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菓子増ましかと三時のおやつ  作者: 闍梨
一章 部活創設編
18/42

十七枚目

作戦開始。


僕と鈴白は、生徒会室から少し離れた中央階段付近で、喧嘩をする事にした。


「いいか? 鈴白。演技だぞ。演技。勢い余って殺さないでくれよ。僕だって長生きはしていたい」


そう言う僕に鈴白は高らかに笑った後、頭に巻いている白いネックウォーマーの位置を直しながら言った。


「かっはっはっはっはっはっは。皮肉屋ァ。ガキん時、『おゆうぎかい』ってあったろ? あれ、俺ぶち壊した経験があってなァ。ーーイヤイヤ、当時は暴れたとかじゃあねえよ。それ以来、演技だとか、そういうのわっかんねえんだ。つまりだな……」


「あ、あれ? 鈴白……。その硬く、固く握りしめた右手は何だ? いや、いやいやいやいやいや演技! エンギ! えんぎ! 円っーーーー!」


鈴白の鋭い右ストレートが顔面めがけて飛んできた。

直撃はまぬがれたが、僕の右頬が熱い。きっとかすったのだろう。血が出ている。


「俺ァとんでもねぇ馬鹿だからよ。演技なんて難しい事……。出来ねーのよ」


続いて左フックが僕のレバーを狙ってきた。右腕でフックを防御するが……。


「痛っっっっってぇーーーーーー!」


「かはっ! 防御出来んだな。中々落ち着いてんじゃん皮肉屋」


「うるせえよ。不良が……。今のは防御したが、防御にならない、位に、効いてる……」


右腕、特に肘周りの感覚がおかしい。それ位鈴白のパンチは重く、鋭い。


「まぁ、今日はエキシビジョンマッチってとこだし、軽めにいこうぜ。皮肉ーーやっ!」


蹴り!

ハイキック!

頭狙い!

殺される!

一瞬のうちに考えられたのはこの四つだった。ほんの少しだが走馬灯も見えたような気がした。

続いて鈴白は僕にワンステップで踏みより(と言うか、ターンっと地面を蹴っただけだったが)右アッパーを繰り出してきた。これは防ぎきれずに食らってしまう。

しかし、後ろに下がらず僕は前に出たので、対したダメージにはならなかった。


「やるな! 流石だ、皮肉屋」


そう言いながら、距離をとったのは鈴白だった。身長差があり過ぎて僕には不利過ぎる。

いやいや、そもそも本気マジの喧嘩になる事こそ間違いだろ。畜生が。


「うううう、クソッタレがああああああああああああ」


そう叫びながら、僕は鈴白に飛びかかった。ガードも出来ない右腕を、だらしなくぶら下げたままの特攻だった。

すると僕の後ろから声が聞こえた。


「そこまでよ。校内で、しかも生徒会室の近くで、よくも堂々と喧嘩できますね。普通ありえませんよ。そうでしょう? そうですよね」


来た。生徒会長だ。

会長の後ろには、ましかがいる。

御乃辻は? ちゃんとカメラ持ってスタンバイしているか? よし、階段下か、良いポジションどりだ。


じゃあ、そろそろ行くぞ!

南無三っ!


「男の喧嘩に口を挟まないでくーーーーうを」


鋭い痛みが右足に走った。

正体は鈴白のローキックだった。


「敵に背中見せてんなよ。皮肉屋」


「馬鹿野郎ォォォォ」


会長の方へ向かいながらこけそうになる。僕は必死に手を延ばし会長を触りにかかる。

ああ、僕はなんて変態なんだろう。


ーーーーぶちっーーーー


どしゃっと倒れた僕は伸ばした手の先を確認する。


「こ、れは? す、す……」


倒れた状態から左をみると、御乃辻が階段から飛ぶようにして僕の上に乗って来た。さらに御乃辻は左手で僕の目を隠した。どんな罰ゲームなんだよ。

御乃辻はしっかりと右手に持っていたカメラのシャッターをきりながら大声で叫んだ。


「チェックメイト! です!」


目隠しはあったが、ピロリンという携帯のカメラの可愛いシャッター音が聞こえたので、何かを撮影した事がわかった。

僕は手を緩めた。すると、僕の手に平手打ちが一つ入りつかんでいたモノが上に登って行く感覚があった。


あれは、間違いない。会長のスカートだった。という事は御乃辻が撮影したモノは……。ま、まさか!?


「ダメです。ハッチさん。まだ上を見てはっ!」


御乃辻の目隠しはまだ解かれない。しかし、御乃辻とゼロ距離、密着している時間はこれはこれで得をした気がしたので、彼女の指示に従った。


「あなた達っ、昨日の……!」


「ふふふ、ようやく気づいたようですね。生徒会長。僕たちの勝ちですよ」


「な、何を……」


まだ目隠しは取られない。


「御乃辻! 言ってやれ! 僕たちの勝ちだ、と。わーっはっはっは……あ、あれ?」


ゆっくりと視界が開けて夕暮れの眩しい光に目がチカチカした。御乃辻が暗い表情で携帯を僕に見せた。

御乃辻は無言だった。

見せられた画像には、僕の想像を絶するモノが写っていた。


「ハ……ハーフパンツ……だと?」


写真に写っていたのはスカートを下ろした僕の手と、ハーフパンツを履いた生徒会長の姿であった。

やはり、生徒会長のガードは硬いようだ。


この後、僕達五人は生徒会室で完全下校時刻まで生徒会室で会長の説教を受けることとなった。

切子(きるこ)ちゃんは終始むくれていた。

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