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君に会えた

 シックス・センスは一年たってまだ十三の町とかなので、そんなばんばんお金は稼げません。防具一式で10万Gほどです。

 マウロ及び数百人のプレイヤー虐殺事件は、瞬く間にシックス・センス中に広がった。僕の新たな功績に加わるのだろう。が、マウロ及び数百人のプレイヤーはどうやら全員がPKプレイヤーだったらしく、あまり非難の声は挙がっていない。

 むしろラプラスなんかはプレイヤー達から感謝されているようだ。僕にはそんあ事一切なかったが。

 そんな日曜日の事件も、VR中だけの話。現実――学校にくれば、何も変わっていない。


 ***


 学校、昼休み。僕は屋上で一人昼食をとっている。べ、別に友達がいないわけじゃないぞ! 勘違いすんなよ!

 

 「おっす御神。元気か?」

 「……元気だよ。松藤君」


 一人だと思っていた空間に割り込む影。ウィスの中の人である松藤だ。


 「松山藤人だ。弁当、いいか?」

 

 松藤じゃなかった松山は、僕の返答を聞かず近くに胡坐をかいて座った。僕は何も言えない。お前は友達じゃない。


 「他のやつと食べた方が面白いと思うけどね。頭すっからかんの人間同士で不毛なお喋りと気まずい空間の」

 「今日は気分が違うんだよ……」


 松山は運動部らしい大きな弁当箱を広げる。大して僕の昼食はパンひとつ。


 「用もなしってわけじゃないよな?」

 「……ああ。御神、お前一年の月風さんって知ってるか?」


 月風……聞いたことのない苗字だな。


 「いや、知らないけど……どうかしたのか?」

 「シックス・センスの話してんの聞いちゃってさ、気になったんだ」

 「だからって僕に聞くか? リアルとゲームは全くの別物だぞ」

 「いや、別物なんだけどさ……ミンティって単語が聞こえて」

 

 僕は口にパンを運ぼうとしていた手を止め、おろした。


 「僕は有名人だからな。プレイヤーに噂されることもあるだろう」

 

 僕はそう言ってから残りのパンを口につめこむ。僕はそれなりに有名人なのだ。それしきの事で驚きはしない。


 「……その子、リコリスだと思うんだ」

 「!?」


 僕はのどにパンをつまらせ、盛大にむせた。


 「……んぐっ…………何を、根拠に?」

 

 僕はむせ返る喉で必死に言葉を紡ぐ。


 「勘」

 「勘でものを言わないでくれ……」


 だが、松山は不服そうな顔をする。


 「一回見れば分かるって! 今からいこーぜ」

 

 松山は半分程度しか減っていない弁当を片付け、立ち上がった。


 「嫌だね。僕は動きたくない」

 「いいからいくぞ!」

 「ちょ」


 僕が拒んでも、松山は腕を引っ張って屋上を出た。運動部所属の奴には筋力差で負けるな……。


 僕たちは一階、一年生クラスの所に着いた。


 「で、どこのクラスなんだ?」

 「いやー……それは知らないな……」


 僕の通う、至って普通の公立高校は、各学年8クラスある。一つ一つ探して回るなど愚の骨頂だ。

 

 「あ、あれ」

 「そんなバカな……」


 松山君の指さす方向は、B組の前廊下窓際。そこには二人の少女がいた。

 一人はすらっとした体躯と流れる黒髪の、大人びた美しさを放つ少女。一年生の筈なのに僕より年上なのではないかと錯覚してしまう。

 もう一人は小柄な、地味めだが可愛さを秘めている茶髪の少女。会話に顔を綻ばせているのは何とも愛らしい。

 

 「……まじで?」


 うーむ……ラプラスとリコリスに見えなくも、ない……か。ラプラスのは金髪碧眼だから日本人とはだいぶ違うが、あの眼は……うーむ。


 「とりあえず話しかけてみようぜ」

 「ま、待てって」


 何の躊躇もなく単身女子二人の会話へ突入しようとする松山君。マジリスペクト。世のモテない男性諸君はこういったことから始めることをお勧めします……逆か。始めないからモテないんだ。

 僕は慌てて後を追い、女生徒二人の前へ。


 「……何でしょうか」

 「……?」


 予想通り二人は警戒している。そりゃあ、急に見知らぬ男二人が接近して来たら嫌だ。うわ、何……? とか言って避けたりする。

 が、ここにおわすはリア充松山藤人先輩だ。僕一人なら確実に通報されていました。


 「ちょっと、話いい?」


 あくまで爽やかに。あまりにも滑らかな誘いは、思わず僕が返事するまである。


 「えっと……誰でしょうか」

 「俺は松山藤人。で、コイツは御神爽……知ってるだろ?」

 

 極めて自然な自己紹介。しゃべることに慣れているという風で、初対面に対する緊張感が松山にはない。


 「御神……ああ、シックス・センスの開発者が社長の」

 

 僕は一応御曹司だ。学校中とまではいかないまでも、そこそこ知られている。妬み恨みもセットで。


 「君ら、朝シックス・センスの話してたよね? プレイヤー?」

 「……もしかして、ウィステリアと……」

 「ミンティ、さん?」


 どうやらアバターの僕たちとリアルの僕たちは酷似しているようで、二人にあっさりと看破された。

 僕が空気だったのでここで口を挟んでおく。

 

 「そしてお前はラプラスで……そっちがリコリスだな」

 「そうよ。まさかこんな所で再会するとはね、血染め」


 ラプラスの中の人は、ゲーム内と変わらない人殺しの眼でこちらを睨んできた。いや、人殺しはどっちかっていうと僕なんですが。


 「えっと……月風彩香さん、だよね? それで君は?」

 

 松山が確認するように言った。リコリス――月風さんは頷く。


 「古海凛子(こうみりんこ)。あなた達のような先輩に敬語は使わないわ」

 「おい、年上を敬え」


 年上に敬語なしとか終わってるな最近の若者。僕? やだなあゲーム内でも年上には敬語でしょう。


 「それにしても、ゲーム内での知人が同じ学校なんて珍しいな」

 

 僕の知り合いの中に、シックス・センスをやっている学校の人間というのはいなかった。僕の知人がゼロなだけだって? ここに一人いるだろ! いい加減にしろ!

 そう言えば女子二人はどうやって知り合ったのだろう。古海の方から?「私、○○高校なの。え? リコリスも? わあー!」いや、ないな。どうせ月風から「○○高校なんですよー」とか馬鹿正直に言ったんだろう。危ない。


 「じゃ、じゃあ……ギルド、創りませんか?」

 「えっ」

 「彩香……こんな男やめておきなさい」


 古海さんひどい、僕何もしないよ。

 

 「いいな。それ! 御神、この四人で組もうぜ!」

 「僕は拒否」

 

 どうやら松山君と月風さんはギルド賛成派のようです。となると……。


 「あなたと同意見は嫌だからギルド結成に一票」

 「お前本当に最低だな」

 「あなたに言われたくないわ」


 即答。辛い。僕って最低だもんな……今まで底辺だからこそ底辺を叩けるって認識だったけど、僕以下なんてないんだ。


 「じゃあ、帰ったらシックス・センスで集合しようぜ! そんでギルド作ろう!」

 「わーい!」

 

 はしゃぐ二人。が、古海は苦い表情だ。


 「ギルド設立には50万Gがかかるのよ……」

 「え……」

 「嘘だろ……」


 一気に場が消沈する。


 「じゃあギルド設立は無理だな。じゃ、僕はこれで」

 「待て御神!」


 肩を強くつかまれた。階段に向かって歩こうとした僕は半回転し、三人の方を向く。


 「お前なら50万Gぐらい持ってるだろ? 出してくれ!」

 

 舐めとんのか。確かに僕は10万G金貨を五枚持っている。出すことは可能。だが――。


 「僕がそんなお人よしじゃない事、分かってるだろう」

 「く……」


 今度こそ僕は階段を上ろうと背を向ける。


 「御神さん!」

 「今度は何……」


 見ると、月風は真っすぐ僕に向いていた。透き通った瞳に、僕の体は止まってしまう。


 「私はこの一週間、御神さん……ミンティさんを、探していました」

 「……お疲れだな」

 

 僕はその瞳を睨まんばかりに見つめ返す。

 月風彩香は退かなかった。


 「私、ミンティさんがいなくなった時、寂しかったです」

 「……」


 僕は押し黙る。

 寂しい? 僕がいない事で? こんな人間は嫌われているというのに。


 「逆だろ。僕なんていない方がいい」

 「違います」


 はっきりとした声音だった。決意の眼。

 

 「何があってももうあなたから離れません」

 「……意味が分からないぞ。月風さん、疲れてるのか?」


 横から古海の、茶化すなという目線を感じる。僕は真面目で真剣な雰囲気が大嫌いなのに。

 シリアスは、悲劇を生んでしまうんだ。


 「……それだけです」

 「……」


 僕は何も言わず階段を上った。

 僕といる事なんて、不幸でしかないというのに。

 ……今度は、違うのかな。

 

 ギルド所属のプレイヤーは半分くらいです。

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