ミンティ――爽
今回は短めです。代わりにというわけではないですが、ミンティ君のマスターアカウント特典を説明させていただきます。
名も無きハルバード
斧、槍、鎌の機能を果たす武器。強力な攻撃力を持ち、持ち主のレベルに応じて基礎値が上昇していく。
迷剣フルンティング
返り血のエフェクトで赤黒く染まった。ちょっと強いぐらい。
愛別離苦
禍々しい短剣。柄から刃にかけて境目がないため、大変危険。一定時間刺しておくと継続ダメージが入る。リコリスに譲渡。
無彩のマント
純白の、マント。だったが、ミンティがロクにケアしないため、赤く染まっている。
女神の首飾り
ミンティが首元に隠している首飾り。美しい女神の顔が彫ってある。絶命時一度のみ身代わりとなる。
使い魔ヘッズ
四種類から選べる特別な使い魔。黒い毬藻のような外見に、短い手足が生えて、三白眼。低い声と渋い性格が特徴。
10万G金貨十枚
その名の通り10万Gの価値がある金貨十枚。ちなみに銀貨1000G、銅貨1G。支払い時には自動で出現させることができるので、数える必要は無い。
ミンティは十枚の内五枚は散財している。
御神爽は、いわゆる天才であった。文武両道、才色兼備。
だが、一つ、致命的な、すべてのプラスをマイナスにする欠点があった。
それは性格の悪さ。陰湿な嫌がらせや陰口を好み、弱者を踏みにじることが快感だった。その結果友人は一切いなくなり、社会的に孤立。家族からも好かれてはいない、嫌われ者となった。かつての弱者達に馬鹿にされ、攻撃され。
それでも爽は自分の信念を曲げなかった。自分の机に落書きがされていればその机を投げて犯人を怪我させ、多対一で暴行を受けたときにはひとりひとり夜道で後ろから急襲した。
その果てに、御神爽は無関心という立場を獲得した。
だが、人に嫌がらせをすることに楽しさを見出していた爽は、理由の無い攻撃を自分からするわけにいかず、その鬱憤は父の作ったVRMMORPGにて発散することとなった。
ここまでが、爽自身でさえ分かっていない、もちろん誰も知らない事実。
シックス・センスの三大PK事件。内二つは爽――ミンティが張本人である。
一つ、第一の町初心者虐殺。ミンティの名が有名になった話であり、いまだにネット上で話題となっている。サービス開始当日、シックス・センスという高クオリティのVRゲームに期待を寄せ、ログインし第一の町に降り立った初心者たち。を、ミンティはハルバードで斬り、突き、叩き、潰し、殺した。
その数は数十人に及び、圧倒的な反感と当然衛兵のNPCを呼んだ。
二つ、第7の町、使い魔殺害事件。初心者虐殺から三か月、ミンティのことも忘れかけてきた頃のこと。第七の町、ワンデガーは素数番の町。ということで、下級の使い魔を使役する場所となっている。そこでミンティは対魔物用の聖水を大量に購入し、町の使い魔たちにばらまいた。AGIを7倍にしていた為誰も捕まえることができず、ほとんどのプレイヤーの使い魔を殺害した。
使い魔はこの町では一回しか使役することができず、多くの使い魔を持たないプレイヤーが発生した。
この二つの事件を受け、多くのプレイヤー達が不満を運営にぶちまけた。運営の回答として、これはシックス・センス本来の仕様であり、プレイヤーの諸君の健闘を祈るという意味不明なメッセージが公開された。
と、ここまで語り終えたラプラスが一言。
「話してて、気分が悪くなるわ」
吐き捨てるようなその言葉は、ラプラスのリアフレが事件に巻き込まれたことから、できているのかもしれない。
「そんなに悪い人だったんですね……」
「悪いどころじゃないわ。極悪非道、冷酷無比の快楽殺人鬼よ」
リコリスはその話を聞いてなお、ミンティに対する敵意や嫌悪というものは湧いてこなかった。むしろ、ミンティのリアル事情によるものではないかという――もっとも正答に近い考えを持っていた。
「というわけで、ミンティを探すのはいいけど、見つけたら殺すからね」
「お、お願いします……」
ミンティを探すにもラプラスがいてくれるのはありがたい。ラプラスとミンティが出会ったその時に、なんとか話をするとして、リコリスはラプラスとパーティを組み、行動を開始した。
* * *
同時刻。ミンティはフィールドで他プレイヤーに囲まれていた。その数五人。
「こいつがイダイをやった血染めか……実物は案外ちっせぇなあ、オイ」
「まったくだな。こんな少年に負けるとは所詮イダイですね」
「ボス~そんなこと言わないでくださいよ~。イダイさんも頑張りましたから」
「オマエほんまに言っとんか? イダイはクソやぞ」
「ちょwwwまじwwひでっす先輩wwwww」
やかましい。女三人で姦しいと言うが、男五人で超姦しい。何? 女にジョブチェンジしたの?
僕は取り囲まれている。なんでもイダイとかいうプレイヤーに僕は何かやってしまったらしい。
「すみません僕急いでるんで」
最初に断っておき、僕はハルバードを抜いてATK七倍。力任せに振り回す。ATKを上げると、ダメ―ジは上がるが自分の力で振らなければならない。AGIならシステムアシストの加速がつく。
「ぐあああああ!」
「聞いてませんよ……この力は……!」
「ウボアアアアアー!」
「なんでや!!!」
「ちょっwwwww」
それぞれが断末魔を上げながら死んでいく。と言っても現実世界では健康なままなんだけど。
むしろVRMMORPGが一つできなくなるわけだから健康が増進すると言ってもいいかもしれない。僕っていい子だな。
「邪魔をするんじゃない……!」
僕はそう罵るが、別に何かに駆られて使命を全うしようとしているわけではない。ただひたすらモンスターを殺し続けているだけだ。
後方にモンスターがポップする。今現在僕のいる、十二の町から北の方にある、岩場を住みかとする巨大な爬虫類型のモンスター。名はスカルT。
その名の通りほねほねの恐竜は、僕を見つけるなり瞬時に襲い掛かってくる。
僕はハルバードを立て、スカルTの攻撃をしのぐ。そのまま左手をハルバードから放して、手刀を作る。
右目に突き刺す。
「キキキギャギャァ!」
気味の悪い、それでいて耳をつんざくような叫び声。正直うっとおしいが、かまわず右手のハルバードを強引に振り、スカルTの首を切断した。クリティカルだ。
スカルTが倒れ、溶けるように消える。
「ヘッズ……今何匹だ」
ヘッズが僕のマントから出て、宙に浮遊する。
「154匹。坊主、もういいんじゃないのか?」
「……」
僕は黙ってヘッズの顔と一体化した丸い体を掴み、ふところに押し込んだ。
次のスカルTがポップした。今度は僕から行く。
音を察知して振り向いたその顔面に、跳躍からのハルバードの叩きつけ。怯んだ隙にもう一撃見舞う。
なぜこんなにも我武者羅に鬱憤晴らしを頑張っているのか、分からない。ただ、一刻も早くあの子のことを忘れなければならない、そんな気がする。
良好な人間関係というものが僕にはわからない。距離感が、気持ちが、心が分からない。
だから今回も――縁は切るんだ。
もう二度と、同じ悲しみを味わわないように。
もうすぐ話のストックが切れます……がんばるぞぉ!