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菓子増ましかと三時のおやつ  作者: 闍梨
第二章 部活崩壊編
36/42

三十五枚目

「うああ! どーしたの!? ハッチ、その顔!」


 菓子増ましかが慌ただしく、僕の傷に反応する。主に、顔にできたコブや、擦り傷に対してだが……。


「んー……なんて言うか、男の勲章」


「んんン? 顔の傷が?」


 ましかは首を傾げる。

 僕は続ける。


「だから、お前の知らない所で、僕は戦っていたって事さ」


「うにゃあっ! わっかんないよー!」


「………………」


 やれやれ……。理解力の悪い幼馴染だぜ。

 僕は敢えて、ましかとの話を沈黙をもって打ち切った。すると--


「ううう〜……訴えてやるぅー!!!」


 ましかは両腕を大きく開いて、バタバタと暴れた。

 訴えてやるって……誰をだよ。

 まぁ、確実に棄却されるだろうな。


「なぁ、ましか」


「うにゃ?」


「この部活、好きか?」


「うん! みんな楽しいし、お菓子は美味しいし!」


「そうか。なら、良かった」


 ましかは、頭の上にハテナを作っていた。

 まぁ、この話は……僕達が、僕と鈴白が知っていればいいだけの話であって、別に、ましかや、御乃辻、切子ちゃんが知らなくてはならない話ではない。

 そう、物語への強制参加はさせない。

 調理準備室には、僕とましかの二人きりで、異様な程の沈黙が流れたが、ましかはそれを気にする事なく、トッポの封を切る。


「まぁ、関係ないってゆーならいいけどさ〜。そういえば、鈴白君も派手に怪我してたね! 何だか、怪しいけどっ!」


「ああ、鈴白は『ジャンケン』苦手だからなぁ」


「待って、ハッチ! 『ジャンケン』ってそんな怪我するようなゲームだっけ!?」


「あいつは勝ち知らずらしいからなぁ……。もずく君いたろ? あの子にすら勝てないらしい」


 正確には、番堂長介には勝っていたけれど……。

 僕は心中で呟く。


「なぁ、ましか」


「はい?」


「ジャンケンってさ。グゥ、チョキ、パーがあるだろ?」


「うん」


「チョキはパーに勝つし、グゥはチョキに勝つ」


「そーだねぇ。そしてパーはグゥに勝つんだよ」


「そうだよなぁ〜」


「どったの? ハッチ? また熱?」


「いや、単なる疑問……パーグゥを包んだだけで、どうして勝ちになるのかってさ」


 パーとグゥの勝敗。

 鈴白と番堂の勝敗。

 鈴白は確かに勝った。

 ジャンケンに勝った。

 だけど、負けた。

 受け止めた方が、痛かった。


「ハッチは本当に馬鹿だなぁ〜!」


「なんだよ、ましか。お前は説明できるのか?」


「当たり前だよっ!」


 ましかは、無い胸を大いに張り、トッポを加えながら答えた。


「じゃないと、ゲームとして成り立たないから! それしか無いじゃん! グゥがチョキとパーに勝てるなら、みんなグゥしか出さないよ!」


「なぁんか、バッサリ切るよなぁ」


 お前は人生チョキみたいな奴だ。

 --とは流石に言わなかったが。

 グゥが強いとみんなグゥしか出さない……か。そりゃ、そうだな。


「ましかちゃんはね、思った事を問答無用にバッサリ解決しちゃうんだよ! で、それがどーかしたの?」


「いや、何でも無い。少し、世の中の不条理に、思春期ならではの甘酸っぱさを掛け合わせて、黄昏モードに浸りたかっただけさ」


「何それ? 不人気のレモネードみたい」


「飲んだら意外と美味いかもしれねーぞ?」


「炭酸キツイのはキライだもーんっ!」


 ましかはそう言って、トッポを食べ終わる。トッポは最後までチョコたっぷりだそうだが、僕らの会話はどこまでいっても中身が無い。

 なんて、自虐なんだろう。

 全く、可笑しいな。


「--しかし、みんな遅いな……」


「んん〜。今日は実習しないんでしょお? だからじゃないのぉ?」


 ううむ……。

 早く御乃辻に会いたい。

 いやいや、嫌らしい気持ちとかじゃない。

 さっき教室で別れたばかりだ。今頃、真面目な御乃辻の事だ。先生の手伝いでもしている事だろう。


「あれ? 今日、切子ちゃんはどうしたんだよ」


「さぁ〜? わかんないね〜。切子ちゃんって、プライベート……謎じゃない?」


 ましかは頭の後ろで手を組み、口を尖らせる。


「あいつはプライベートどころか、色々と謎だらけだよ」


「色々と……ねぇ」


 そう言った所で、調理準備室の扉が勢いよく開く。


「やぁー! 先輩方ぁぁ! 今日も健全にヤラシくイキましょう! --おっ? なんだ。先輩方達だけかぁ」


 噂をすれば何とやらだ。

 局切子が鞄を肩に担ぎ、意気揚々と準備室の丸椅子に腰掛ける。


「全く、イヤラシイ!」


「はぁ!?」


「こんな狭い、密室で、イイ歳した男女が、二人きりなんだぞ!? 何かあったと見るのが、妥当ではないか!」


 腕を組み、切子ちゃんは続けた。


「何やら変なニオイもしないでもない」


「トッポを食べたよー!」


「匂うな……」


 お前はどこの刑事デカなんだよ。

 切子ちゃんはどう見積もってもアブナイ刑事だな。


「っていうか、切子ちゃん。どこに行ってたんだよ。僕も、ましかも、待ちわびたよ」


「ちょっと、先生に呼ばれてな」


「悪さでもしたのか?」


「なぁに! 授業中にノートに落書きをしていてな。それが教師に見つかっただけだ」


「なんだ。そんな事か……。ちなみに、どんな落書きを?」


「うん! 『板垣退助』をアレンジデッサンしていたんだ!」


 何故、板垣退助……。

 歴史の授業中だったのか?

 にしても、自由過ぎる……。


「私なりの自由民権運動だったのだ」


「お前に民権などあるものか!」


「なんとっ!」


 切子ちゃんは驚き仰け反る。

 その反動で、机を挟み、僕に詰め寄る。

 机は乗る物じゃないぞ。みんなはマネするなよ!


「それはそうと、ハッチ先輩……ちょっと、いいか?」


「ん? 何だよ、改まって」


 切子ちゃんは僕を指差し、小声で言う。


「鈴白先輩と、喧嘩でもしたのか?」


 はぁ……また説明かよ……。

 今度は、いや、今度も上手く誤魔化せるだろうか。

 僕は、切子ちゃんに、有る事無い事説明をした。


「ほほう。つまり、先輩は男から、漢になったと」


「まぁ、そうだな。うんうん」


 適当に流した。

 真面目に話すの、めんどくさい。だって、切子ちゃんだもの。絶対人の話聞かないだろ……。


「うーっす」


 そう言いながら、鈴白が調理準備室に入ってきた。後ろには御乃辻も居たようで、僕の心は踊った。


「おぉ……ちょうど良かった。お前ら、ちょお、来い」


 上品に、おしとやかに微笑む御乃辻の後ろから、ドスの効いた広島弁が聞こえた。

 よもぎ先生だった。


「僕と、鈴白ですか?」


 僕は、自分と鈴白を交互に指差し、先生に訊き返した。

 広島弁は勢いと血生臭さをより強大にさせ、僕達に降りかかった。


「そう言いよーるじゃろぅが! えーけぇ、はよ来いやぁぁ!!」


 渋々、僕達は廊下へと出た。

 これから僕達に起こる騒動など、知る由もなく。

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