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菓子増ましかと三時のおやつ  作者: 闍梨
第二章 部活崩壊編
38/42

三十七枚目

「番っ!」


 夕日を背に、ずらずらと仲間を引き連れて下校してゆく番堂を遠目に見ながら、僕はふと足を止める。

 僕の後ろには、ましか、鈴白、御乃辻、切子ちゃんの順に縦並びだった。

 何故かって?

 いやはや、説明するまでも無いのだけれど、説明する気もまた、無いのだけれど……敢えて、だ。

 説明しようか。

 やめておくか。

 いや、説明するべきだろう。

 こんな状況、普通にオカシイ

 いやいや、矛盾だ。普通とオカシイは等号では括れない。

 ならば、どうだろう。

 絶対に、オカシイ

 そうか。これだ。

 絶対に!

 いやぁ、長々と自問自答していたが、この状況は非常に無いな。現代の若者が昔の人々に「新人類」扱いされるのが、そりゃあそうだと納得してしまう。

 やれやれ、僕もようやく大人の仲間入りだろうか。

 --と、現実に戻る。


「あ……」


「あぁ! もぅ、ハッチ! 先頭が止まったら駄目だよぉ」


「ああ、悪い」


「これじゃ『足跡探し』にならないじゃーん! いっちぬーけたーぁ!」


 ましかが提案した暇つぶしゲーム。

 『足跡探し』

 ルールは説明するまでもなく、前の人の足跡を追いかけていくという、なんとも奇怪なゲームだった。

 じゃんけんに勝った僕は、ましか大明神から『先頭』を命じられたのだ。

 しかし、『先頭』の任務は馬鹿馬鹿しくもただ先を歩くだけというものなのだ。

 そりゃあ、逃げたくもなる。

 現実から目を逸らしてしまう。

 それになにより、恥ずかしい。

 そう。

 『先頭』は恥ずかしいのだ。

 昔ながらのロープレじゃああるまいし、何だよこの敗北感。じゃんけんに勝ったのは僕だろ!?


「かはは! 下駄箱到着したし、終了だわな!」


 三番目を歩いていた奴に、僕の気持ちは分からないだろうな。


「うふふ。なかなか、楽しめました」


 御乃辻はキラキラと輝いていて眩しいなぁ。


「うむ! 殿しんがりはスリル満点だったぞ! 御乃辻先輩のスカートの中を覗くにはうってつけのゲームだった」


 うるさいよ、変態バカ

 --って、マジか!


「ひぇえぇ! み、みみ、見たんですかぁ!?」


「うむぅ……見たと言えば嘘になるな」


「……見てないだろ、それ」


「流石はハッチ先輩! 聡明だな。いや、しかし……惜しいところまでは来たのだ。だがな、やはりスカートの中は見えるか見えないかの所が一番なのだ。見えてしまえば、たちどころに『やり切った感』が芽生え、私の性感が萎えてしまうからな」


「………………」


 長々と何を言ってやがる。

 お前は、性に目覚め始めて「いやぁ、やっぱり女はケツだ」と自分のフェチを大声で発表する、少し大人を気取った中学三年生かよ!

 ツッコミも長々しいわ! 言わなくて良かったわ!


「--まぁ、今日はここで解散とゆー事で!」


 ましかが切子ちゃんの話を打ち切り、それぞれがそれぞれの方へ歩き出した。

 僕は動かない。

 静止だ。


「ましか、先に帰ってろ。僕は大切な物を忘れてしまった」


「ついて行くよ〜」


「うーん……いや、いい。ましかが来ると遅くなりそうだし……」


「なおの事ついて行こう!」


「………………」



 来てしまった……。

 大した忘れ物でもないのだけれど。

 ましかは楽しそうに『足跡探し』を続行しながら、僕の後をついて来る。


「そういえばさ、ましか」


「うにゃあ?」


「部活襲撃の件、誰かに何か聞いたりしたか?」


「うんにゃ、じぇんじぇん」


 ましかは『足跡探し』のついでに僕の問いに答えているようだった。

 こんなゲームが楽しいか? いささか疑問だ。


「じゃあ、どうして落ち着いていられるんだよ。こんなのんびりと自作ゲームしている場合か?」


「いやぁ、ハッチはホントにわかってないねえ」


「? 何がだよ」


「……っと。だからさぁ、諸々と‐‐」


 諸々と……の後は明かされなかった。

 何度聞き返しても、「知らない、分かんない」の一点張りだった。


「教室に忘れ物なんだけれど、どうする?」


「つ、い、て、く、よぉ!」


 ああ、そう。

 知っているけど、話す気は無しってか。

 ならば、

 と僕は二階へと続く階段を駆けだした。


「うあああ! ハッチ、ずっこいぞぉ!」


 と。

 僕の足跡に続くましか。


「ははっ。まだまだだな、ましか!」


 僕は階段の内側から外側へと踏み込み、その後逆方向に切り返した。そして、内側の手すりをしっかりと掴んで四段飛ばしのジャンプを決めた。

 うっひゃあ! まだまだ若いな、僕。

 ましかはひいひいと僕の足跡をついて来る。と言っても、もうルール無用で僕を追いかけているだけだったが。


「…………」


 その時、ましかが止まる。

 四段上にいる僕を見上げるように、

 いや、正確に言うと階段の先。

 登り切って、上がり切った、二階への到達点を

 見上げて、静止した。


「随分と、楽しそうにしているモンだぁね。菓子増」


 その声に‐‐聞き覚えのない暗い声に‐‐振り返り見上げるとそこには背の高い女の子が居た。


「うん? 黙りこくってどーしたぁね? 菓子増。ほら、もっと楽しそうにしなきゃだぁね」


「…………」


 手すりの広がった部分に腰掛けて、足を組んでいる。

 日も暮れかけていて、逆光ということもあり、僕の位置からはシルエットしか分からない。


「ま、マキマキちゃ、ん」


 マキマキちゃん。

 と

 そう言った。

 震えながら

 怯えながら

 恐縮しながら

 委縮しながら

 静粛に。

 ましかはただ、

 口をつぐんだ。

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