右手に傲慢を、左手に虚飾を
やばい。物凄い窮地だ。いとやばし。
かといって、死にそうなわけでもない。いや勿論ゲームの中で死んだら現実体も死ぬとかいうデスゲームじゃないけどね? まだ死んでない。
リコリスと日常してたら急に最恐プレイヤーが出てきて変な場所にいて、僕の嫌いな奴がいーっぱいいるなとか思いつつ。斬られてた。多分。
完全に死ぬダメージだったけど、首飾りの効果で耐えた。マジ首飾り。
「……」
死んだふり。
僕はリコリスとラプラスがギルディに何やかんやされた時も知らぬ存ぜぬを通し、死体になりきっていた。
とはいってもシックスセンス中で死んだプレイヤーの体は一定時間経てば溶けていくので、このままいるのは不味い。
それも全て、ギルディが僕の事を死んでいると思っていればの話だが。
「お前、生きているだろう」
不意に、そんな声が聞こえた。
やばいって。死ぬ。殺される。このゲームができなくなるだけだけど。
が、僕としては面白くない。シックス・センスは続けていきたい。
ほんの少し目を開くと、そこには胡坐を掻いたまま刀を持ち上げている笑顔のギルディがいた。
「やっぱり」
もう駄目ぽ。
「待った!」
この危機的状況に待ったをかける救世主が、そこにいた。
白銀の鎧は、この絶望的な世界の中で光り輝いていた。まさしく希望の光。
美麗な装飾の金の片手剣と、荘厳な銀の大楯を構える姿は勇者のよう。
誰かと思ったらウィステリアだけどね。
「お前も生きていたのか」
「ああ、俺はしぶといセンスを持ってますんでね」
ウィスの大楯が、短剣のような速さで振り払う。ギルディは距離を取り、口元を歪めた。
「ああ――そういうセンスだったな、お前は」
ギルディが、大爆発とともに姿を消した。
粉塵の舞う中、装備破砕音だけが響く。
「がっ……」
「LUKが上がるんだったか」
目を凝らすとギルディの刀に貫かれた大楯と、片手で絞められたウィスの首が見えた。
ウィス何しに出てきたの?
「アホかよ!」
僕はギルディの脚を狙って低姿勢からのキックをお見舞い。しようとして、空いていないはずのギルディの手が僕の脚を掴んだ。
既にウィスの首から手は離されていたのだ。
「二対一か」
ギルディはまるで意に介していない口調だ。それもその筈、もう僕達二人の命は彼女に委ねられていると言ってもいい。
「ミンティ! こいつを!」
「はあ!?」
こんな状況で、何を考えたのかウィスは自らの剣を僕に寄越してきた。
僕が何か言う前に、ウィスは叫ぶ。
「今だ! ゴーレム!」
「オオオオォォォォ…………!」
瓦礫が動いた。と思えば、三メートルほどの石の塊が、ギルディに体当たりを食らわせた。
「なにそれ……」
「俺の使い魔だよ。そんなことよりお前、その剣使え」
「そんなこと……いや、何だよこれ。わけ分からん」
「俺は大罪には入りそびれたけどな、貰ったんだ。虚飾の剣」
拒食とか何言ってるんでしょうか。頭おかしくなっちゃったのかな? 精神科へどうぞ。
とか思ってたら、ウィスの使い魔であるゴーレムがすっ飛んできた。
「ウィ…………」
「おいお前の使い魔死んだぞ」
「ゴーレムゥー!」
ウィスは使い魔を抱きしめていた。硬そう。
「つーか、こいつも来てたのか?」
「ああ、私が最初に呼んで、すぐに再起不能になってもらったのだがな……生きていたようだ」
ギルディはゴーレムを投げ飛ばしたらしく、肩を揉んでいた。
「なあギルディ」
「何だ」
「あんた、何歳?」
「お前はいくつだと思っているんだ」
「さんじゅ……」
僕はそれ以上言えなかった。ギルディが大振りで刀を振り下ろしてきたのだ。数十メートルは離れていたというのに。
「面白い冗談だな」
「冗談も何も、まだ何も言ってな」
「黙ろう」
今度はギルディの正拳突きが、僕のみぞおちにクリーンヒット☆
あの世近づいてきたな。
ギルディの無言の剣戟を、僕はウィスから託された剣で受けていた。
次々と襲う死の刃を、冷静に的確に、打ち落とす。
「僕に何かしたか?」
「少し、センスをな」
僕の集中力が明らかに増している。
これも全てギルディのせいだろうがまだ僕の命は彼女の手中にあるような気がして気分が悪い。
「本当に面倒な奴だな……!」
「そうか」
唐突にギルディの攻撃が止む。
「では、これでどうだ」
ギルディは無造作にも見える動作で瓦礫に左手を突っ込み、一本の剣を取り出した。
それは見たことのある剣で、ここには無い筈の剣だった。
「傲慢の剣をやろう」
ギルディは躊躇いもなく剣をこちらに向けて投げてきた。
危ない。が、こいつを使えばギルディを倒せるかもしれない。ウィスから譲り受けたこの変な剣を違って。それでも使ってやる僕は偉い。
僕は、右手に傲慢を、左手に虚飾を構えた。
あと三話くらいで終わります。




