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菓子増ましかと三時のおやつ  作者: 闍梨
一章 部活創設編
8/42

七枚目

 三時間目の終わりまで僕と鈴白は校舎の屋上にいたが、彼は僕と一緒の部で共に青春する事を断った。彼曰く、「部活なんてかったりーことするかよ」らしい。確かに部活なんて気が進まない……。とは言え将来を決めろ! と言われるよりはマシだと思っている僕は、屋上にいる間に八回ほど鈴白を勧誘した。鈴白はよく我慢していたが、ついに怒ってしまって何処かへ行ってしまった。


「――――という訳で僕の方では収穫なしなんだけれど、二人はどうだったんだ? 何か収穫は」


「私の方は何もないな。みんなそれぞれ何かしらの活動をしていたよ。最近の若者はたるんどらんな。ぐーたら生徒が一年にはいないようだ」


 先に言ったのは一年ジャージスカートの変人局切子(つぼねきるこ)だった。今日は学校指定のジャージではなく紺色のアディダスだった。横の青い三本ラインがカッコいいが、スカートが台無しにしている。あれ、逆だな。これでは僕がジャージ萌えしてる変人じゃないか。危ない危ない。


「やらしー目線感知したぁー! ていぃ!」


 とんがりコーンが僕をめがけて飛んできた。しかも5本。

 僕は散らばったとんがりコーンを拾いながら、ましかに訊いた。


「で? ましかはどうだったんだ。成果の方はあったのか?」


「むーん。結論から言うと無いね。ましかちゃんのクラスは中々賢い人達ばっかりでね。みんな塾通いとかなんとかで部活なんてする暇なんてないんだよぉ。しかもこんな時期でしょう? みんな中途半端な時期に何かを始めるってゆーのに抵抗があるんだよ。きっと。ハッチだってこの前まで部活なんてって思ってたでしょ? そうゆう事だよー。高二の夏は鬼門とか言われてるし、みんな自分の将来の為、日々勉強な毎日ってことだよぉ」


 確かにな。僕も先日までその様な気持ちだったのだけれど、ましかのクラス……特進クラスなんだよな。

 その特進クラス第三位の学力を誇る菓子増ましかはとんがりコーンを右手人差し指にはめて、ビシッと僕を指差しながらそう言った。こんなやつが学年三位だなんて、なんか拍子抜けだよなあ。


「まぁまぁ、考えても仕方ないのだし、先輩のスナックでもつまみながらゲームでもしようではないか」


 言って切子ちゃんはトランプを取り出しショットガンシャッフルをした。手際良く均等に配られたトランプ捌きに感心しながら僕は聞いた。


「期限は一週間あるし大丈夫か。で? 切子ちゃん、何をやるんだ? ババ抜きか? 大富豪か? まぁ何が来ても僕は負けやしないさ。その昔僕はトランプというゲームを制覇するのではないかと巷で囁かれていた存在だぜ――――あれ?」


 僕らに配られたカードには『一萬』『發』エトセトラエトセトラ……。この高校生は迷うことなくカード麻雀を僕らに配りやがったのか。何故こんな複雑なゲームを……。切子ちゃんを一瞥するとサンタクロースにプレゼントを貰ったキラキラとした少年のような瞳で言った。


「先輩、覚悟っ」



 ルールを大体知っていた僕と、ルールを一度で理解したましかは切子ちゃんに圧勝した。


「それ、ロンなんだけど……」


「んんーーーー何故だぁ! キャリアが長いだけでは駄目なのかぁぁ? こんなことがあるわけないあるはずがなぁぁぁあい……」


 切子ちゃんが泣きそうだ。始めてあった時のそれとは大分シチュエーションが違うのだが、彼女は負けるのが嫌なのだろう。何度も僕たちに再戦を申し込んで来た。

 そうして部室で遊んでいると、唐突に調理準備室のドアがノックされた。僕達三人は慌ててカード麻雀を片付けながらノックのする方へ返事をした。


「はーい。居ますよ居ますー。どなたですか?」


 すると控えめにドアが開き、「あのー……」という何とも透き通ったクリアヴォイスをビブラートさせながら一人の女生徒が顔を覗かせた。


「皆さんこんな所で何をやってらっしゃるのか、少し……気になったので、お邪魔しました」


 そこには上品と形容するのが相応しい綺麗系女子転校生、御乃辻沙矢(おんのつじさや)が申し訳なさそうにもじもじしていた。彼女の声にいち早く、サード強襲の打球に飛びつく内野手の如く即座に反応したのはましかだった。本当に飛びついていたのでこの例えは間違っていないだろう……。


「確保ぉーーーー!」


 さながら警察二十四時のベテラン刑事(デカ)の様にましかは御乃辻に抱きつきながら言った。女の子同士のこういうのも、いやはや悪くないものだ。と新しい扉を半分程開けた所で僕は我に帰り御乃辻に尋ねた。


「やあ、御乃辻じゃあないか。理科の実験ぶり」


「毎日教室で会ってるじゃないですか。可笑しな事を言うんですね」


 倒れたまま僕の言葉に返事をした御乃辻の苦労を想って僕はましかの首根っこを掴み御乃辻から引き離した。


「侵入部員だ侵入部員だ! ハッチ! どうしよ! 勧誘だ! 勧誘だよ! 侵入部員!」


「新入な。そのギャグは全く伝わらないとおもうぜ」


「大丈夫。この話が書籍化した時にこのましかちゃんの侵入部員=新入部員のボケは伝わるんだよ! 全国に伝播するんだよ。人口に広く会社するんだよ」


「……………膾炙な」


どんな経営理念だよ全く。書籍化って……お前は一体何者なんだよ。その理論でいくとましかは映像化は望んでいない様に聞こえるのだが。


「みなさん楽しそうですね」


 ふふふと、くちもとを上品に隠しながら御乃辻は小さく笑った。


「私も皆さんとお話してみたいですわ」


「もちろん! 歓迎するぞ。我ら料理研はくるもの拒まず、去る者追わずだ」


 ここで切子ちゃんが待ってましたと言わんばかりに立ち上がって言った。それに続く形でましかも御乃辻に詰め寄った。


「歓迎なんだよっ! ましかちゃんは菓子増ましかっていいます! よろしくねっ! えっと……」


「御乃辻です。御乃辻沙矢。仲良く……して下さいね」


 僕と切子ちゃんも自己紹介を済ませて四人目の歓迎会をすることとなった。ありていに言うといつも通りの部活なんだけど……。


「ハッチというのはあだ名ですか? いいですね。私もそういうの欲しいです」


「あだ名無かったの? 前いた所とかでさ。御乃辻はあだ名つけられなかったタイプか。居るよなー。どんなあだ名よりも本名の方がしっくりくるタイプの人間」


「うう、酷いです。ハッチさんはいつからそのあだ名を?」


「幼稚園かな? こいつに呼ばれるようになったんだよ」


 僕はましかを指差して答えた。するとましかは僕と御乃辻のしてる話題をすっ飛ばして違う話を始めた。


「それにしても沙矢ちんはなんでこの部活に? 料理好きだったりとかしちゃーうのかぁなー?」


「ええ。お菓子作りが趣味なので……。余り上手にはつくれないのですけれど」


「えー! お菓子作るのぉ⁉ 食べたい食べたい! ましかちゃんはすっごいお菓子好きだからなんでも食べちゃうよ! 今度作ってね!!!」


「ええ、喜んで」


 そう言って御乃辻は嬉しそうに笑った。すこしばかり頬が紅潮している。本当に嬉しそうだ。こうして僕達料理研は四人となり、目標の五人に向け後一人とした。あと一人はいうまでもなくあいつに決めているんだけど……。また怒らせちゃうかもな。僕は痛くもないお腹をさすりながら思った。



 御乃辻は僕達と帰り道が逆方向だったので校門で別れた。切子ちゃんは急ぎの用事があるらしく、自転車で風の様に去って行った。


「コンビニよっていいかな? ハッチ」


「うん。今日は別に急ぎの用もないし、いいぜ。付き合ってやるよ」


「やりぃ! 何買っちゃおーかなぁ。夏だしアイスかな? アイスにしても迷っちゃうよなー。チョコ系を攻めるかシャーベット系を攻めるかにより、今後の展開が変わってくるよー。バットエンドかグッドエンドか決まっちゃうよねー」


「アイスで人生決まってたまるかよ。夏らしくシャーベットにすりゃあいいじゃんか」


「分かってないなぁハッチー。やれやれなんだよ。夏だからシャーベットっていう考え方は危ないよ! 田舎だからって車のスピード出し過ぎて結局事故起こしちゃうみたいな奴だよ。ハッチは夏のアイス選びを分かってないよぉー」


「そりゃー言いすぎだろ。じゃあ、ましか教授。夏のアイス選びとやらを是非僕にご高説願いたいね。納得できなかったら僕はこれからお前の事を『大納言』と呼ぶ事にする」


「うわ……。大納言はなんだかかっこ悪いかもー。ふふん! まぁコレを聞けばハッチも納得すると思うねン!」


 ましかは立ち止まって、右手を振り上げてスっと降ろし僕を指差して言った。


「夏は……冷たいものが食べれたらそれでいい!」


 ましかの意味不明なアイス選び論に場が凍りついた。お菓子にこだわりあるんじゃなかったのかよ、こいつ。いつまでも立ち止まってるわけにもいかないので僕は歩き出した。


「コンビニも近いし、行こうか……大納言」


「うわぁぁぁ、やめてっ! 想像以上に恥ずかしいよコレぇ! 勘弁してつかぁさいハッチさぁーん」


コンビニに到着したところで僕達はアイスコーナーへ行った。アイスコーナーはコンビニの入り口から一番奥に設置されており、隣には様々な色のドリンクが丁寧に陳列されていた。そこで帰りに食べるアイスを決めているとコンビニに見覚えのある白いネックウォーマーを頭に着用した男が入って来た。鈴白酢昆布すずしろすこんぶだった。


「ましか隠れろ!」


「うな⁈ 何? 何? まだアイス決めてなーーーー」


 静かに。と言って従業員以外立入禁止と書いてある扉の前までましかを引っ張って行った。別に隠れる理由も必要も無かったのだが、なんとなくやってしまった。

チラッと鈴白をみると制服ではなく、色褪せたTシャツに黒いだぶだぶのスウェットである。家がこの辺りなのだろうか? と考えているとましかが僕の下から僕と同じ様に少し顔を覗かせて行った。


「ほほーおぅ。不良の鈴白くんだねぇ。私服のとこをみるとこの近くに住んでると見た! あれ? でも中学違うのにこの辺に住んでるって不思議だねー」


「引越しとかだろ? ありがちじゃないか。そんな不思議ではないだろ」


「でも何だか気になるねー。ちょっと尾行してみやすかダンナァ」


 ニヤリと笑ったましかは悪役の表情そのものだった。新しくできた友人を尾行するのは早くも二回目になりそうだが仕方ない。


「やるなら徹底的にいこう」


 僕達はダブルソーダを一つだけ買って半分ずつ食べながら本日二度目の尾行をすることにした。

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