虚飾を欲する
二日遅れてすみません!
ねんがんの 傲慢の剣をてにいれたぞ!
「うお!?」
「二刀流なんて、私でも扱えない」
な なにをする きさまー!
ギルディは飄々とした態度のまま双剣を弾いた。僕は力に逆らわず後方宙返り。
「……その刀、何でそんなに速いんだよ」
「鍛えているからな」
ギルディはそう言いつつ刀を宙に放り投げる。頂点で制止した後、位置エネルギーを変換していく切っ先は地面に突き刺さり刀身を丸ごと沈ませた。
ためしに僕も同じことをして傲慢の剣が無様に転がったので考えるのをやめた。
「DEXを七倍でもしてみたら、うまく扱えるんじゃないか?」
「敵に助言とか、やっぱ最強のプレイヤーは違うなー」
「どうだろうな。今ここでお前に倒されれば私は二番手に格下げだ」
「じゃあさっさと倒されろよ」
ギルディが刀を地面から引き抜いた。
「無理だな」
見えなかった。
地を蹴る音と、来るという直感。それだけが判断材料。
両手の剣を交差して防いでも僕の体は呆気なく吹っ飛ばされていた。
「……急に全力かよ」
半ば瓦礫に埋もれた体を起こす。ギルディは刀を振り下ろした姿勢のまま動かない。とうとう出てきた本気。万事休すだ。
一度だけモンスター相手に本気になったギルディを見たことがあるが、本当に一瞬だった。見えない、聞こえない、分からない一撃。
あんなのは防げない自信がある。絶対に死ぬ。
となると、完全に全力ではない今しかない。が、何を七倍すべきか。
「……ん?」
僕は瓦礫に何か埋もれているものを発見し、それらを引っ張り出した。
「こ、これは……!」
大罪武器です。
いつの間にやらギルディが奪った皆の武器たち。僕が持っている二つと合わせれば、全七つ。
「うーむ」
賭けてみるか……こいつらに。展開的にはその方がアツいしな。
今までの敵が仲間になるパターン。
見れば、ギルディが刀を構えていた。僕の腹は決まった。
「こ、こうか?」
転がっていた矢を嫉妬の弓に番え、放つ。と同時に、僕はDEXを七倍した。
運命の七秒間が始まった。
「良いぞ」
「うおっち!」
いつの間にやら矢を弾いて接近していたギルディに向かって、色欲の槍を突く。
ギルディの刀が即刻それを打ち落とすが、僕は一瞬硬直したのを見逃さなかった。
すぐさま拾い上げた暴食の大剣を、滅茶苦茶な大振りで叩きつける。
「潰れろ!」
ギルディはメヒティヒを格下にトッププレイヤーの中で格下と見なし、ずっと組まずにいた。ゆえにクリティカルが連続で発生した時、過剰なエフェクトが発生することを知らない。
「……!」
ギルディの焦りの表情。とは言っても、僕は目を瞑っているのでそんな気配を感じるだけだが。
それでも、確実にギルディは後退した。僕は距離を詰める。
「ふん……!」
憤怒の斧で引き裂く。僅かな手ごたえ。それはギルディのHPを30%削ったことの証明になる。
僕はそこで欲張らず斧を手放した。
そして、強欲の短剣を真っすぐ投擲。ギルディの右膝に突き刺さり、目に見えて動きが鈍くなった。
「血染め……!」
「終わりだ、覇王女!」
僕は虚飾と傲慢を抜き、一挙に振り下ろした。
「そう、うまくいくと思っているのか?」
世界が止まる。
漠然と、死ぬことが理解できた。
時間が戻った世界で、僕は地に伏していた。
銃声。僕の体が跳ねる。腹を撃ち抜かれている。
「な……」
「私はな、怠惰なんだよ……勝てると慢心したな」
躊躇ないギルディの刀が、僕の体を貫いた。そして、強欲の短剣を握ったギルディは一言。
「お前に傲慢は相応しくなかった」
短剣が、僕の喉元を掻っ切った。鮮血のエフェクトが、僕のマントを一層赤く染め上げる。
結局、僕は弱い人間だったようだ。
仮想の中でも頂点に立てない、哀れで救いようのない傲慢の塊。
君は、許してくれるだろうか。
『――まだだろ』
僕の体は消滅せず、未だにここにあった。
虚飾は、上辺だけを取り繕う中身のない大罪。効果は、持ち主と対象者のセンスの入れ替え。
「傲慢が相応しくない? ならそんなもの要らない」
僕は、虚飾の剣と強欲の短剣を手に取った。
「さあ、ここからだ」
「……つくづく、嫌な奴だと分かる」
ギルディの顔に、余裕は無かった。いや、余裕が無いというよりも、真剣だ。間違いなく全身全霊の闘いをしようとしている。
正直、勝てるとは思わない。だが、負ける気も無い。
僕は天を仰いだ。
「殺すだけだ」




