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菓子増ましかと三時のおやつ  作者: 闍梨
第二章 部活崩壊編
26/42

二十五枚目

「あ〜、先生っ! 顧問になって頂いてなんなんですがね、先生は恐らくやる事ないんで帰っていただいて結構ですよー」


 ましかはポテチの袋を開き、準備室の長机の上に置く。よもぎ先生はポテチを無造作にくしゃっと掴み、口に放り込む。


「んあ〜、じゃけどのォ……ワシも顧問じゃろ? 色々あるんよ。教師ってのも大変よぉ」


 僕はましかを見ながら、唯々黙っていた。


「んん〜あー! 大人っていつもそーだよねぇ! 色々あるだとか何とか言って、子供達をだまくらかすんだよ! 詐欺、そう、詐欺だね! これは紛れもないよ! 紛れもなく紛れ込んでるよ! 詐欺ってダメなんだよ! 先生なんだから知ってるでしょー!」


 蓬先生は、奥歯に詰まったポテチのカスを左手で掻き出しながら、無愛想に言う。


「じゃーあれかぁ。面倒臭いが、上からの指示で無理矢理顧問させられよるって言った方がええんか? 生徒達おまえらみたぁなガキンチョに大人の世界を教えてやれん。そんなん、大人ンなってから対応せぇ。高校生は高校生らしく、きゃっきゃウフフと楽しんどけぇや」


 ああ、こんな調子じゃ埒が明かない。

 僕はましかの肩に手を置き、落ち着かせようと努力する。


「まぁ落ち着けよ、ましか。怒ってもお菓子は増えないぞ」


「むきゅー! ハッチもそうやって、ましかちゃんを子供扱いするんだぁー! うわぁー。悲しくて哀しくて、涙が見えないよー!」


「お前の目の構造はカタツムリか何かなのか?」


 ちなみに明日が見えない、と間違えたのだろう。あまり自分の涙は見えないと思うし。うん、頭いいんだけど何処か抜けてるよなぁ。


「ところで、先生……。何しにここへ?」


 大人しくしていた変態……いや、切子ちゃんがテンション低めに先生へ質問した。先生は「あぁ?」と喧嘩腰な接頭語を付け加えてから、口を開く。


「職員室、嫌いなんよ。ワシ」


 みんなが先生の返しに困り、準備室が変な空気で満たされるのに、さして時間は要らなかった。そんな空気の中、口を開くのはもうあの馬鹿しかいない。切子ちゃんだ。


「なぁんだ! 先生はぼっちなのかー! いやはや、大人の世界も大変だな」


「いや、違……」


「そうと決まれば話は早いな! ハッチ先輩、あれを!」


 切子ちゃんは麻雀牌をかき混ぜるジェスチャーをする。

 こいつ、正気か? とりあえず、止めておこう。一応、先生だしな。


「ええと、切子ちゃん……あれは、その〜なんだ、ええーまたの機会に……」


「麻雀の何がマズイのだっ!」


「マズイに決まってるだろ! この変態バカ! 仮にも先生だぞ! もう少し危機感もてよーーーーぉ、お?」


 蓬先生が僕を睨んでいた。その視線に、僕はたじろぎ、身動きが取れなくなる。今なら蛇に睨まれた蛙の気持ちが分かるよ。


「おい、麻雀……あるんか?」


 もうダメだ。諦めて観念しよう。


「麻雀……えぇじゃん」


 え? 今なんと?


「ああ、あの〜先生? ここは普通怒る所では無いかと……」


「麻雀、えぇじゃん」


「二回目!?」


 そんなツッコミの後にましかが僕の肩を叩く。そして僕の耳元で小さく囁く。


「ねぇ、剣持先生って変わってるよね? 普通の先生と違うってゆーか、なんとゆーか」


「じゃあ、結局ましかはどう思ったんだ?」


 ましかは人差し指をびっと立てて応えた。


「とりあえず、考えるのをやめる事にするよ」


「お前はどこの究極生命体なんだよ……全く」


 僕は頭をくしゃっと掻き、先生を見る。相変わらずの三白眼に溜息を一つ吐いて、先生に言った。


「じゃ、とりあえず先生、これからよろしくお願いします。ってことで、やりましょうか……麻雀」


 僕は切子ちゃんの持ってきたカード麻雀を机に置いた。先生の目はまだ険しいままだが、目の奥には何かギラギラと光るものがあった。





『明日からはちゃんと部活しましょうね。ハッチさん』


 携帯に届いたメールを確認すると、送り主は御乃辻だった。


「ああ、そうだ。部活……何も考えてなかったな……。製菓ねぇ」


 「製菓研究会」は明日から本格始動します。これは今日の帰り際に御乃辻が皆に向けて言った言葉だ。

 帰り道、ましかと二人で何を作るかを決めていたが、結局ましかは「お菓子を食べられるなら、ましかちゃんは文句を言いません!」とだけ言い放ち、家路についた。


「ったく、「何でもいい」が一番難しいだろ」


 そう愚痴りながら僕は御乃辻に救いを求めるメールを送信した。


『明日何を作るか、決まってるか?』


 返信は意外にも早かった。


『明日はプリンを作ろうと思います!』


 へぇ、第一回目から本格的なんだなと感心していると、続けて御乃辻からメールが届く。


『材料は明日、私が持って行きますから、エプロンと三角巾を持って来て下さい。と、皆さんに伝えて下さい。部長』


 おお、見事に使われているな。

 そう思ったが、材料を用意する方が大変だなと思ったので、僕は快く御乃辻の指示に従った。


『全員に伝えといた。じゃあ、明日は何かと大変だろうけど、よろしくな。御乃辻』


『ええ、承りました。では、お休みなさい』


 明日は、色々と疲れそうだ。時計を確認すると十時半を少し過ぎていた。普段ならもう少し起きているんだけど、今日は早めに寝よう。

 嫌な予感を抱き枕に、僕は部屋の電気を暗くした。

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