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菓子増ましかと三時のおやつ  作者: 闍梨
一章 部活創設編
23/42

二十二枚目

 日曜日。午後八時四十五分。

 僕の携帯電話に見たくない名前が表示された。五回ほどコールを無視していたが、僕は仕方なく電話に出た。


「なんだよ。芒野。僕の貴重な日曜日をどうするつもりだ」


『いやいやー。もう色々と情報が集まっている頃だろうと思ってね。気を揉んでいたんだよ』


 電話を取って一番初めに口にする「もしもし」を経由しない通話方法を取ったにもかかわらず、芒野は僕の話を無視して自分の伝えたいことだけを僕に伝えていた。


「用があるなら、手短にするんだな。僕にはもう時間がないんだ」


『ええ!? まだ君は分かっていないのかい? んんんーまあ、仕方ないか。うん、うん』


 芒野は自問自答の自己解決を行い、電話越しに頷いていたと思う。


『いいかい? ここ最近でなにがあった? 君は生活の中で何を得たんだい? ひとつでも今までと同じような休日を過ごしていたかい? 考えなよ。よくよく、よーく考えてみてくれよう』


「どういうことだ? 全く分からない。ああ、そうだ。ましかと買い物に行ったな」


『君の頭はお花畑かい? 本当に分かっていないのか。君の頭には引っかかる出来事とかないのかい? そもそも君の頭には窪みがないのか。何も引っかからないツルツル脳なのだろうねえ』


 ん? どういうことだろう。どうして出会って間もない生徒会副会長、もとい生徒回復会長にこんな事を言われているのだろうか。


「あのな、芒野。僕はましかとのデート以外変わったことは無かったぞ。ああ、感動系の犬が出る映画はなかなか良かったぞ。泣くほどの作品では無かったけれどさ――」


『んんー、ゴメンよ。ハッチ君そういう話をしたいんじゃあないんだよ』


 なかなか話が進まないぞ。貴重な休日の夜を芒野にジャックされていたんじゃあ、いい月曜日が迎えられないじゃあないか。

 僕は痺れを切らして芒野に問うた。


「おい、芒野。何かあるならハッキリと言えよ! ぐじぐじぐじぐじと小姑みたいに! お前男だろうが!」


『仕方ない……。うん、桜井会長の弱みが掴めていないはずは無いんだけれどなー』


 ん? 桜井? どこかで聞いたような名前だ。しかもごく最近。


「おい、芒野……。生徒会長の名前って?」


『え? 君は自分の学校の生徒会長の名前すら知らないのかい? はぁ、そんな情報量でよくのうのうと過ごしていたね。会長の弱みを握ろうと思っていた人とは思えないよ』


 芒野は大きな溜息を一つ吐いて言った。


『桜井、桜井春さくらいはる生徒会長だよ』



 月曜日。

 授業を終え、僕は一枚の紙を持ち、生徒会室に向かった。生徒会室には会長が一人だけだという情報を芒野からもらっている。というより、僕が芒野に頼んで会長と二人きりにして欲しいと頼んだのだ。

 みんなには『調理準備室にいるように』とメールを入れておいた。

 僕は少し緊張しながら生徒会室のドアをノックする。中から「どうぞ」という声を待ち、僕はドアを開き生徒会室に入室した。


「またあなたですか? 懲りないですね。あなたたちの様な問題児達に部活をさせるワケにはいかないのです。そうでしょう? そうですよね」


 烏の濡れ羽色した髪を右肩から流していた会長が、左手で結わえてある髪をほどいた。僕は時間を忘れてしまうほど見入っていただろうか。「私の顔に何かついていますか?」と言われてしまった。

 僕は何かに願いながら、会長に一言ーー。


「ええ、今日は桜井会長とお話しようと思いまして。ーーーーセリヌンティウスはお元気ですか?」


 会長の目が大きく開かれる。

 次第に頬が紅潮してゆくのが遠目にもわかるほどに。


「あ、あなた。その名を……どこで?」


「いえ、最近知り合った犬の話ですよ。別に会長が云々という話ではありませんよ。そのセリヌンティウスという犬がですね、非常に馬鹿犬なんでしょうね。飼い主である方は非常に大変そうでした」


「セリヌンティウス……は…………」


「そうですね、その飼い主の方も非常に間抜けそうでした。ピンクのジャージ上下を着て、この世のものとは思えない便底眼鏡をしていたんですよーーーー」


「セリヌンティウスの、ことを…………わ、るく……言うなァァァーーーー!」


 会長は冷静さを失い、上品さの欠片もない、怒りを露わにしている。

 焦るな、落ち着け僕。会長のプライドの高さからして、この学校で会長自身の噂ーーこと悪い噂ーーは強力な武器になるはず。しかし、セリヌンティウスに対してこんな愛情深いなんて!

 僕はクールを気取る様にして、肩をすくめながら会長をいさめにかかった。


「落ち着いたらどうですか? 桜井会長。桜井春生徒会長」


「セリヌンティウスは……セリヌンティウスは……」


 話を聞かない生徒会長に深呼吸をすすめたりしたが馬耳東風。全く僕の話を無視してセリヌンティウスの魅力について語り出したのだ。

 五分が経過し、会長の脈が落ち着いて来たのか、息が落ち着いたリズムを刻むようになった。

 そして会長は我に帰り、僕である人物にであった時の事を思い出すように上を向き目を閉じた。


「はっ……。ようやく理解しましたよ。何故あなたが私の秘密を知っているのか! 私としたことが不覚でしたわ」


「いえ、もう少しで僕も名乗ってしまうところでしたよ。セリヌンティウスに感謝しなくちゃあいけないですね」


 会長は椅子の背もたれに体重を預け、ひとつ深呼吸をして言った。


「でも、認めませんわよ。あなた達は危険なのです」


「校内に言って回りますが、会長は大丈夫ですか?」


「ぐっ……」


「わかりました。では、失礼しまーーーー」


「ちょ、ちょちょ、待ちなさいっ!」


 押してダメなら引く作戦。否、押してもいないのに事実を告げて引く作戦成功。

 会長は僕を引き止めた後に、続けた。


「そそそれは、あれよ。あなた絶対に言いふらすつもりなのでしょう。そうでしょう? そうですよね!?」


 僕は会長に対して、まだ敢えて冷静に対応する。


「言いませんってば。では、急ぐのでこれで」


 そう言って僕はきびすを返す。

 会長は再び僕を引き止める。今度はドアの前まで行き、出口を封鎖された。


「ハァ、ハァ。し、信じられません! 私は……。このままあなたが出て行くと非常にまずい気がします」


「はぁ、では部活申請認めてくださいますか?」


「むーーーーーー」


「どうなんですか? 全身ピンクの桜井会長」


「わーーーーーー!」


 そう言って、会長はその場にへたり込んだ。半泣きの状態である女子高生を見下しながら、冷静に交渉なんて。僕も紳士になったもんだ。いや立派立派。


「はぁ、わかりました。でしたら、あなたにも約束は守って頂きます。不公平でしょう?」


 小さい声でそう言う会長は自分の席に戻り、机からルーズリーフを取り出して信じられぬ速さで文字を書いた。


「これにサインを」


「なんですか? これ」


「契約書です。見てわかりませんか? 部活申請を認める代わりに、あなたはこの件に関して一切の情報を生徒、又は教師、さらにはそれに付随する者への発言の禁止を約束してもらいます」


「なんだ、そういうことね。ウィンウィンって奴ですね会長」


「いえ、あなたの大勝利でいいと思いますわ」


 契約書にサインし、生徒会室にあった朱肉を借りて母音を押す。

 僕の方も会長にサインをもらい、捺印を押してもらった。


「あら、ハンコを押してしまいましたが、部活動名が書かれていませんよ。これでは受理出来ませんがそれでいいでしょうか? いいですよね」


「まてまてまてまてまってくださいよ! 今考えます。ええと、じゃあ『製菓研究会』で」


「あなたらしい、地味な発想ですわね」


「ああ、ハイ……。すみません」


 自分の身の安全を確保してから会長が厳しいぞ。まあ、そうなる気持ちもわからなくは無いのだけれど。


「では、受理しておきます。でも、これからあなた達には様々な困難が待ち受けています。不良白虎バッドタイガー、鈴白酢昆布。二重人格ダブルフェイス、局切子。独令嬢ロンリーマドモアゼル、御乃辻沙耶。問答無用ノーユーズ、菓子増ましか。そして、あなた」


 何のことだ? 取り敢えずブラックリストに乗ってるって事か?

 それにしても、僕たちに二つ名をくれるなんて会長もいきな人だ。あれ? 僕のだけ言われていない。まあ、二つ名なんてものいらないんだけれど。恥ずかしいし。


「絶対に……。一年と持たないわ」


「どうして……わかるんですか?」


 僕は生唾を飲み込み会長に訊く。


「女の勘よ」


 ボケるのかよ。シリアスかと思っちゃったよ。


「まあ、精々苦しみなさいハチ公くん」


 ともあれ、ようやく僕たちの部活は立ち上がった。今日がその『製菓研究会』の門出の日だ。僕はゆっくりと調理準備室のドアを開ける。

第一章ーー部活創立編ーー終了です。


ながーーっくなりましたねえ、自分でも驚いています。


第二章は『製菓研究会』の活動という内容になっていきます。


楽しみにしている方は少ないかもしれないです。しかし、これは書く! 書き切る!


思い描いたラストまで、走り続けていきたいと思います。


ええーまた全話見直しして、推敲します。

更新の度に見てくださっている皆様に感謝の気持ちを込めて、ありがとうございましかっ!


闍李でした。

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