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ログアウトできるデスゲーム  作者: 245
トッププレイヤーズ
19/40

脱出口

お待たせしましたあ!

「くそが!」


 僕は迷路の壁に断罪の剣を叩きつけた。壁の耐久値は気が遠くなるほどの数値に設定されており、割合ダメージでも与えない限り破壊には至らない。


「短気だぞぅ。もっと気長に行け」

「さっきから同じ場所を巡っている僕の気持ちが、お前みたいな毬藻に分かられてたまるか」


 どうやらこの迷路には、無限ループの仕組みが施されているらしい。ずっと同じ地点を回っている。

 一旦外へ出たいものだが、脱出方法というのも探さなければならないようで、来た道もループしている。


「小僧よ。まずは落ち着け、な? 俺が一発芸を披露してやる」


 ヘッズは何やらし始めたが、僕は無視する。脱出口を考えねば。


「エルガーとメヒティヒはどこ行ったんだ……」


 出会ってないということは二人も迷っているのかもしれない。それは別に問題ないし知ったことじゃない。

 このエリア、まだ十四番目だというのに中々難関だ。


「誰か通れば脅迫してでも聞くのにな……」


 四方の通路には何も見つからない。ただひとつ、何をしても反応しない石像があるだけだ。

 蛇を模した像。おそらくこのエリアのボスだろう。

 この像に僕は斬ったり殴ったり、押したり喋りかけたりヘッズに探知させてみたりもしたのだが、何にも引っかからないただの無駄オブジェクトという結論に至った。

 そういった無駄な要素はシックス・センス中では珍しくもない。頻繁に遭遇することだ。


「フレ欄でも見てみるか……」


 僕は片手で数えられる人数のフレンド欄を表示した。


「ギルディ、エルガー、リコリス、ウィス……ん!?」


 リコリスがログインしていた。それは問題ではないのだが、パーティを組んでいない。

 僕はリコリスを一人になることを極端に恐れて積極的に放したくもない人間と関係を取り持つ女の子だと思っていた。ラプラスと組んでないなんて。


「ふーむ、変だな。チャットでも飛ばしてみるか」

「おい小僧、俺の一発芸を見ろよ」


 リコリス、一人か? いや、なんか誘ってるみたいで嫌だな。もっと可笑しくいくか。


「アイエエエ!? ヒトリ!? ヒトリナンデ!? っと」


 送ってから、頭おかしいなと思ったが、諦めた。


「……小僧の勇気に乾杯」

「なんでだよ」


 ぽーん、とすぐさまチャットが送られてきた。


「ソロ攻略中です……だと?」


 リコリスが忍殺語を知っていたのも驚きだが、ソロ攻略とはどういうことだろうか。

 もしかしてこの迷路にいる的な……。


「おい小僧、アレ……」

「なんだ?」


 僕は通路の先を見た。

 映る人影。小柄なシルエット。メヒティヒか。


「……」

「ミンティさん! 今日学校来なかったんですね!」


 漆黒のマントではない。大剣を背負っていない。かっこつけない。


「久しぶりだなぁ、嬢ちゃん」

「ヘッズも久しぶり!」


 リコリス本人が、通路を走ってきた。


「なんで、ここにいるんだ……」

「さっきチャット飛ばしたじゃないですか。ソロでボス挑みたいなーって」


 リコリスにそんなことが可能とは思えないが、どこから溢れる自信なんだろうか。


「冗談だろ? リコリス、今レベルは?」

「28です!」

「僕と僅差、だと……一体どこの狩場を?」


 一日二日でどんだけ上がってんの。僕の苦労を潰していくスタイル?

 ちなみに僕は十三の町付近のスポットを使っている。滅茶苦茶に効率が良いというわけではないので、穴場があるならば是非聞きたい。


「ふふ。秘密です」


 リコリスは優しくありませんでした。

 効率の良い狩場を教えるという行為も、このシックス・センスというやや特殊なゲームでは推奨されていない。

 ひたすら自分が生き延びることを考え、情報は独占。ガチ勢がそれを暗黙の了解としているせいで、攻略サイトなんかにプレイヤー間の希少な情報が載ることは少ない。こんなけ゛ーむにまし゛になっちゃって どうするの。


「嬢ちゃんもこのゲームが分かってきたな」

「ヘッズがそういうこと言うのはどうなんですか……」


 ヘッズは平然とメタ発言をぶちかましていくAIだ。ゆえに僕は、この世界観に没頭することができない。

 日本人憧れの異世界。超能力。剣。

 この黒い毬藻だけが害悪だ。


「それでリコリス、この迷路の脱出口はどこだ」

「えーっと…………こっちです」


 リコリスは二つ通路を見比べ、一方に歩き出した。僕はヘッズをマントの中に入れつつついていく。


「今日はなんでラプラスと組んでないんだ?」

「それがですね……ラプラスちゃん、最近忙しそうで……」


 リコリスは若干俯いていた。

 彼女にとってラプラスとは、師であり友。同じVRMMOをプレイする唯一……の……。


「なあ、リコリスのゲーム内フレンドって、何人ぐらい?」


 僕的にはラプラス、僕、ウィス……ぐらいだと思うんだが。


「少ないですけど、十人ぐらいです」

「……!?」


 多いって。どうやってそんなに友達って作れるの? 僕なんて一年やって四人だよ。現実よりか多くて泣ける。


「実は良いレベル上げの場所を教えてくれた人も昨日フレンドになって……ミンティさんも知ってる人ですよ」

「え、誰?」

「それはですね……」


 リコリスは焦らすようにゆっくりとした口調だ。勿体ぶるう。


「なんと……ダーリィさんです!」

「な、なんだってー!!」


 素で驚いた。

 あの、プレイヤーと接することを極端に嫌うあのダーリィが。

 あの、うまうま弁当で瞬く間に有名人となった料理センスを持つダーリィが。


「コネで弁当買えたり、する?」


 言ってて僕は自分でも必死だと思った。それ程までに、ダーリィのうまうま弁当は価値あるものなのだ。

 僕だって一年やって二度しか食べたことがない。


「どうでしょうね。フレンド登録も気まぐれでって感じでしたし」

「本当に気分屋だな……」


 ダーリィは滅多に姿を現さず、滅多に弁当を売らない。レアモンスターなんかよりよっぽどレアだ。


「それでも凄いな。ダーリィのフレンドって一桁しかいないらしいけど」


 僕の一桁とは違う一桁だ。


「ひゃー……恐縮です」


 そんなこんなでついに、僕達はボス部屋の前にたどり着いた。


「……あいつらはどこ行ったんだ……」

「あいつら?」


 道中、エルガーとメヒティヒに出会うことはなかった。


「いや、なんでもない……それより、二人で挑むのか?」

「はい。私の成長を見て下さい」


 リコリスは扉を開いた。

 またペナルティが発生するから、できればボスに挑みたくないのだが。


「……」

「なんだ、アレ……」


 白い、物体。それは丸っこく、もふっとした、柔らかな質感を持つ。

 綿のような体毛。つぶらな瞳。

 それは、生き物とは思えなかった。


「ぬいぐるみみたいですね……可愛い」


 リコリスは白い物体を見つめていた。

 可愛い、か。僕にはあのモンスターが脱脂綿にしか見えない。


「もっふぁああああああ」

「!?」


 突然脱脂綿が叫び、頭上にネームタグが表示される。プリティ・フォーティーン。安直な名づけだ。

 だがボスの叫びに呼応するかのように扉が閉まり、足元には脱脂綿が出てきた。


「歩きにくいな……」


 脱脂綿のせいで思うように足が動かない。特殊フィールドで戦うタイプか。

 かと思えば、リコリスはすいすいボスの方へ進んでいた。


「なんでこの足場で速く……足装備変えた?」

「気づきましたか。特注品です」


 リコリスはすいすいと、という表現はおかしいが走っていた。

 シックス・センスのプレイヤーメイド装備には、NPC装備にはない効果をつけることができる。例えば炎に強い鎧、幻視効果の剣、早く走るブーツ。状態異常の矢なんかもそうだ。

 だが、どれも効果を付与するには希少な素材が必要となる。


「特注って……知らない間に金も稼いでたか」


 知らない間といっても1.5日程度だが。


「そんなことより! ミンティさんも手伝って下さい! このボスすごいタフです!」

「やれやれだぜ……」


 僕は既にリコリスの持つ愛別離苦によって体力が削られ続けるボスに向かう。

 右手でフルンティングを、左手で断罪の剣を。


「二刀流……!?」


 リコリスの驚く顔が見えたが、大したことはしない。

 ひたすら二刀を振り回し、力任せに叩きつける。

 AGI七倍で。


「自分でもどう振ってるのか分からない……!」

「すごいですミンティさん! ネタ枠として最強です!」


 褒めてるのか分からない言葉だが、確かに良い。

 無心に剣を振るうというのは、字面は恰好いいが、ただの脳筋だ。


「もっ、もふぁ……」


 苦しそうに呻き声を上げ、ボスの体が少しづつ散っていく。


「ふう……」


 七秒の内にボスは力尽き、脱脂綿を爆散させてアイテムをドロップした。


「十四番目の縄……こんなの何に使うんだ……?」


 ドロップしたのは白い、何の変哲もない縄。それ単体では活用法が見つけられない。


「とりあえずヘッズでも縛っとくか」

「おい待て小僧。どう縛る気だ……球を縄ででで!」


 ヘッズを取り出し、球体状の体にぐるりと縄を横方向に一周。それを縦方向にも一周。


「かたく結んでおこう」

「いででででで」


 結果、ヘッズの毬藻みたいな体に縄が強く食い込み、新手のボンレスハムみたいになってしまった。


「腰に提げておけばお洒落ですね」

「嬢ちゃん……ちと小僧に似てきたなぁ……」


 腰にぶら下がるヘッズを無視し、リコリスは迷路を出るべく歩き出した。

 一体何がリコリスを変えてしまったのか。どう考えても僕です本当にありがとうございました。

 僕とリコリスは迷路を脱出した。

第十五の町、解放。

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