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菓子増ましかと三時のおやつ  作者: 闍梨
一章 部活創設編
21/42

二十枚目

 僕達は電車に乗り、二駅隣にある街まで行った。まず始めに僕達は、駅近くの大型書店「白ハト書店」へと立ち寄った。


「あーっ! これもう新刊出てる! 買わないとぉ----」


「待て、ましか。どーせ駅に戻ってくるんだから、最後でいいだろ? 今から荷物増やしてどーすんだよ。行くぞ」


 僕はましかの頭に軽くチョップを入れて、歩みを再開した。ましかは小走りに僕を追いかけながら言った。


「あー、ハッチー! 待ってよぉ〜!」


 駅の南口を出て、大きな通りを進むと大きなホールがある。そのホール手前の横断歩道を渡り、右に曲がる。

 もう一度信号が青になるまで待ち、横断歩道を渡る。郵便局を左にのぞみながら少し直進すると、大きなショッピングセンター「イジュトンノ」がある。洋服から、食品、雑貨、CD、本などなど、大抵の物はここに置いてある。近々、経営不振の「白ハト書店」を買い取るとかテレビで言っていた気がする。

 ここにつくまでに話をしていたのはましか一人で、僕はその話について空返事をしていた。


「--ねー? 訊いてる? ハッチー。はーっちさーん」


「ん? ああ、訊いてるよ。千枚漬けは千一枚漬けちゃあ駄目って話だろ? 訊いてる訊いてる。これ以上ないくらいに、一人の話に対して耳を傾けているところさ」


「全く、全然、少しも、ちっとも、かけらも、いささかも、微塵みじんも、ちりほども、つゆほども--そんなことは言った覚えはなーぁい!」


 怒られてしまった。ましかはぷんすかしていたが、頭をぽんぽんとしてやった。なでなでの軽いやつだ。これをやるとましかは借りてきた猫のように大人しくなる。無論、髪型が崩れないように気をつかったのは言うまでもない。


「うー。いつもそーやってはぐらかして……。ハッチのばか」


「ん? 何か言ったか?」


「なーんでもなーいでーすよーん! いーっだ!」


 ましかは僕の前にててっとステップし、反転して、これでもか! って程口を横に開き、歯並びのいい小さくて白い歯を見せた。

 子供か。こいつは。


「勘違いしてよね! 別に、なんでもないんだからねっ」


「なぜいきなりツンデレになる?」


「昨日雑誌で見たの! 『ツンデレでモテる女に!』っていう項目っ」


「恥ずかしい項目だな……。しかし、ツンデレを演じるにはレッスンが必要みたいだな、ましか。そこは『勘違いしないでよね』だ」


「おお! さっすがハッチ! 雑に学んでるね」


「ツンデレは教養の一環だからな。練習してみろよ。僕がレッスン相手になってやるよ」


「本当っ!? 嬉しいよ! ましかちゃん頑張るねっ。では行きます」


「来いっ」


「勘違いしないでよね! 黒帯と茶帯なんだからっ」


「ほほう。『段違い』なんだな」


「勘違いしないでよね! あんたとは本当の兄妹じゃないんだからっ」


「『腹違い』な……」


「勘違いしないでよね! ただ遊びにきただけなんだからっ」


「『歓楽街』……。かな」


「勘違いしないでよね! 勘違いなんだからっ!」


「…………」


 どうなんだよ? ツンデレになる日は遠いな。頑張れ、ましか。


 さて、そうこうしてる間に「イジュトンノ」に着いた。ましかはまだ自身のツンデレ技法に納得していないようで、独り言のようにブツブツ何か言っていた。


「まずはどうする? ましか。ここなら何でも出来るぜ」


「んー。迷うけど……。そうだ、ハッチ! 映画見ようよっ」


 そう、ここは普通のショッピングセンターではない。屋上に近い階には映画館もあるのだ。


「今、何かいい映画あったか?」


「何かあるでしょ」


「適当なんだな」


「アクションものを観るべきか、恋愛ものを観るべきか、それが疑問だ」


「シェイクスピアをもじるなよ」


 こいつ、いつにも増してボケが多い。出かける事が嬉しかった、てぇのはわからなくもないが。


「おっ! ましか。これなんてどうだ?」


 僕はましかに映画館フロアの上を指差し言った。ましかは僕の指す方を見ると、みるみるうちに顔が青ざめていった。


「ほほほほほほほほ、ホラーは無しの方向でお願いします。お兄さん」


「ええ? 面白そうなのに」


「無理無理無理無理無理無理無理無理無理! りーむーだよ! 大体、ましかちゃんが怖いの苦手って知っているでしょうがっ」


 ホラーは無し、か。まあ、ホラーは映画館じゃあなくてDVDで観ればいいもんな。


「なら、アクションものか?」


「そだね。無難かも」


「じゃあ、あれなんてどうだ?『山羊やぎ達の沈黙』」


「Jシネマっっっ!?」


 このままではらちがあかないので、ましかに適当に決めてもらった。


「こ、この映画は?」


 犬が出てくる映画だった。こいつ、僕を泣かせるつもりだ。ましかはニコニコと笑っている。僕達はそれぞれ飲み物を買い、六番シアターに入り、指定された席に腰を下ろした。


「ハッチ。号泣とかやめてよお? 恥ずかしいから」


「ああ、頑張るよ」


 館内にブザーが鳴り響き、室内が静かに暗転した。僕とましかは、同じタイミングで咳払いをしていた。


 映画が終わり、号泣しているましかを動かすのには骨が折れた。

 内容を軽く説明すると、ジョンソンという男の子と犬のランディの話で、火山の噴火により封鎖される街にランディを置いていかなければならないという様な話だった。

 ジョンソンの迫真の演技に勝るとも劣らない、ジョンソンの乗ったヘリコプターを追いかけながら必死に吠えるシーンは少しウルッときたが、号泣するような作品ではない。犬を飼っている人間は、しっかり感情移入するのだろうけれど。


「ましか、犬飼った事ない筈だよなー」


 ましかは映画が終わって号泣しながらトイレに行ったが、そろそろ落ち着いただろうか。もう五分が経過していた。


「もし、兄ちゃん。ハンカチもっとらん? 貸してくれたら嬉しいんじゃけどー」


 トイレの出入り口付近で柄の悪い広島弁に少しビックリしたが、僕は声のする方を見た。

 僕に話しかけてきたのは身長が高く、ひょろ長い男だった。百八十、いや百九十センチはあるだろう高所から僕を見下ろしている。薄い紫色の長髪がちぢれ麺のようである。そのちぢれ麺からのぞ三白眼さんぱくがんに僕は少したじろいだ。


「はぁ……たいぎいのう。訊いとんか? 兄ちゃん、自分で。自分を呼んどるんじゃが」


 物凄いかったるそうに、喋っている。『たいぎい』とはなんの事だろうか。

 ビシャビシャに濡れた両手を体の前に出して自分が濡れないようにしている。ちぢれ麺も顔にかかって非常に不気味だ。『うらめしや~』とでも言ってきそうである。


「んー。兄ちゃん。訊いてないのう。 ワレぞ、ワレ」


「あの……。初対面の方に言うのもなんですけれど、手洗い場の横にある『乾燥機』使ったらどうです?」


「なにぃ? そんなんがあるんか? 知らなんだなー。兄ちゃん、なかなかやるのぅ」


 褒められてしまった。声と、手の感じからしっかりと成長しきった男、という印象を受けた。


「じゃが、ここらぁ人が多いのぅ。迷うてしもうたわい」


「どこかで待ち合わせ……とかですか?」


「おお、駅じゃのう」


「ここ、ショッピングセンターですよ?」


 紫髪のひょろ長い男は、濡れた手の位置を変えずに、顔だけで驚いていた。大きくない目を開き、開いた口が少し受け口になっている。

 驚愕、という形容が非常にあっている。


「ホンマかー!? 人の流れに沿っていけば着くって、通行人に聞いたんじゃがっ!」


「ええ!? 流石にショッピングセンターには流れつかないでしょう」


「ホンマになあ、なんじゃ、世界が結託してワシを駅に向かわせんよーにしとるなぁ」


 さいですか。よくわかりません。

 僕は呆れながら、ひょろ長い男に向かって訊いた。


「大事な用事だったんですか?」


「んー? 就職活動」


「大変じゃないですか!」


「ほんまにヤレヤレじゃのぉ」


 そう言ってちぢれ麺の男は手をプラプラと振って、仕上げに自分のズボンの尻の辺りで手を拭いて、どこかへ行ってしまった。


「なんだったんだ? 広島の、幽霊だったのか?」


 そんな事を言っていると、ましかが、ちぢれ麺と入れ替わるように登場した。ましかは女子トイレからルンルンとスッキップだった。まだ目が少し赤い。僕はましかに先程起こった幽霊譚ゆうれいたんを話してやった。

ましかはまた、泣き出してしまった。

新キャラ登場。

さて、どう関わるかはまたのお楽しみ!


このキャラは濃いぞー。以降は広島弁の解説はこのキャラにまかせますから(多分)。今回はとくべつに私が。

『たいぎい』→『疲れる、しんどい』

です。わかったかな?

まあ、わかりやすくはしていくつもりです!


ではまた21枚目でお会いしましょう。

闍梨じゃりでした。


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