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菓子増ましかと三時のおやつ  作者: 闍梨
第二章 部活崩壊編
34/42

三十三枚目

 部室襲撃犯の主犯、番堂長介との戦いは意外と楽に終わりそうだ。

 『男の三本勝負ッ!』--

 『体』の勝負に勝った鈴白。

 悔しがる番堂。

 それを見ているだけの僕。


「うぉおおおおぁ!」


「かはっ! まぁーたパネルか? 早く出しやがれよォ」


「ぬぅううううんッ! 次は『心』の勝負じゃあああああああああああああああ!」


 やはり、番堂はパネルを出し、僕たちに見やすいように、パネルの角を指でつまんでいた。

 何だ、意外と繊細じゃないか。

 などと--

 考えていると、鈴白は呑気に言う。


「成る程! パネルは背中に仕込んでやがんだなァ?」


「なに感心してるんだよ、鈴白……」


「アァン? 皮肉屋は無感動でいけねーな。人間ってのァーー日々、驚きと新しさを求めているンだよ」


「鈴白の哲学を聞くために僕はここに居るんじゃないんだよ。僕はあくまで見張りであり、仲介役なんだから。忘れないでくれよ」


 鈴白は実に面白くなさそうに、「かはっ!」と笑った。


「まぁ、皮肉屋はあの部活の部長だからな」


「やりたくて、部長やってる訳じゃないさ」


「ふーん。あっそ」


 そろそろ説明に入りたいんだが--、と、番堂長介は僕たちの会話が落ち着くのを待っていたようで、少しモジモジしながら、こちらと目を合わせようとしない。

 寂しがり屋かよ!

 ライダーの変身を律儀に待っているショッカーかよ!

 デカイ図体して、案外気にするタイプだな!


「ああ、もう話は終わったので、続けて下さい」


「ぎはは! じゃあ、次は『ジャンケン』じゃあああああああああああああああ」


 ジャンケン……?

 グゥ、チョキ、パーを使った簡単な遊び。老若男女が知る、古くから日本に伝わる。

 あの、ジャンケンなのか?


「ジャンケンって、あの、ジャンケンですよね?」


 堪らず、僕は番堂に聞き返す。


「ぎはは! ジャンケンはジャンケンだ」


「かはは! 俺の苦手分野だな」


 何故笑う、鈴白……。

 高らかに笑う鈴白に、僕は問うた。


「絶対勝て、鈴白。負けたら許さないぞ」


「かはっ! 脅迫か、皮肉屋ァ」


「完全下校時刻! もう三十分したら門がしまっちゃうんだよ」


「アァン? 門が閉まるんなら乗り越えりゃあいいだけじゃねーか!」


 安易だった。

 実にシンプル。

 --且つ、大胆だ。


「かはは。妹達にも勝てやしねー。もずくにも勝てねーしなぁ」


 ジャンケン弱い人間って、確かに居るけれど、そこまでいくと、何だか可哀想だな……。

 僕は鈴白の肩に手を置き、ゆっくりと暗示をかける。


「いや、鈴白……自分を信じろ。勝っている自分を想像しろ。イメージは大切だからな」


「かはは! そうだな、やらなきゃなんねー時が、男にはあるからな。それがまさに『今』なんだな!」


 鈴白は二三度、うんうんと頷き、番堂の方へと向き直った。

 ギラギラと、野獣のように目を光らせ、鈴白は口を開く。


「じゃあ、始めようぜ。オッサン」


「ぎはは! いい目をしておるな。お主!」


「あんたもな。オッサン!」


 沈黙。

 聞こえてくるのは風の音だけだった。

 そして、彼らはジャンケンにおける大切な掛け声打ち合わせ無しに、ピッタリとシンクロさせた。


「ジャン、ケン--」


 時間にして--数秒--

 一瞬にして決着がつく。

 僕は、目を離さない。

 そして--


「グゥウゥウウウウウウ!!!」


 番堂が、目にも留まらぬスピードで、鈴白の顔面めがけて、右ストレートを繰り出していた。

 そして--次の瞬間、

 番堂の動きが止まる。


「うごぁあぁあああぁあああぃぃいいいででででで--!!!」


 鈴白は動かない。

 僕の位置からは、何が起こっているのか、全く分からなかった。見えているのは不良の背中だけだ。


「な、何が起こって……」


「--ジャンケンってのぁよォ……グゥがチョキに勝ち、チョキはパーに勝ち、パーはグゥに勝つ…………そうだよなァ?」


 鈴白は、誰に言うでもなく続ける。


「だったらよォ……この勝負、俺の勝ちだ」


 何を、

 言っているのだろう。

 僕は鈴白の状況を確認しようと、移動する。


「かはははは!」


 口角をくいっと上げ、鈴白は大いに笑っていた。

 鈴白は--

 番堂の攻撃を、すんでのところでかわしていた。というより、顔面スレスレで、番堂の拳を、掌で受け止めていた。

 グゥを包み込むパーの様に--


「が、ぁああああああ!!」


 そして、鈴白は今にも崩れんとしている番堂の右手を、握りながら言った。


「この勝負、俺の勝ちだ。異論は認めねー」


 なんて勝負だ。

 こんなジャンケン見たこと無いよ……。

 僕は、肩を落とし、嘆息する。


「なっ! 皮肉屋!」


 鈴白は「かはは」とシニカルに笑った。

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