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菓子増ましかと三時のおやつ  作者: 闍梨
第二章 部活崩壊編
35/42

三十四枚目

「ぐぁああああ--」


 番堂の悲鳴は続く。

 まるで、人を食ってしまう鬼のような番堂ではあるが、叫ぶ。叫び続ける。

 まさに、鬼の目にも涙だ。


「なぁ〜、次の勝負は何だよ〜? オッサぁン」


「はっ……離せ、手を、テガ! 手、テ、て、手がっ! がっ! がっ!」


 鈴白は、ここでようやく番堂の右手を解放する。


「ハァ、ハァ……まるで鬼じゃのぅ!」


「あんたが言うか……」


「かっはっは! ちげぇねーや」


 番堂は右手をさすりながら、涙目で僕たちを睨んでいた。

 子供かよ……番堂長介……。


「じゃが、まだ……最後の勝負がっ!」


 やれやれだ。

 やはり、彼は三本勝負の本質を見抜いていないようだ。

 僕は居住まいをただし、いつもより格好つけ、番堂を指差し--


「それは違うぞっ!」


 的確に、

 迅速に、

 鋭く--論破した。

 番堂は驚いた表情で僕を見た。いや、睨んだ。


「なんじゃと? おい、そこのちびっ子……説明せい!」


 ちびっ子だと?

 この僕が!?

 えぇ!? 何何? ワカンナイ!


「どういう事だ。説明しろ、ちびっ子屋」


「鈴白! お前まで!」


「かはは! そう怒るなよ皮肉屋ァ。敵をけなすにはまず味方からってことわざが--」


「ねぇよ!」


 僕の身長をいじるのはヤメろ!

 というより、お前らの背が高過ぎるんだよ。この不良共っ!


「……僕の身長の事はもういい。いや、良くは無いけど--ともあれ、勝負が着いたのは明確だ」


「ぎはは! 小さいくせに中々面白い事を言うな。ちびっ子の癖に、やるではないか!」


「…………。いや、あの……まぁ、普通に考えて、三本勝負という事はさ、二本先取した方が無条件で勝ちになるんではないか。……と、そう考えるのが妥当かと」


 番堂は答えに困った様で、口をぽかんと開けていた。

 鈴白も……以下略だ。


「つまりさ、二本目の勝負を終えた今、鈴白の勝ちは揺らがないし、番堂……さんの負けは、揺らがない」


「…………はっ!」


 鈴白は三本勝負の本質に驚いていた。

 本質という程大仰なモノではないが……。

 しかし、とにかく--


「なっ。勝負はこれにて終了だ」


「かっははははははは! だぁな! ……で、何の勝負だったっけか?」


 馬鹿か、こいつは……。

 「全く……」と僕は呟き、番堂の方を見ながら続けた。


「部室に石を投げた連中を突き止めるんだろ? ……で、アイツが主犯だった。だから部室襲撃の理由と、抑制の為にお前は戦ったんだ」


 しかし、お前が勝負に夢中になってしまって、色々と、番堂に聞きたい事を聞けていない。

 全く面倒臭い……。

 近道をゆっくり歩いて目的地へ向かった感覚だよ、もう……。遠回りした方が早かったんじゃないだろうか……。


「ぎはは! ぎーはははははは! ぎーっははははははははは!」


 番堂が何の前触れもなく、唐突に笑い出した。僕たちは動かずに彼を見る。


「ぎはは! 確かに三本勝負はこれにてお終いじゃが……ワシは鈴白に勝つまで勝負をやめんぞぉおぉおおお!」


「かっはっは!」


 何故こうなる。

 どうして不良という生き物はこうも勝負にこだわるのだろうか。

 理解に苦しむ……。

 まぁ、ここは引けないな。僕だって早く帰りたい。これ以上騒ぎを起こすと、色々と面倒な事になりそうだ。


「……あのさ、聞いてる? お二人さん」


「かっはっは!」


「ぎはははは!」


「えぇ……何故笑う」


 一通り笑い終えた所で、彼は……。

 番堂長介は……。


「皆の物! かかれぇえええええええいっ!」


 番堂が、右手を天に掲げ、学校中に、いや、近所にまで届きそうな声をあげた。

 僕は振り向く。

 出入り口を、

 無意識的に。


「こんな人数……いつの間に」


 出入り口からぐるっと円をかくように、僕と鈴白は囲まれた。

 目と口が開いている、銀行強盗がよく被っている。アレだ。


「バンチョ! バンチョ! バンチョ!」


 貯水タンクの後ろからも、続々と不良達が現れる。こんなに不良達が居たのか。この学校……。

 いくら自由な校風だからって、風紀委員は何をしているんだ!?


「かはっ! 結局は、コレしかねーよなァ! 俺みたいなヤツラは結局、拳で語るしかねーんだ」


 鈴白は拳を握り、「だが--」と続ける。


「皮肉屋の言うように、ここは大人しく負けなきゃなんねーかな」


「だな……」


「恐いか?」


「まさか。お前にメンチ切られる方が幾らか恐ろしいさ」


「かはっ! 言ってくれるぜ」


 そうだ。

 事前に鈴白には言っていたが、僕達の部活を、廃部にさせない為には、平和的に解決するしかなかったのだ。

 痛い思いをするという方法もあったが、どうやらこちらの方が濃厚のようだ。

 痛いのは嫌いだ。

 痛いのは正直、恐い。

 だが、あいつらの思い通りになるのも……やはり、しゃくだ。


「全員! やれぇぇええええええ!」


 堰を切ったように、不良共が僕達目掛け、突撃してくる。声にならない声が、互いに重なり、僕らを刺す。


「スマンな……皮肉屋」


「意外と思いやりがあるじゃないか--っと、来たぜ」


「アァ! 気合入れて殴られっか!」


 もう、夕陽も沈みかけている。

 夏独特の太陽の長さに薄暗い哀愁を漂わせ、僕達は--


 ただただ、殴られた。


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