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血染め探し

 シックス・センスは高クオリティゆえ、現実と相違ないコミュニケーションができてしまいます。ですので、現実と同じような人間がいるのは仕方がないのです。

 

 全部で五十ある町々は、第一の町が最北端にあって、あとは順番に南のほうにあります。

 「ああ? 血染めだって? あんな奴のこと思い出すのも腹立たしい!」

 

 「あ、ミンティとかいう奴? ああー……ネットで話題の、うん。あ、もう話題じゃないか。あ、えっーと……ごめん、何も知りません。あ、お茶とか……ああ、うん、わかってる。うん。あ、あ、うん。いえいえ。むしろいきなり何? 感じでしょ? うんうんうん、あ、バイバイ」


 「血染めのミンティか!? イダイをやった野郎だな! 見つけたんなら殺しにいくぞ!? ……探してる!? どっかいけ!」


 その後も、町々をめぐり、めぐる。


 「はぁー……」

 「血染めがどれだけ嫌われてるかと、情報がないの分かった?」

 

 リコリスは噴水のベンチに腰掛け、頬杖をついてため息を吐いた。隣にはラプラスがいる。

 二人は後日、一日使ってミンティの居場所を聞き込み、ついでにミンティに対する意見も聞きまわった。


 「あなたが引き留めてればよかったのにね」

 「すみません……でも、ミンティさん、7倍の速さで行っちゃったんですよ? 追いつけないです」

 

 確かにあの日、ミンティはAGLを7倍し、リコリスの元から逃げて12の町へ――実はそれすら通り越えて13の町付近まで――行った。が、その時リコリスは馬鹿正直に11の町へ戻って防具屋へ行ってしまったのだ。

 おかげでラプラスには出会えたわけだが。

 

 「さっきの文頭にあ、がついてた人カッコいい顔だったけど、絶対現実はブスよね」

 「い、いやー……そんなことないかと、思います……」


 ラプラスと一日行動して、リコリスは彼女の人柄を良く知ることができた。

 シックス・センス歴一年。古参プレイヤーで、PKプレイヤーを許さず仲間と狩ることから、PK殺しと一部から囁かれている。

 どこぞの赤マントに似た異名だが、本人に言えば大激怒だろう。

 センスは視力補正。武器は長弓。


 「……ふう……リコリス、フィールドにでも行きましょう。もしかしたら血染めが偶然いるかもしれないし」

 

 現在二人は最前線である第十三の町、ベリドゥーナにいる。

 そのまま南へ行くと第十四の町があり、丁度中間地点に攻略対象であるストーリーボスがいる。その手前までラプラスは行こうと考えた。

 

 ストーリーボスは、各マップ毎のユニークエリアに存在している。第十三の町解放時のボスは、亡霊の森の奥に鎮座していた。

 ストーリーボスを討伐すると、大量の経験値とゴールド、そしてユニーク武器が手に入る。よってプレイヤーは皆こぞって討伐を試み、攻略組なるものまでできた。

 なのだが、適正レベル以上のプレイヤーがボスを討伐すると、離れているレベル分に応じたペナルティが発生する。そのため、トッププレイヤーは本筋の攻略はせず脇道のダンジョンやらにこもり、現在はのんびりとした攻略組が適正レベルのプレイヤーを編成して攻略に向かわせる。


 リコリスはラプラスの意見に同調し、二人は町の外へ出た。

 すると、声を掛けられた。


 「あんたら、攻略に行くのか?」

 

 声の主は、目つきの悪い、軽装に両手斧を背負う男だった。


 「そうじゃないけど、どうかしたのかしら」

 

 ラプラスはリコリスの前に出た。彼女の理念として、悪い人相には下手に出るなという考えがある。なので、並みの人間なら敬遠するような怒りを滲ませ、男の顔を見る。


 「やめときな。二人じゃあ殺されちまうぞ……最近になってあそこには狂暴なモンスターが出るんだ」

 「リコリス、行きましょう」


 ラプラスは男の言葉が言い終わる瞬間、リコリスを引っ張って歩き出した。

 男の情報はデマだ。ラプラスはそう確信している。これから行く十四の町解放エリア――石の湿原に凶悪なモンスターが出るという情報は聞いてないし、ボスは中央の石像で近づかないと動かない。それにもし見つかっても霧の深い湿原を活かし逃げ切れるだろう、と踏んだ。

 リコリスは行ってもいいのかと思いつつ、半ば無理やりに連れられて外へ出た。


 「……」


 男は黙って二人の後ろ姿を見ていた。

 彼の名はマウロン。ギルド「山の守り手」のリーダーであり、誰にも知られていないPKプレイヤーである。


 * * *


 「すごい霧です……」

 「うん。はぐれないでね」


 はい……、と弱気に返事をするリコリス。彼女からはラプラスの姿しか見えず、不安を抱いていた。

 一方ラプラスは、確かな足取りで湿原を歩いていた。一応彼女が目指しているのはボスエリア手前の、レアモンスターの出没する沼だ。

 ラプラスのシックス・センス、視覚補正は、視力を上げる遠目、遠くのオブジェクトを見る千里眼、視界を邪魔する効果を消す視界確保、ステータスや効果を識別する鑑定眼の四つが使える。現在ラプラスの中では、視界確保によって濃霧はないものとなっている。

 

 「あ、見えてきたわよ」

 「私は見えません……」


 無論リコリスには見えない。一寸先は霧である。


 「ひゃあ!?」


 突如、リコリスはぬめりとした感覚を味わう。ふとももをざらざらしたもので撫で――いや、舐められた。湿りを感じる。

 本能的な嫌悪感に、その場にへたりこむ。


 「大丈夫? たぶんフロッグロックね。今仕留めるわ」


 そう言ってラプラスは弓を構え、矢をつがえる。

 瞬時に矢を放ち、蛙の短い鳴き声。絶命したようだ。


 「な、なんですか今の……」

 「変態蛙。プレイヤーを舐めることが生きがいなのよ……あれじゃなくて、こっちの岩よ」


 ラプラスは絶命した蛙ではなく、風景の一部の岩を指した。


 「名前はないんだけど、異常に経験値が多く設定されてる岩なの。動かないし、さっさと倒しちゃいましょう」

 

 このシックス・センスというゲームのあらゆるオブジェクトには、例外なく体力が設定されている。モンスター以外の大抵のものは何も獲得できないが、稀に経験値やゴールドを持つオブジェクトがあるのだ。

 ちなみに、シックス・センスの舞台となる五十の町と地域を含む、大陸にも体力が設定されている。膨大な量だが。

 石の湿原に存在する経験値を持つ石は、今のところラプラスと彼女の身内のみが知る情報である。


 「そりゃいいこと聞いたな」

 「……!」


 現れたのは人相の悪い男と、その取り巻き二人。すでに武器を抜いている。


 「退いてくれるよな?」


 男はあからさまに武器を見せ付けながら下卑た表情で言う。

 男の持つ両手斧は、買ったものではなくドロップ品だろう、とラプラスは確信した。


 「……狩場の横取りは禁止されているのよ。血染めの真似かしら?」

 

 無論、ラプラスにも占有の権利はない。それにあくまで運営の呼びかけ程度のものであり、横取りによる処罰などは存在しない。


 「血染め、ねぇ……まあ、それもいいかもなっ!」

 「リコリス!」


 ラプラスはリコリスを引き寄せた。男の斧がさっきいた場所を抉る。


 「……いいわ」


 ラプラスはそう言ってリコリスとともに沼地を出て行った。


 「わりーなぁ、経験値欲しくてよ」


 斧使いの謝る気のない言葉に、連れの二人もどっと笑う。

 

 「ラプラス、さん……」

 「……仕方がないわ。諦めて違う所へ行きましょう」


 ラプラスはそう言うが、その眼には、確かに諦めの色はなかった。

 嫌な奴っすね。

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