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其の一


「今日から一番、カッコイイのだ♪」

 真夜中の倉庫。もとい、見習魔導士の自室では、部屋の主がお気に入りの曲なんぞ唸りながら何やらやっていた。

 細い管のような器具を使って、色のついた砂が床にこぼれていく。

 砂は次第にひとつの文様を形作り、同心円と直線とで組み合わされた図形が形を成す。

 魔力を収縮し、増幅する基本装置。

 つまり魔方陣である。

 砂で描かれる魔方陣は特に魔力増幅の作用が大きい。

 何故なら、色材にほんの少量だけ自分の血を混ぜて専用の砂を作るからだ。

 其の為に陣の作成には細心の注意が必要で、僅かなズレすら完成の妨げとなる筈なのだが……名調子と共に出来上がっていく魔方陣に、果たしてどれほどの正確さがあるのだろうか?

「イチバン~~っ……と。で~きたっと♪」

 書きあがった魔方陣をしげしげと眺めながら、彼女は満足げに頷いた。

「う~ん、カ・ン・ペ・キ」

 最後の砂が落ち着くと同時に、魔力のこもった波動がじんわりと魔方陣から立ち昇る。

「仕上がりも良い線いってるみたいね」

 では、とさらに腕捲りをすると、マイは今度は歌ではなく砂を安定させる固定呪文を唱える。これによって少々の風が吹いたとしても、魔方陣が飛び散るようなことがなくなる便利な呪文だ。

 呪文は砂に吸い込まれ、砂は塗料のように床に固定された。

「さぁてと。ここからが本番よね。くぅっ! 苦節数ヶ月。ついにこの日がやってきたんだわ」

 感涙を抑えつつ、マイはゆっくりと呪文を紡ぎはじめる。

 真剣に、全ての思いを込めて……

 この日の為に、過酷な仮題にも耐えてきた。

 この為に、魔法の勉強を重ね、やっと手にしたチャンスなのだ。

 これが失敗したら、彼女はまた、苦闘の日々を過ごさねばならないのだから……



「?」

 不意に湧き上がった奇妙な感覚に、二人の男は目を見張った。

 一人は魔法院の奥深く、ひそかに秘境や密林などと囁かれている本で埋まった部屋の中で、自分の研究に没頭していた偏屈学者。

 もう一人は、ほろ酔い加減で夜中の街を徘徊していた遊び人。もとい、この国の魔導士を統べる筆頭魔導士。

 悪友と久しぶりに酒を酌み交わして奢らされはしたものの、気の置けない会話を心ゆくまで楽しみ、すっかり上機嫌で通りかかったところだった。


 うねるような力が、あたりの空間を振るわせる。

 それは一気に高まり、そして次元が割かれる感覚が確かにした。

 擬う事なき、召喚魔法の発動である。

 しかも、その拠点は、自身もその魔法によってこの世界に連れてこられた少女の部屋のあたり。

 異常に強い魔法の発動に、二人の男はそれぞれ魔力の源へと走り出した。

 一方は本に蹴躓きながら部屋を飛び出し、もう一方は、厳重な戸締りを蹴破って。


「クレイス」

「ゼルダ様!?」

 目的地のドアの前で鉢合わせした二人は、異常事態に互いの顔を見合わせた。

「あれは、確かに召喚魔法です」

 緊張した面持ちで、自分の保護下にある少女の部屋を見つめる青年に、筆頭魔導士はゆっくりと頷く。

「ああ、間違いねぇな。それも、嬢ちゃんの部屋だ……どう思う?」

 嫌な予感に、青年の眉が顰められる。

「まさか、マイが……もとの世界に?」

 可能性は無いでもない。

 それは彼自身が言い続けていた事だ。

 召喚魔法実験の暴走で異世界から引き摺り込まれたのだから、何かの拍子に魔法の巻き返しがあるかも知れない。突然帰れる可能性もないではないと。

 しかし筆頭魔導士は、蒼い長髪をきっぱりと振った。

「中から気配がする。嬢ちゃんは居るぜ」

 なら、先ほどの魔力の発動は何だったのだろう?

 辺りはすでに魔力の気配も消え、夜の平穏が戻ってきている。

 さっきの魔力の発動や、戸を蹴破るような騒音にも誰かが起きた様子も無い。

 二人は少しだけ肩の力を抜いた。


「いったい、何をしたんだ? あいつは」

「確かめてみっか? れでぃの部屋云々っつ~て、喚かれるかも知れねぇがな」

 う~む。と躊躇する男達の耳に、今度は明らかな悲鳴が飛び込んできた。

「きゃあ♪」

 真夜中の魔法の発動。

 そして、婦女子の部屋からの悲鳴。

 たとえその声に、喜びの「♪」がついていようとも、異常事態で臨戦体制に入っていた男二人に判る筈が無い。

 筆頭魔導士の長い足がとっさに鍵のかかったドアを蹴破り、小柄と大柄、二人の影が元倉庫の中に飛び込んだ。

「マイ!」

「嬢ちゃん無事か!?」

「うっきゃーーーーーーー!!?」

 今度こそ、明らかな悲鳴が響き渡る。

「!?」

 同時に二人は、口元に手をやった。

 いや、正確に言おう。

 鼻を押えたのである。

 一人は純情さ故。

 もう一人は、酔った上の過度の運動に加えて、急激に興奮したために。

「……お……お前……なんて……」

 青年は真っ赤になって絶句した。

 その緑の目が食い入るように見つめる先には、怒りに全身を桜色に染め、わなわなと肩を震わせる一人の少女。

 すんなりと伸びた足や腕、いつもエネルギッシュに活動している為か、成長期の為なのか、無駄肉のついていない細いウエストと腹部もうっすらと桜色に染まり。何よりも二人の視線をがっちり捕らえて離さない程よく谷間の見える形の良い胸の双房を包むのは、淡い水色のレースがあしらわれたコルセットの胸当て部分だけ取り出したような奇妙な下着。

 実のところ、下肢の付け根を覆っているのも、共布で作られ両サイドに同じレースがあしらわれた物である。

 そしてそれらには、まだ商札がついていた。

『WAC○ALブラ&ショーツセット \15000』

 少女は、ブラジャーにショーツのみという、肌も露な姿だったのだ。

 そう、これこそが彼女の悲願。

 着の身着のままでこの世界に来たものの、生活様式の違うカリストではブラとショーツのセットなんて手に入るはずも無く。かといって、コルセットとシュミーズでノーパンなんて死んでも嫌。

 尤も、それを買う金すら持ってはいない。

 夜にそっと洗い、朝に身につけるという毎日を繰り返してきたものの、そろそろ布も限界だ。

 彼女に残された道は、召喚魔法を学び自力で取り寄せるしかなかったのである。

 そして今夜、彼女はついに目的を達成したのだ。

 試着してみればサイズもぴったり。喜びの声もあがろうというもの。

 ただ、保護者とその上司が乱入してくるとは思わなかったが……

「いゃ~長生きできそうだぜ」

 筆頭魔導士の言葉に、少女の肩がぴくんとゆれる。

 そのまま両手が高々と上げられた。

「この変態どもっ、喰らえファイアーボーール!!」

 今度こそ、魔法院の人々を叩き起こす大音響が響き渡った。



 END

うっかりお泊りしちゃった後の、下着の着替えって困りますよね。

召喚系のヒロインの下着への考察でした。

それにしても高級品だ。

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