黒き旅団
日曜日の九時。僕たちは第十三の町郊外の――先週イダイ達を殺した現場の小屋に集まっていた。
「……お前ら毎度毎度日曜日にログインして暇人だな」
「小僧。盛大なブーメランだぞぅ」
失礼な使い魔だ。僕はすべき事を全て迅速に終えるから暇なんだ。
「そんな事はいいから、さっさとギルド結成手続きに行きましょう」
ラプラスは少し苛立ったような様子だ。
「そうだぜミンティ。全員揃ったしさっさと行こうぜ」
ウィスが同調して言った。
リコリスはさっきからこっちをチラチラ見ては俯いている。
僕以外の三人と一匹はもうギルドを結成する気でいるようだ。
「お前ら……誰が金を出すと思ってるんだ……」
ラプラスは心底不思議そうな顔をする。
「お父さんから貰ったお金で、RMTしたのでしょう?」
「ちがうわ!」
「ち、違いますよラプラスさん。多分、今まで殺した人の……」
「もっとちがう! 僕は強盗殺人なんてしない!」
「じゃあアレだな。ミンティ乞食したんだろ」
「ちがあああう!」
僕が精いっぱいの叫び声を上げると、場は静寂に包まれた。
「僕はギルド結成に賛成じゃない。僕が動くのはなんらかの利益がある時だけだ」
僕はどかっと椅子に当たるようにして座った。
「利益、ねえ……お前の戦力になるぜ!」
「初心者二人と気難しい弓女が?」
ラプラスが立ち上がって睨んでくる。
「血染め。私は同じ学校所属である事とリコリスの意見の、二つを考慮してあなたを殺さないでいるわ。馴れ馴れしくする気もされる気もないわよ」
よく言うな。決闘したら絶対負けるだろこのお嬢様。
「すまんな、ラプラス。坊主を今は殺さないでやってくれ」
「! ……今はね」
あれれ、ヘッズの一言でラプラスが退いたぞ。これからはラプラスにヘッズを対応させよう。
「坊主。要はこいつら三人が戦力になりゃあいいんだな?」
「そうだな」
「ならよぅ……三人で、第十三の町のボスを倒すっつうことでいいんじゃねえか?」
「……できるならな」
第十三の町のボス、つまり石の湿原の中央部に位置するボスを倒すというのか。
「ミンティ! 俺らやるぜ! な?」
「は、はい」
「ボス……大丈夫かしら」
どうやら三人は不安ながらもボスを倒すことに賛成のようだ。そこまでしてギルドを組みたいのか……。
「一応坊主と俺も付いて行って、後ろから見守るってぇ事で、な」
「今から行くのか……」
僕が重い腰を上げる頃にはリコリスとウィスは小屋の外へ駆け出していた。その元気を、この老体にも分けてくだされ。
ヘッズも出て行った小屋は、僕と、眼光鋭い金髪碧眼美少女ラプラスだけになった。
「どうしたんだ、僕が面倒くさい条件を出したことが不満か?」
「リコリスはあなたに好意を持っているわ」
短い一言は、僕を押し黙らせ、足を止めるには充分だった。
「あなたにどんな過去があったのかは知らないけど、逃げる事は最善ではないわ」
「……勘弁してくれ。僕は逃げたがりの臆病者なんだ」
言うべきではないと分かっているのに、他の答えが見つからない。
「私はリコリスを守る為に、ギルドに入るのよ。……あなたの為じゃないわ」
ラプラスが小屋を出る。僕は、しばらく突っ立っていた。
ラプラスがそこまでしてリコリスを守ろうとする気が理解できない。一週間の間に何があったんだゆり。
僕は小屋を静かに出た。
***
僕らは石の湿原へ向かっていた。
僕は改めてパーティメンバーの服装を見回す。
「お前ら揃いも揃って黒い。黒くないのはお前の髪だけだ!」
「なっ……防具は茶よ」
ラプラスが防具をを指さす。
「ウィス、なんでそんな暗黒騎士みたいな恰好なんだ……」
「いいだろ。第四の町で買った!」
ウィスは真っ黒な鎧に漆黒の大剣の、暗黒騎士を連想させる装備だ。小屋の中では違う装備だったから分からなかった。
僕が赤黒だとするとウィスは漆黒だ。
「リコリスも、まあ黒いしな……」
「それは私の馴染みが選んだのよ。ごめんなさい」
珍しくラプラスが謝罪をする。リコリスに。
僕に言ったわけじゃないんですね、ラプラス=サン。
「……じゃあ、黒の旅団、っていうのはどうですか?」
「中二病か」
突然リコリスがこじらせた。由々しき事態だ。
「ち、違いますよ! ギルドの名前です。まだ決めてなかったじゃないですか」
ああ、ギルド名か……山の守り手とか、間違ってもそんな名前になっちゃダメだからな、よく考えなければならない。
「そうだな……血祭クインテッド」
「却下」
僕の言葉は言い終えない内にラプラスによって一蹴された。じゃあお前はどうなんだよ。さぞかしお洒落なネーミングセンスなんでしょうねぇその装備のように。
僕がその意を込めてラプラスをじっと見ていると、ラプラスは目を逸らして言う。
「別に、私はリコリスのでいいと思うけれど……」
「さすがラプラスさん!」
仲いいのね君ら。不公平だ! 贔屓反対! 男女平等!
「俺もいいと思うぜ。黒の旅団……こう、テンション上がる感じだな!」
「ああ、いい名前だ。それにしよう」
ウィスとヘッズも賛成していた。嘘だろ? ここには中二しかいないのか?
「待て待て。血祭クインテッド、いいじゃないか。ヘッズもちゃんといれてるんだぞ」
と言っても皆聞く耳を貸さず、黒の旅団に決定したようだ。お金出すの僕っていうの忘れてませんか?
* * *
そんなこんなで石の湿原に着きました。
「白っ! 何も見えねえ!」
「まったくだな……僕の眼がおかしくなってしまう」
石の湿原は無駄に霧のエフェクトがかかり過ぎている。
「俺ぁ一応魔物とお前さんらは見えるが……」
「皆、ついてきてるかしら」
ヘッズでさえ辟易しているこの場所で、唯一人いつも通りに歩くラプラス。こんなに奴のセンスを使いたいと思ったことはない。
センスを使いたいと言えば、僕らと同じく視界が霧まみれのリコリスは、ラプラスのセンスをコピーしたらいいんじゃないだろうか。
「リコリス。ラプラスのセンスをコピーしたらどうだ?」
「はっ! その手がありましたか!」
早速リコリスはセンスをコピーした。
というかリコリスは、今の今まで自分のセンスを忘れていたのか……まあ仕方がない。初期の設定を忘れたまま投稿し続けてやむを得ず後でこっそり修正する物書きもいるからな。
「うう……まだもやっぽいのが……」
どうやらリコリスのセンスの欠点、効果半減が仕事したみたいです。どうやら真っ白ではなく白っぽくなってしまったらしい。ちょっとガンマ上げたみたいな感じかな。
「役に立たん能力だな」
「ミンティさん……ひどいです……」
リコリスがしょんぼり。ラプラスが睨んできた、ような気がする。
「ご、ごめん……悪気は少ししかなかったんだ」
「少しあったんですか……」
ため息交じりのリコリス。そんなんじゃこの厳しい世の中を生きていけないぞガハハ!
さて、なんやらかんやらして中央部の広いエリア前に着いた。よーく目を凝らしてみると濃霧の中に影が見える。あれがボスだ。
「じゃあお前ら、僕はここで見てるから行ってこい」
三人と一匹は静かに歩き出した。
第十三の町程度のボスならレベルの基準的に三人で倒せます。
これから全然でてこないでしょうが一応皆のレベルです。
ミンティ 29レベル
ラプラス 20レベル
リコリス 14レベル
ウィステリア 5レベル
ヘッズ(使い魔にレベルはないが、仮定で) 13レベル