転換
第十五の町モロッカス。僕達がそこに着いたのは、解放してから次の日のことだった。
「なんていうか……」
「漢って感じだぞぅ」
「暑苦しいです……」
僕、リコリス、ヘッズの前で闊歩する、筋骨隆々のおっさん達。手にはつるはしを持っている。
「さすが鉱山都市ですね。鉱夫さんがいっぱい」
「リコリス、鉱夫って差別用語だぞ。正しくは鉱員」
「坊主……そのドヤ顔をやめろ」
町の地図を見ながら、僕達はめぼしい地点を巡る。例によって廃人様の最速地図だ。
「鉱山鉱山炭鉱鉱山……どこもかしこも鉱山の入り口だらけ!」
至る所にあるのは、小さな小屋。
しかしそれは、この世界のどこかにあるであろう鉱山への入り口なのだ。本当にゲームって何でもありね。
「あ、あれラプラスじゃないですか?」
「んん……?」
前方のベンチに腰掛ける男女。
片や金髪碧眼の弓使い。
片やリア充っぽいお兄さん。
と、その隣の黒マントとおっさん。
「……ウィスと、メヒティヒにエルガーもいるぞ」
なんで皆して集まってるんだ。もしかして僕へのドッキリの為に身内で集まってたとか。まじかー、リコリスはぶられてんじゃん。仲間が増えるよやったねヘッズくん。
「お、ミンティじゃねーか、久しぶり!」
「久しぶりか?」
ううむ。なんだか時系列が思い出せないなあ。
「まあいいか……お前ら何やってんの?」
僕の問いに反応したのはメヒティヒだ。
「心して聞け。なんとこ奴ら……ギルドを結成するというのだ」
メヒティヒは、さりも重大げな言いぶりだ。
「はあ」
「おい、貴様無関心すぎやしないか」
そう言われても、僕はウィスとかラプラスとかに興味はない。
だが、僕の隣は違う反応を見せていた。
「ええええ!? ラプラス、ギルド抜けるの!?」
「ええ……ごめんなさい。あなたもくる?」
リコリスは戸惑っていた。
ラプラスについて行くか、僕と留まるか迷っているのか。
「リコリス……別に僕は」
「ギルドには、入らない。私は留まる」
リコリスの、普段の丁寧語とはまた違った雰囲気。
「……そう」
「つーわけでミンティ。この弓使いの美少女と秘密兵器のイケメンは貰っていくからな!」
秘密兵器のイケメン? 見当たらないぞ。
「勝手に貰っていけよ」
「うおぃ! ミンティそりゃねーぜ。ちょっとは引き留めたりとかさ……!」
黒の装備は、以前と変化している。純白の鎧。形容するならば、聖騎士。白銀の剣と盾を持っている。
誰だよ。
「ウィス……自分のことをイケメンと思ってるのはどうかと思うぞ」
確かにこいつはリアルでも良い方なのだが。
「貴様……本当に引き留めなくてもいいのか? メヒティヒには及ばんが、相当なセンスを持っているぞ」
メヒティヒは、いつものふざけた態度ではなく、真剣な声音だった。
「どんなのだよ……」
「一日一度のみ死んでも蘇生。そして蘇生後は常時LUK七倍、だそうだ」
LUK七倍とか僕とかぶってるじゃねえか。
「そりゃ凄い」
「反応うすぅ……」
ウィスが寂しげな顔をしたが、気にしない。
「そんなことよりも、ミンティ」
「なんだよ……」
メヒティヒがウィスを突き飛ばして言った。ウィス大丈夫か。
「メヒティヒを貴様のギルドに入れろ」
「嫌です」
「な……ぜだ」
「要らないからです」
メヒティヒは目に見えて打ちひしがれた。
「そうだミンティ。こりゃ俺からの提案なんだけどよ……」
「今度はエルガーか」
ばっちこい! 迎撃準備は整っている!
「十六の町解放、どっちが先にやれるか勝負しないか?」
「は?」
エルガーは意気揚々と、誘ってきた。
昨日この町が解放されたばっかなのにアホか。
「行くわけな」
「いいですね!」
「いいなそれ!」
「良いな、それは」
おっと馬鹿三人が舞い上がってまいりました。ラプラスは冷静にこの光景を見守っていた。いや、僕に向ける目線だけが妙だ。殺意かな?
「いやいやリコリス……今日はやめとこう」
「いいじゃないですか! 勝負してみたいです!」
「メヒティヒも賛成だ」
「お前は話に入ってくんな」
だが、リコリスは依然としてやる気だ。これを削ぎ落してしまうのもまた一興……ではなく、申し訳ないというものだ。
「……分かった」
「おおっし、じゃあ今からな! よーいスタート!」
エルガーは駆け出して行った。ウィスも続く。
元気だな。あいつら。
「さて、町巡りに戻ろうか」
「ええ!? ミンティさん行かないんですか!?」
「当り前だろ」
僕は元来た道を引き返す。確かこっちに面白そうな出店が。
「おいミンティ。メヒティヒをギルドに入れろ」
「ちょ、町中で剣を抜くな」
メヒティヒの剣がゆっくりと抜かれていく。
「ならばすぐ入れろ」
「しょうがないなあ……」
僕は素早くギルドメニューを操作し、メヒティヒをメンバーに入れた。
ギルドメンバー欄は、三人。ウィスとラプラスは抜けている。
「……リコリスは良いのか?」
僕はリコリスとメヒティヒには聞こえないように言った。
「……リコリスはもう一人前よ。だから……私は私の目的を果たすわ」
ラプラスはそう言い残し、行ってしまった。
「あれ、ラプラス行っちゃった」
「ま、すぐ学校で会えるさ」
ラプラスの目的、それが僕の邪魔をするようなら……リコリスには悪いがそれ相応の処置をしなければならない。
「どうしたミンティ……顔が怖いぞ?」
メヒティヒは僕の顔を覗き込んでいた。慌てて僕は歩き出す。
「なんでもない。行こう……リコリス」
「メヒティヒはどうした、おい」
それから一時間も経たぬうちに、ボス討伐の知らせは届いた。
* * *
一方。平和の使者本部のある、大罪迷宮第二十四層。
「さて、大罪武器……だったか。報告を」
ゆったりとした和風の装いの少女。というのは外見で、中身は少女ではない。
UWのリーダーであるギルディは、座り心地のよさそうな豪華な椅子にだらけた様子で座っていた。
「全九種類。各々違った特性があり、さらに相性があるとのことです。そのどれもが、現在取得可能な武器の数値を大幅に上回っています」
一人の男が答える。データに書類を見つつ。
「入手方法は?」
「……正確な情報ではありませんが……」
部下であろう男は歯切れ悪く答えた。それに対し、ギルディは若干苛立つ。
「話せ」
「……プレイヤーの深層心理を読み取り、大罪に相応しい者のみ通れる各武器の階層……その場所の試練に打ち勝つ、だそうです」
一様に沈黙。
今まで正確なデータを頼りにトップに立ち続けていたギルドは、このような情報を認めない。
それほどまでに、大罪迷宮最後の九階層にあるという九つの武器入手法は馬鹿げていた。
「そんなものを作って、何をしたいのやら……」
ギルディは呟いた。
この世界、このシックス・センスというゲーム、このゲームを作った人間を思い浮かべて。




