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ログアウトできるデスゲーム  作者: 245
トッププレイヤーズ
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覇と血の決闘

 地下っていれてないけど階層は地下です!

 覇王女ギルディが大罪迷宮に現れてから数分後。九十一階層ボスは倒され、九十二階層への扉が解放された。

 僕は――というかギルディ以外の裏攻略組は、全員ギルディについていくだけだった。

 不可解なほどの速さで疾駆し、一刀で大群を斬る彼女はまさしく覇王と呼ぶにふさわしい。


「どれ、こんなものか」

「リーダー……攻略に参加するなら先に連絡してください……」


 一人九十一階層への扉前で涼しい顔したギルディに、道中鬼の如き形相を見せていたハーケンが言った。

 

「サプライズ感を考えたんだ。驚いただろう?」


 ギルディはたった一人でボスを討伐することができた。それに巻き込まれないよう逃げ回っていた僕たちだったが、当の本人はあまり気にしていない。


「クソババアが……」

「役立たずのミンティは、殺されたいのか?」


 僕が隣のエルガーも気づかないほどの音量で漏らした悪態も、ギルディは耳ざとく聞いて一瞬で間合いを詰めてきた。

 彼女の耳はシステム的におかしい。速さもおかしいしダメージもおかしい。もっと言うなら本人自体がおかしい。


「失礼なことを考えるな。そして、私はまだ二十代だ」

「アラサぐふぅ!」


 ぼやいたエルガーがギルディの拳一つで吹っ飛んだ。壁に叩きつけられ、僕の視界に表示され続けているエルガーのHPバーがぐーんと減少する。

 なんてSTR値だ。チーターか?


「さてミンティ。ボスドロップをやろう」

「いりませんよ」


 と、僕が言った時には装備品はオブジェクト化されていて、地面に転がっている。ギルディは何もかも速すぎる。


「お前の片手剣、一年前から換えてないんじゃないのか? ……いいから使えよ」

「……まあ、ありがとうございます」


 ギルディが刀を半身ほど抜いたので、僕は九十一階層ボスドロップ――断罪の剣を手に取った。

 

「フルンティングが黒でそれが白。黒衣だし、二刀流したらお前無双できるんじゃないか?」

「僕はあんなに格好良くありませんよ」


 断罪の剣は、刀身から柄まで真っ白だ。迷宮のかがり火を跳ね返し、静かに存在感を放つ。

 こんな真っ白なのを差してたら目立つな。鞘は黒色にしてもらおう。


「さて、ミンティ。ここで一つ、剣の代償として要求がある」

 

 ギルディは唐突に言い放った。周りの裏攻略組もなんだなんだと座ったまま見つめている。


「……決闘を、してもらおう」

「……は?」


 僕は断罪の剣を手から滑らせた。迷宮のボスエリア特有の、堅い石の床に盛大な音を鳴らす。

 慌てて僕は剣を拾い上げ、ギルディが冗談を言っているわけではないことを確かめた。


「ほれほれ」

「ちょ……アンタなんかとやったら、僕が瞬殺されますよ」


 ギルディは前回六十七階層攻略時に教えてもらったレベルが75だったはず。僕と40以上の差がある。


「じゃあ、ハンデとして……シックス・センスを使わない。お前はこの迷宮でセンスが強化されているから、同じくらいの強さにはなるだろ」

「いや、なんですけどね」

「ほう。さらに条件をつけろと? そうだな……じゃあ、武器は使わないでやる」

「何でこの人こんなに決闘したがってるんだ……」


 ギルディはまるで拒否を許さないといった顔だ。

 とはいえ、武器も、センスもないギルティなら、倒せるかもしれない……。


「あ、僕まだ死にたくないです」

「安心しろ。手加減はしてやる」


 本当に手加減してくれるんだか。

 もっともここで断ったとしても、問答無用で斬り捨てられるだけだろう。

 

「なら、こっちが殺すまでだ……」

 

 決闘開始のカウントダウンが始まる。その声は空間いっぱいに広がり、周りの者は壁際に寄っていく。

 視界に、メヒティヒとエルガーが見えた。応援してるような、死んでしまえと言われているような。


「よそ見とは、余裕だな」

「戦闘開始までは動かないで下さいよ」


 間合いなど無いかのように、ギルディが距離をつめていた。残りカウントダウンは五秒。僕はギルディの方を向きつつ後ろへ下がる。


 これは殺し合いだ。死ねば確実に失うものがある、やり直しのきかない闘い。


「ふー……」


 耳に聞こえるカウントダウンも小さくなっていく。なんと言っているのかよく分かっていないが、決闘が開始したのは理解した。


「らあっ!」

「……!」


 開幕と同時にAGIを七倍。向こうが様子見に興じている間に決着をつけるつもり、だった。

 僕の新たな相棒――断罪の剣は、ギルディの片手に受け止められていた。


「どんなDEXだよ……!」

「日ごろの修行の賜物だな」


 すぐさま僕は飛び去る。と同時にATKを七倍。地面の堅い石――の間に突き刺す。たちまち地にひびが走り、所々隆起した床が出来上がった。

 少しは足を崩してくれるかと、淡い希望を抱いたのが間違いだったかもしれない。

 ギルディは隆起した足場から水平に跳躍してきた。


「お前はセンスを、まるで使いこなせていないな」


 ギルディの拳が近づいた。僕は咄嗟の防御を繰り出す。

 剣は押し切られ、精一杯身をよじり躱したと思ったら、フルンティングが盗まれていた。


「驚いている暇も与えん」


 フルンティングの切っ先が僕の体を貫こうとし、僕は腕で攻撃を受ける。

 声を出す間もなく、僕はギルディが次の行動に移る前にAGIを七倍して飛び去る。

 

「強すぎだろ……」

「相変わらずATKとAGIしか使わんな。他をやってみろ」


 ギルディはフルンティングを構えたまま静止した。

 僕に他の手を見せさせるつもりらしい。


「……じゃあ、と言いたいところですが、僕は二つしか使えませんよ」

「嘘をつけ」


 STR? 戦闘では役に立たない。


「本当ですよっと……!」


 僕は七秒経たない内にギルディを急襲した。断罪の剣を逆手に持ったまま。

 一定の距離まで詰め、STR七倍、そして投擲。


「何を……」


 ギルディはフルンティングをで断罪の剣をはじき返した。武器使わないってのはどうした。

 

「ここでDEXを七倍ですよ」


 僕は半端ない器用さの左手で空中の断罪の剣を掴む。とともに、右手でフルンティングを盗み取った。


「な……」


 ギルディが僕の新たな行動に一瞬でも不意をつかれてる間に、僕はCRIを七倍した。

 無様な二刀流での連続攻撃を浴びせる。たまに発生するクリティカルのエフェクトが眩い光を漏らす。


「……ちっ!」

「おっとぉ!」


 ギルディの力任せの本気パンチ。食らえば死ぬ。

 なのでDEFを七倍、二本の剣をクロスさせて受け止めたのだが、HPが三分の一ほど削られた。


「そして……!」


 ここでVITを七倍しても意味はない。

 なので僕は残る一つ、LUKを七倍して運に任せた。何も考えてないぞ!


「せい!」

「なっ……」


 僕はなるべく無心で振った。

 LUKはゲーム中最も信用してはならない要素だ。なので僕は、期待をしない。

 僕の振ったフルンティングはギルディの足を掠めた。ただそれだけだった。


「……これで終わりか?」

「そうみたいですね……」


 万策尽きた。とは言っても、思い付きだったが。

 ギルディが覇王女と呼ばれる所以に、彼女自身の身勝手さというものがある。刃向かう者は殺し、覇道を突き進んできた。

 目の前の剣客みたいな人も刀を抜いてるし、僕は死ぬのだろう。

 

「手加減は?」

「やはり、殺しておきたくなった」


 ギルディが刀を振り上げた。

 ああ、こんな1プレイヤーの気まぐれで、この世界の僕は死ぬのか。


「……ん?」

「足が……動かん……」

 

 ギルディは僕の目の前で刀を落とし、へたりこんでいた。


「どうやら偶然脱力の状態異常がかかったようです」


 ハーケンが近づいて言った。

 脱力の状態異常なんて聞いたことないが、どうやら幸運にも偶発したらしい。


「じゃ、引き分けですかね」

「かなり不本意だが、そういうことにしておいてやろう」


 こうして僕とギルディとの決闘は幕を閉じた。

 

 この決闘が後に波乱を生むことになることを、プレイヤーは知らない。

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