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亡霊の森にて、恋に落ちる

 ミンティのセンスは念じるだけで発動します。

 一時的にステータス一つを7倍。これは一見強そうで使えない、詐欺スキルとは違う。僕のATKはマスターアカウント補正込みで一般プレイヤー平均の約3倍。廃人プレイヤーの平均値が僕の1,5倍とかだったから、僕は下の方だ。だが、7倍すれば一気に廃人を追い抜く。上限は9999だが、そんな猛者はいない。だから、僕は一時的に一つの分野でこのゲームの頂点に立てる。ちなみに効果は7秒。使った後は70分経つまで使えない。

 だから今も、少女が見えた瞬間に剣を構えてATKを7倍にした。

 

 「……はっ!」


 剣で地面を一突き。そして、少女のやや右を狙って切り払う。たちまち地は割れ、裂け目は少女の隣を通って向こう側の木を倒した。そして少女が振り向いたので、こちらも剣を真っ直ぐ投擲。

 切っ先を少女へと向け、飛ぶ剣の攻撃力は現在もれなく7倍だ。当たれば確実に死ぬ。間一髪少女はそれを伏せて、というか尻餅をついて避け、剣は――少女の真後ろでロングソードを振りかぶる骸骨騎士に直撃。骸骨剣士はばらばらび砕け散って絶命した。


 「じゃあ、パン。返せ」


 少女の目の前に立ち、できるだけ笑顔でそう言う。今度は逃がさないように少女の肩を掴みながら。

 少女の顔が青白く、生気がなくなっていく。肩の震えが手ごしに僕に伝播する。よく見ると、可愛いかもしれない。綺麗な初期装備に、簡素な短剣を腰に提げている。

 ん? 初期装備?

 ヘッズの声がかかる。


 「おい。この子初心者だぞ」

 

 まじっすか。僕は初心者の女の子を追いかけていたのか。


 「なんだ初心者だったのか。悪気は無かったんだ。ごめんなさい」

 「い、いえ……パン、のことでしたら私が悪いんです。すみません、無知で。どうぞ、お受け取りください……」


 少女は申し訳なさそうな顔をしてパンのトレードを持ちかけてくる。

 なんだかこちらまで申し訳ないな。


 「いやいや、早とちりしちゃいましたね、僕。代金は払うので……」


 そこまで言いかけて僕は手を止める。視界に入るトレードのパン個数。


 ――1個。


 「はぁぁぁぁん!? 1個ってふざけてんのかお前!? 全部に決まってるだろ!」

 「すすすみません! もうその1個以外全部食べちゃって……美味しくて、ついつい」


 えへへ、といった能天気な態度に僕はおもわず殴りたくなった。


 「ついついじゃない! 1個ってこれさっきあんたが食ってた奴だろーが! 食えるかああぁぁぁ!」

 「ひゃああああ! ほんとすみません! 明日お詫びに買ってきますから!」

 

 少女は必死に誤っているようだが、だめだな。


 「よし。死んで永久ログイン不可になってしまえ」


 そう言って僕は骸骨騎士に刺さったままだったフルンティングを抜いた。


 「い、命だけはあああぁぁぁぁ……!」

 「駄目だね」

 「坊主、この子ダーリィのうまうま弁当もっとるぞ」

 

 ヘッズが少女のストレージウィンドウを見たまま言った。その言葉に僕は振りかぶろうとした剣を止めた。

 何ィ! ダーリィのうまうま弁当……。それはダーリィというプレイヤーが気まぐれに作る日替わり弁当。NPCの作る高級レストランの料理よりも美味いらしく、日々人々はうまうま弁当を欲している。しかしダーリィは気まぐれであり毎日作るわけではない上、相当な廃プレイヤーなので町にはいないことが多い。

 それを、この子が……。

 もうそれで許そう。


 「…………よし。じゃあ僕に弁当をくれたら許してやるぞ」

 「本当ですか……? では、どれにしますか?」

 

 どれ? どれってどういうことだ。うまうま弁当の各品目の一つを選べということか? ケチなのかな?

 なんて僕が不思議に思っていると、ヘッズがやたら良い声で戦慄く。


 「ミンティ……うまうま弁当が、3つある……」

 

 

 * * *


 

 結局うまうま弁当は僕とヘッズと少女――プレイヤーネーム、リコリスの3人で安らぎの丘で食べることにした。ヘッズは小さな口で必死に食べ続けている。リコリスは最初僕のマントを怖がっていたが、仮想の返り血なんだからと説明するととたんに気にしなくなった。彼女は本当に初心者で、どうやってここまで来たのか聞くと、見知らぬ男に絡まれて知らぬ間に来ていたらしい。たぶんテレポート系のシックス・センスだったんだろう。初期装備と初期所持金でここに飛ばされるとは、不幸な女の子だ。


 僕は、決意した。


 「リコリス。これ、あげるよ」

 「……? これは?」


 ささやかな善意とともに、僕は細やかな細工の施された銀の短剣を差し出した。僕の手持ちの中での相当なレア武器だ。僕が人に物をあげるなんて珍しい。


 「愛別離苦っていう名前の短剣。レア武器だよ」


 この武器の名前を考えた人は変人じゃないか?

 リコリスも僕と同じ考えなのか、微妙な表情を作る。

 

 「愛別離苦って……。これ、私の武器と比べてだいぶ数値が違うんですが……」

 

 思わず僕は苦笑する。発言がゲーム初心者って感じだ。


 「そりゃそうだよ。だってその武器は……高かったからね」

 

 そう言うと、ヘッズの目つきが少しばかり鋭くなる。今の僕の発言は、うそだ。この短剣、愛別離苦は買ったものではない。マスターアカウントの特典だ。

 僕もそう言おうとしていた。だけど、直前になって嘘をついてしまった。

 なんだか彼女をだまそうという気にならなかった。卑怯で性格の悪さを自負している僕だが、嘘をついたことは無かった。

 

 「ええー! そんなの、貰っちゃっても良いんですか!?」

 「うん……いいよ」

 

 リコリスの純粋な喜びが伝わってきて、胸が少し痛む。本当に経験したことがないな。

 今日はもうログアウトしたい。


 その趣旨を伝えると、是非明日手ほどきをしてくれと頼まれたので、初めてフレンド登録をして、その日は落ちた。


 「今日は、疲れたなあ……」


 一人、ベッドの上で呟く。ベッドに設置されたVRゲーム機は、静かにその声を潜めた。

 上半身だけ起こして窓の外を見る。ここは家の3階だから、結構町を見渡せる。

 ふと西を見ると、じょじょにその身を地平線に滑り込ませて行く夕日が、やけに明るかった。まぶしくて目を背けた先の、目を凝らさなければ見えない月が、その後もやけに頭に残った。


 明日月曜日なの、嫌だなあ……。

 試行錯誤しながら書いてる感じですね……。無理やり感は否めない。

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