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菓子増ましかと三時のおやつ  作者: 闍梨
一章 部活創設編
7/42

六枚目

短冊に願い事を。

 将来の夢。という題材で作文を欠かされた経験がない人は多分いないであろう。小さい頃は多分みな何かに憧れを抱き日々を過ごしていた。高校時代の今だって、その輝きを失わず自分自身を磨く石として日々生活している者もいる。これは実に素晴らしいことだし見習わねばならない事なのかもしれない。しかし僕には将来が見えない。別にやりたいこともないので、ましかと部活でもして残りの一年半を消費しようと考えている。ここで説明、というか分かっておいて欲しいのだが、というかほぼ言い訳に聞こえてしまいそうだが、料理がどうしてもやりたいから部員を探すのではない。ただの暇潰し。卒業までの時間稼ぎ。だから今から僕が起こす行動は本当にみんなには目を瞑って欲しい。短い夢くらいに思って欲しい。


 今日は七月七日、世間一般には「七夕祭り」の日である。織姫と彦星が一年に一回会うことができるというなんともロマンチックな一日である。しかし、織姫と彦星は一年に一回しか会わないという状況にも関わらず互いを飽きる事なく愛し続けていられるというのは非常に途方もない深い愛情だと感心してしまう。織姫が移り気で他の男を見つけた場合天の川は恋人たちにとって「裏切り」の象徴となってしまうのだろう。

 なんてことを一時間目の古典の授業中に考えていると終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

 はー。と溜息をついて僕は教室を出た。廊下に出たところで白いネックウォーマーを頭にした長身、鈴白酢昆布(すずしろすこんぶ)を見つけた。


「……鈴白、どこ行くんだろう」


 いつも教室にいない。一体、授業中何処にいるのだろう。僕はなんとなく気になり、鈴白を尾行する事にした。友達を尾行なんて気が進まない、なんて思わない。一方的に友達とされたが、僕はあの日まで彼の存在すら知らなかったのだ。尾行するくらい大丈夫だろう。


「ホント、捻くれてるよな。僕って」


 僕は呟きながら鈴白を追った。気づかれないであろう距離を取りながら、足音を消して歩いた。少し追った所で鈴白は三階へ続く階段を登り始めた。そうだ、初めて言葉を交わした時も三階へ行っていたが……。何かあるのか? 上の階に。そう思いながらそっと僕は階段を登る。鈴白は階段を登り終えると左に折れた。そこからすこし歩くと錆び付いて塗装の剥げている鉄はしごが天井から降りている。その上には鉄の扉があり頑丈に鍵がかけられている。筈なのだが、鈴白はハシゴを登ると当たり前の様に扉を空けた。そこで鈴白は僕の気配に気づいたのだろう後ろを振り返った。


「おお! 皮肉屋じゃねーの。どした? サボりか?」


「いや、何で二年生の君が三階に用があるのか気になってね。ようやく理解したよ。いつも屋上に居たんだな」


「おお、誰も来ねえしな。静かでイイぜ。特に次の授業なんかはサイコーだ」


 かはは、と無邪気に笑う鈴白は幾分か幼く見えた。僕はすこし考えてから言った。


「ちょっと僕も付き合ってイイかな?」


「おお! 流石だな。話が分かる。男は黙って屋上ってのが浪漫だよな」


 鈴白の言葉に同意はしなかったが、普段使われていない場所に侵入するのは気が引ける反面……わくわくした。鈴白がハシゴを登った後、僕も続けてハシゴを登り、鉄の扉潜った。屋上にはもちろん何も無かったが、山を登り切った時の達成感の様なものを僕は感じていた。緩やかに吹く風が気持ちいい。


「んー。やっぱり屋上ってのはサイコーだ。この支配感? 俺が天下人だ。って気分にすらなってくるな」


「バカと煙は高いところが……ガハッ!」


 肘打ちを喰らった。会心の一撃! 軽いジョークのつもりだったのだが、まぁ当然だ。


「ゴメンゴメン。言葉の使い方間違えたよ。あれだ! 三日天……カハ!」


「次はねぇぞ……」


 殴られると分かっていたのに言ってしまった。僕はマゾかよ。ていうかこいつ超怖い。


「ま、気にしてねーけどな。かははは」


 そう言って鈴白は仰向けに寝転んだ。僕は立ったままで鈴白に言った。


「なあ……酢昆布くん」


「俺を名前で呼ぶんじゃねぇ!」


 あきらかに恥ずかしがっている。不良にも弱みはある。人間だものな。


「悪い悪い、変わってるから呼びたくなっちゃってね」


「お前だって珍しいだろうが」


 …………うん。まぁ、そうなるのかな? 酢昆布にゃ負けるさ。とは流石に言わなかった。人の名前で遊ぶのは失礼だし、そろそろ辞めておこう。


 キーンコーンカーンコーン……

 ここで二時間目を告げるチャイムが鳴った。


「いいのか? 授業」


 と、鈴白は心配してくれたが数学は好きじゃなかったし……どうでもいいや。


「うん、フケる」


「お前案外テキトー人なのな」


「君程ではないさ」


「違ぇねぇや」


 そして僕も鈴白の隣りに寝転んだ。そして少しの沈黙の後僕から話し始めた。


「なあ、鈴白。人が困ってたら、どうする?」


「んだよ。藪から棒に……。知らねえ奴なら助けねぇ。知ってる奴なら見て見ぬ振りだ」


「それ同じじゃん……。ああ、言い方が少し悪かったかな。『友達』が困ってたらに変えるよ。……どう?」


「んー。そうだな。話は聞くかもな。事情を話してくれた奴には俺もできる限り真剣に答えようとする……かもな。で? 困ってんのはお前なのか。言えよ。聞くぜ」


「読まれたか。なら単刀直入に言うよ。鈴白……。――――部活やらないか?」

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