういうの」
さて、ゲームのやり方を教えてくれと言われたので、操作方法、ルール、世界観なんかを享受してやればいいわけだが……見ず知らずの他人にそこまでしてやるお人よしじゃあない。
「よし! じゃあまずは第十三の町に行ってみるか! あそこには凶暴なモンスターもでないし! 初心者装備でも安心!」
「おお? 第十三って……ここ第一だけどどうやって行くんだよ?」
「徒歩」
「ええええええ!?」
うむ。僕優しい。
***
シックス・センスはやたらとリアルだ。現実と差異のない感覚ゆえ、疲労なども感じることができてしまう。よって少しでも疲労をなくしたいプレイヤー達は仮想通貨を払ってでもNPC馬車などを使うのだが、僕とウィスは徒歩で第十三の町――ベリドゥーナに到着した。
「……ハァ……ハァ……」
「結構はやかったな」
「ウィスは坊主と違って体育会系なのか?」
当然僕はAGIを七倍して駆け足。ウィスは全力疾走だったろう。
それにしても僕がここに着いてから10分も経っていないぞ。まったく、現実では何部なんだか。
「よし。じゃあ揃ったところで……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 何でお前はあんな速く走れるんだよ!」
「鍛えた」
「ええ!? 現実じゃ俺と変わらないぐらいなのに!?」
もちろん鍛えてなどいない。
現実のウィスと変わらないぐらいって、君エースとかじゃなかったっけ。知らず知らずのうちに褒められてる?
「褒めても何も出ないぞ」
「褒めてねえ!」
まったく騒々しい奴め。毎回語尾にびっくりしてるじゃねーか。どもるオタクかよ。もしかしてオタクは語頭、リア充は語尾に何かつけたがるのか……真理を知ってしまったな。
「うるさい。とにかくこのゲーム初心者であるウィス君には僕が簡易チュートリアルをしてあげよう」
「簡易チュートリアルって、ここ十三の町じゃん。最初のとこの方がいいんじゃないのか?」
その言葉に僕は大仰にやれやれとため息をついた。
「これだから初心者は……第一の町のチュートリアルなんて面倒なうえにいらん情報ばっかだからな? 要らない装備とか買わされたりする。いまだに初期装備でもいいぐらいだよ」
もっとも、そんなバカは見たことも聞いたこともないが。
「うん……? そ、そうか」
こいつがバカで助かった。初期装備で戦ってくれるらしい。
「じゃあ、あれだ! いけ!」
「えっ」
僕は丘の上からウィスを突き落とした。転がりながら何やら喚いている。舌噛みそうで恐い。
ウィスが転がる直線状には一体のモンスター。真っ白なタキシードを身に纏う、スライム。すらりとした体躯でこちらを向いて驚く。確か名前はフォライムだったか。
「ウギョッ!?」
「うわっ!?」
転がる初心者は正装の魔物にジャストミートし、フォライムはその場に手をつき倒れた。初心者は大の字になって息を荒げている。どうでもいいけどお前らの声似すぎ。
「……」
フォライムは優美に立ち上がると、どこから抜いたのか細身の剣をウィスに突き刺した。
「うぇ!?」
初期装備では到底防ぐことのできない第十三付近のモンスターの攻撃に、ウィスはあっけなく絶命した。やったあ! リア充しね!
「ふっ。僕に教えを乞おうとしたのが運のツキ。この世界から永久退場だ」
「小僧……どうやらウィスは生きてるぞ」
なんだと。
今までずっと頑張ってポケットから抜け出そうとしていたヘッズが、ようやく脱出できたらしい。
「もう一度殺してやる」
「小僧……俺は、お前を嫌な奴だと再認識したぞ」
僕がきょろきょろしていると、ヘッズはドン引きした顔でこちらを見てくる。今更じゃないか。
「……再認識? アホめ、今まで忘れていたという事か。この最低陰険悪質非道冷血帝王の僕をッ! プレイヤー一人殺すなど造作もないわ!」
「変なスイッチはいっちまったか?」
あまりにも真顔なので僕は調子に乗らず、降りた。調子から降りた。
「……死ぬかと思った……」
「!」
むくりと、ウィスは立ち上がる。僕も、フォライムも驚いている。
ウィスは固まっているフォライムを好機と見たか、初期装備の片手剣で胸部を一突き。フォライムは絶命した。
「……確実に絶命するダメージで死なず、一発で急所を突く……相当やばいセンスだな」
「いやー……俺でもよくわからないけど……強い?」
強い(確信)
「……チッ。リア充一人殺そうと思ってたのに……」
「お前ほんと嫌な奴だな!」
「ウィス。諦めとけ。小僧は嫌な奴という事に誇りを持っているフシがある」
誇りなんてものじゃない。信念であり人生だ。そんじょそこらの嫌な奴と違う。
そんな事を脳内で巡らせながら、やれどーだのあーだの、ミンティはクソだの殺そうぜだの言うヘッズとウィスを見ていた。ちょっとヘッズさん、あなたの主は僕なんですが。
「血、血染めのミンティか!?」
見ると、僕を見て叫ぶ男と、取り巻きっぽい二人。なんで取り巻きって見た瞬間分かるんだろう。そういうジョブ?
「……」
「何か言いやがれ!」
僕が何も言わないことにご立腹なのか、男は背の両手斧を今にも振り回しそうな形相で言ってきた。こっちに近づいてこないってことはびびってるんだな。
「何か用ですか? 現実に向き合えない可哀そうな中年のお方」
「な、なんだとゴルァ!」
「おいミンティ、好きでむき合えなくなったわけじゃないって」
「そこの初心者は黙っとけやぁ!」
真理とは残酷なものだ。等しく絶望を与えてしまう。そんな真理が大好きです。ウィスも追い打ちもよくやった。
「おい血染め! 俺はお前が大っ嫌いなんだ! リアルじゃ何もできないガキがしゃしゃり出てんじゃねーよ!」
「しゃしゃり出てって、僕はどちらかというと引いている方だと自負していますが」
この口調も疲れる。でもキャラ作りって大事。でも作るのに力入れちゃうとどこかでボロが出るので気を付けましょう。
「俺はギルド山の守り手のリーダーマウロン様だ! 血染めのミンティ! お前はいつかこの手で殺させてもらう! 首でも洗って待ってるんだな!」
そう言ってマウロンは取り巻きと去っていった。
「小物感、すげー……」
「ウィスでもそう思うって、相当だな」
「だがよぅ。山の守り手マウロンっつうのは、相当な実力者だぞぅ。何人も上位プレイヤーをデュエルで殺してる」
デュエル。それはPKをしても指名手配されない唯一の方法。ルールは簡単。お互いに決闘承諾をしてから一分の制限時間の下、お互いに殺し合う。HPが0になった方が負け、そのまま永久ログイン不可となる。
そんなもの誰もが使わないとは思っていたが、酔狂な連中はこぞって命を賭けた戦いに興じるらしい。マウロンもそんな中の一人だろうか。
「僕の敵じゃない。とにかくあいつはうっとおしいから殺す」
「ミンティの戦いが見られるんだな」
ウィスのことはなんかうやむやになってしまったが、まあ僕が殺そうと思っていたことは隠しておこう。
協力なセンスだが、十一の町には後日行ってもらうとして……。
「売られた喧嘩は買って殺しに行くしかないな」
ミンティ君、嫌な奴ですね。