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菓子増ましかと三時のおやつ  作者: 闍梨
第二章 部活崩壊編
33/42

三十二枚目

「うぉぉおおおお! 燃えて来た! キテル! キテルぞぉおおおおおぅあぁあぁぁ!」


 『男の三本勝負ッ!』、まずは『体』の勝負からと言う事だった。番堂長介は一人で、自分の胸筋を激しくスパンキングし、自分を鼓舞していた。


「ンで? 最初はどんな勝負なんだ、オッサン?」


 番堂長介は「ぎははは」と笑ってから、高校生とは思えない程の野太い声で勝負内容を明らかにした。


「最初はァァァァ----『腕相撲』じゃぁあああああああああ!!!」


 『腕相撲』? ってアレだよな? 互いのアームがレスリングするやつだよな? あれれ? 番長を決める戦いに必要なのか? ていうか、僕はやる事無しだ! 見てるだけだ!

 鈴白は半袖カッターシャツの袖を捲り上げながら意気揚々と答えた。


「かっはは! 案外いい勝負させやがるな、オッサン」


「ぎははは! そうじゃろう? お主の好みに添えるよう、勝負内容を徹底研究したんじゃからなぁぁぁあ!」


 仲良しかよ!

 幼馴染レベルの親密度じゃないか!

 番堂長介マメだな!

 僕は心の中でツッコミを入れる事しか出来なかった。


 番堂長介の御達しにより、僕が審判という役割を務めることになったわけだが……何だか腑に落ちない。

 そりゃあ、暇だなーとか思ってたさ。ああ、認めるさ!

 だからって『お主! ぼーっと突っ立っとるなら審判せんかぁぁああああ!』ってちょっとトゲがある言い方だと思わないだろうか。

 まあ、やることもないし……甘んじて受け入れたわけだけれど。

 鈴白と番堂はうつ伏せになり、互いの右手を差し出し、力強く合わせた。


「よし、じゃあ……準備は、いいですか?」


「たりめーだ! 皮肉屋ァ」


「無論じゃぁあああああああああ!」


 二人は僕の台詞に食い気味に応え、僕の抑えている二つの右手に集中していた。

 僕は公平になるように--番堂に有利にならないように、また、鈴白に有利にならないように--硬い二つの右手にをゆるゆるとほぐす。

 そして僕は----


「レディ…………」


「……かはは!」


「……ぎはは!」


 合図を----


「GO!!!」


 ----かけた!




「勝者ぁ、鈴白ぉー!」


「かははははは! トーゼンだぜ」


 勝負は非常に呆気ない物だった。始まると同時に鈴白は右腕にありったけの力を注ぎ込み、番堂を、彼の右腕を--屋上に叩きつけた。

 番堂はまだ起き上がらない。

 大丈夫なのだろうか。

 少々--目玉焼きにかける塩コショウ程度に--心配し、様子を伺っていると、うつ伏せのまま顔を地面にこすりつけたまま「ぎははは」と笑っていたので、僕は心配することをやめた。


「なぁ、この人、壊れちゃったのか? 何か笑ってるんだけど……」


「あー。アレじゃね? いい夢でも見てるンじゃねーの?」


「そんな風には見えないんだけど……」


 僕がそう言った直後、番堂は激しく起き上がり、天に拳を掲げた。

 まさか、昇天したりしないよな?

 僕の期待とは裏腹に、番堂は「ぎはは!」と笑ってから、豪快に言い放った。


「負けてないィィィィ! ワシは負けてないィィィィ!」


 僕と鈴白は互いに顔を見合わせ--言葉を発することなく--彼を見やる。

 いや、どう見ても……。

 どう転んでも……。

 アンタ、負けてるよ……。

 負けてたよ……。

 受け入れなよ……。

 現実を……。

 呆れを通り越して、尊敬すらしてしまいそうな程の現実逃避の瞬間を目の当たりにし、僕は恐怖すら覚えた。

 鈴白は笑っていた。

 鈴白トレードマークである、頭に付けた白いネックウォーマーに右手をあて、これまた気持ちいい程豪快に、笑っていた。


「かははっ! 諦めわりィなー、オッサン!」


「無論、じゃぁあああああああああ!」


 彼の言葉の後。

 もしこれが、アニメや映画だったら、演出で背景が爆発してるんだろうなぁ……などとのんきな事を、僕は考えていた。

 そんな僕は頭を切り替えて、鈴白に耳打ちする。


「なぁ、鈴白。さっさと勝負を終わらせて帰ろうぜ。もう完全下校時刻も迫ってるし」


「ああ。あと二つの勝負に勝ってからな!」


 二つの勝負、だと?

 二本先取で勝負は決するんじゃないのか?

 まさか、三本勝負と銘打つからには、勝ち数で勝負するものだとばかり考えるのは……僕だけなのか?

 いや、

 だとすると----

 恐らく、番堂自身、気づいていないんじゃないのか?


「なぁ、鈴白」


 僕が鈴白に重要な事を伝達しようとした瞬間を狙ってか、番堂は大声で僕の言葉を掻き消した。


「つ、次じゃぁぁあああああああああああ!」


 彼の声が震えているように聞こえたのは、僕の錯覚だったのだろうか。

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