十九枚目
「だぁーかぁーらー! デートって言ってるでしょー。デート! デイト! でぇ~え~とぉ~」
電話越しにましかが唸っている。
僕はジョギングを済ませてシャワーを浴び、携帯を確認するとましかから七件の着信履歴があったのでこうして電話をしているわけだ。もちろん、紳士である僕から掛け直したのだ。
「えー? 今日は休日だぜ? せっかくの休日になんでましかとデートしなきゃあなんないんだよ」
「むー! ハッチはましかちゃんに対して罪悪感とかないのー!? 休日だからこそ、デートなんでしょ! 街に繰り出そうよ! 夏だよ? ましかちゃんが肌を出して街を闊歩する季節が来たんだよ! はいっ! 喜んでっ!」
「意味わかんねぇよ。お前のつるぺたのどこに喜べって言うんだよ? お前はなんと言うか……そうだな、美味しい肉じゃがが作れそうな寸胴体型じゃあないか」
「ましかちゃん肉じゃが作れないしっ!」
そこじゃねぇだろ。体型いじられた所に反応しろよ。
「と・に・か・く! あと五分したら家行くから! 鍵開けておいてよ!」
「はいはい、分かった分かった。どこに行くか決めておけよ」
僕はそう言いながら玄関に向かい、鍵を開けて、チェーンを閉めやった。さて、どんな反応をするか楽しみだ。どうせましかの事だ、漫画の様に目をグルグルさせながら甲高い声で『ど、どど、どゆことー!?』などと言うのだろう。これ以上の反応をみせたらご褒美として昼飯でも奢ってやろう。
「あれ? あれれれ? 鍵開けた音以外の音も聞こえた気がしたんだけどっ!?」
「ああ、僕がつけてるジャラジャラとしたネックレスの音だろ。聞こえちまったか? 悪い悪い」
「ハッチそんなの付けてたっけ? んー。まぁいいか! じゃあ、あと三分したら行くからねー!」
数えてたのかよ。電話切ってから五分じゃあないんだな。ったく、時間にキッチリしてる奴だな。
「じゃあ、また三分後に」
「もう二分だよ! よんじゅーきゅう、よんじゅーはーち、よーん----」
僕は電話を掛けた側の礼儀として、通話終了ボタンを押した。
「さて、服着るか」
三分後、ましかはキッチリと僕の家の玄関を開いた。と言ってもチェーンを引っ掛けていたいたので、扉は少ししか開かなかったが。僕は早々に着替えを済ませて玄関の見える廊下に待機していた。
ましかは目をぐるぐるさせながら、甲高い声で言った。
「ど、どど、どゆことー!?」
ああ、やはりましかだ。僕の予想は見事に的中した。昼飯は割り勘に決定した瞬間だった。
「よう! ましか。今日も相変わらず元気だな」
「当たり前だよぉ~! ましかちゃんは元気じゃなかった時はないよぉ~!」
まだましかは目を回していた。僕は少し心をくすぐられたので、決定事項である『昼飯は割り勘』を改めた。
「悪い悪い、ましか。ほれ、まぁ入れよ」
「うううっ。ましかちゃんまた騙されました。幼馴染なのに……。ハッチの幼馴染なのに……。ああああああああああ……」
ましかは玄関に立ち尽くし、ガックリと肩を落としていた。僕は財布をジーンズの右ポケットに入れ、携帯と家の鍵を左ポケットに入れた。
「まぁまぁ、ましか。ちょっとした冗談だからさ。気にしないでくれよ」
ましかはノースリーブの柄ワンピースを着て、胸の下当たりに緑色の帯の様なものをしている。靴はグラディエーターと言うやつだろうか。赤を基調にしたデザインのミニワンピースなので、全体的にイチゴみたいなファッションである。
髪型はいつもの後ろ広がりのポニーテイルではなく、両サイドとトップを編み込んで、トップにボリュームがある感じになっている。なんと言うか、気合い入ってるって感じだ。
因みに僕はスーパーラフな恰好をしているのだ。半袖の黒いバンドTシャツにジーンズ姿だ。髪型は特に変える事もなく、いつも通りといった感じだ。さて、靴はどうしようか。
「んもぅ! ハッチのばかぁ!」
ハイカットの赤いシューズを履きながらましかの愚痴を訊く僕。
「さて、行くか」
「うん! えっへへへ」
僕の二日ある休日の一日は、ましかの為になくなってしまうのだな。玄関を出て鍵を閉めながら僕はそう思ったが、ましかの太陽のような笑顔には正直ドキッとした。
本物の太陽は、相変わらず僕を元気良く照らしている。僕は今日、二つの太陽を相手にしなければならないのだ。
「しょうがないな」
そう呟き、僕達は駅に向かって歩き始めた。
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