村だからと農法改革ばかりじゃない
「それで、話というのはなんだい?」
目の前に居るおっさん、と言っても30歳の青年は俺の父親でこの村の村長だ。
前の村長、祖父が病気で他界して後を継いだのが3年ほど前で、村長経験もそれほどないが、温和な性格であり、他人の話に耳を傾け、聞き入れる度量もある人物。それが俺の父親だ。
ちなみに容姿は至って普通。
「タックンはこの村の産業に興味があるようですよ、父上」
で、この人は俺の5歳上の兄で村長業務の手伝いをしている。
兄も温和な性格、と、言うよりも父親とまったく同じような性格をしており、将来は長男という事もあるが、間違いなく父親の後を継ぐことになるだろう人物。
ただ、父親と違って容姿は年上のおねぇさま方や同年代、年下にまでもてる美少年である。
ちなみにタックンとは俺のあだ名だ。
前世の記憶が戻った時に、自分の名前を前世の名前で言ってしまい、それが訛ってタックンと呼ばれるように至っている。
あれから数年、7歳になった俺はこの世界での名を呼ばれる事がほとんどない。
「へぇ、産業に。と、言ってもこの村は農業も小麦ぐらいだし、畜産も羊ぐらいなものだよ。」
そう、この村は農村、と言うか村なんだからこれが当たり前だと思う。
産業と呼べる物、例えばワインなどの酒類、チーズなどの乳製品のような加工食品までやっているところの方が圧倒的に少ない。
俺が住む村は、あくまでも生産に特化しており、収穫した小麦を領主に収め、羊の毛を町に卸す事で経営されている。
羊の乳は、チーズなどに加工することはあるが、村で分けて食卓に上がるくらいだ。
簡単に言えば、小作人たちが集まった村で、村長はその管理役という事になる。
「うん、知ってるよ。だから、この村は発展しないんでしょ?」
この村の生活は安定しているが、停滞しているとも言える。
領主が領民を大切にする人柄というのが一番大きいが、小麦さえ収めていれば、運営に必要なお金や食料を配分してくれるからだ。
なので、何時まで経っても小麦農家を脱しえなし、羊についても小遣い程度の副業の域を越えない。
「発展は確かにしないが安定はしているよ。それのどこがいけないんだい?」
そう、この考えがこの村だけではなくほとんどの村人の考えだ。
領主や町に住んでいるような商人などの商売人たちは、安定だけではなく発展を考えるだろう。
だが、村人レベルになると、これである。
「この村が発展すればもっと色々な事ができるし、領主さまに恩返しができるよ!」
「タックンはまるで商人みたいな発想しているね」
「確かに恩返しはしたい。父が亡くなった後、後を継いだ私を色々と便宜を図ってくれているしね。とはいえ、小麦畑を開墾しても育てる人が足りないし、羊も同じくだよ?」
まあ、そういわれると思ってたよ。
そうそう、この世界の農業はかなり発達しており、輪作を含め中世ヨーロッパレベルの技術を有している。
正直、農業や畜産の分野で俺が口を出せるものじゃない。
だが、俺には前世で獲た知識や経験がある。
そこから導き出した答えは・・・
「近隣の村と協力して、農村連合を作る事だよ!」