今日の所は勘弁してやる
投稿一話分遅れました! すみません!
「さて」
僕の圧倒的優位が証明されたところで、何をしたものかと一考する。
僕は殺されそうになったんだから、殺し返してもいい。
殺した後はどうするのだろうか。
リコリスが来る。
「じゃあ待機か……」
僕は三人から離れ、一息つく。すぐさまリコリスが帰ってきてほしいものだ。
というか、何で後から入った僕が早く出てきたんだ。こいつらも十秒くらいとか言ってたし。
「ッ!」
ゼタが、地に向かって斧を振り下ろしていた。
当然、何も起こらない。
僕の大罪武器、傲慢の剣は他の大罪武器の効果を打ち消す。
「クソ!」
「やっと、違う表情が出たな」
飄々としていたゼタは、怒りをあらわに握りこぶしを作っている。
「……何故あなたが傲慢などに!」
「そういや、お前は誰なんだ?」
ゼタはすぐに口をつぐんだ。
何とか喋らせたいので、僕は剣を持ってゼタに近づく。
「言え」
「……」
なおも物申さぬゼタの斧を強引に奪った。
「えい」
とりあえず壁に打ち付けてみると、縦横無尽にひびが入り、その姿を大きく変えた。
「言え」
「……私は、御神様の友人です」
僕の友達を考えそうになって、やめた。この場合御神様は僕の父だろう。
「わけあって、とあるお方に協力していました」
「詳しく話せ」
「……わけは言えませんが、とあるお方とは――」
理由も話せよ。
「平和の使者ギルドマスター、ギルディでございます」
「はあ?」
まさかの。
「ギルディ様はこのシックス・センスというゲームを利用し、何やら考えているご様子。あの方こそ、全ての大罪をつかさどるにふさわしい」
「全ての大罪、ね……」
そこで、突如として光が散った。
するどい金属音に振り向くと、アヤが槍を構えていた。
そして。
「ミンティさん。大丈夫ですか?」
「……リコリス」
リコリスがいた。アヤの槍と競り合うように持つのは、漆黒の短剣。逸れは愛別離苦のような醜い姿ではなく、高貴さを持った漆黒。
「無事、強欲を手に入れてきました!」
リコリスは強引にアヤを跳ね除けた。
強欲。ということは、残るは怠惰と暴食か。
「なあゼタ、大罪武器より強い武器ってないんだよな」
「そうですが」
「何の為に作られたんだ? ただユーザーの不満を煽るだけなのに」
そこでゼタは、間を作った。
脱出の算段でもつけているのか、と構えたがそれは杞憂に終わった。
「大罪武器は、作るべくして作られたわけではないのです」
「どういう――」
爆発音。僕は直感を頼りに地を蹴って下がった。
ゆらり、とさっきまで僕がいた位置に動く影。
「久方ぶりだな。血染めよ」
「なんで、メヒティヒ……?」
漆黒のマントを翻し、ポーズを決めるメヒティヒ。
その手に、いつもと違う大剣があった。
「それは言えん。我はこ奴らを取りに来たのだ」
ゼタとアヤはすぐさま走って逃げていく。
僕が追おうとすると。
「まあ待て」
攻撃の意志を醸し出す大剣が、僕の行く手を阻む。
「どけ」
「無理な話だ」
僕が傲慢の剣を振るうより早く、メヒティヒの大剣が僕の足元を抉っていた。
不可解な程のエフェクトとダメージを以て、僕は空中に吹き飛ばされた。
間違いなく、あれは暴食だ。
メヒティヒも大罪を得ている。
「何の能力だよ!」
「教えるわけがないだろう」
普段の、ふざけた厨二のメヒティヒとはまるで違う。トッププレイヤーの一人として明確な殺意を持って僕を殺しに来ている。
「あっそう!」
僕は力任せに振るった。メヒティヒの大剣が吹き飛ぶ。
と同時に、僕の剣も吹き飛んだ。
「な……」
「よそ見などするな」
メヒティヒの装備する強固なガントレットが、僕の脇腹にぶち当てられた。
クリティカルが発生し、僕は盛大に飛ばされた。
「今日の所は勘弁してやろう」
メヒティヒは大剣だけ拾って、どこかへ去って行った。
「おい……待て……」
眩暈の状態異常とも違う不可思議な感覚に襲われた僕は、ただその場に転がり、目を閉じゆくばかりだった。
何故だか、夢を見るだろうと思った。
いざ終章へ。




