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菓子増ましかと三時のおやつ  作者: 闍梨
一章 部活創設編
17/42

十六枚目

あらかた説明を終えて、図書室内が静まりかえる。一番始めに口を開いたのは切子(きるこ)ちゃんだった。


「ああ、ハッチ先輩。つまり来週の月曜日までに、あのにっくき生徒会長の弱みを握り、脅しをかけて部活をつくってしまおうと。そういことだな?」


「脅し……。まぁ、そうなるのか。何にしても、一筋縄じゃあいかないんだ。昼休みに生徒会室に忍び込んだりしたんだが収穫は無しだったし」


「先輩は動きが軽快だなぁ。恐れ入った。恐れいらなかった時がないぞ! 先輩は泥棒の心得があったということか。それでは私は峰不二子といったところか 」


「いや、どっちかといえばお前は次元だ」


「私はあんな立派な髭たくわえていないぞ」


「とにかくさ、会長の弱みらしきものは生徒会室には無かった。だから、本人から何かしらの情報を得なければならないって事なんだよ」


「ふーん。なーんかめんどーな事になっちゃっているねぇ。ましかちゃんは面倒事はゴメンだよ! お菓子が食べられるならそれでいいんだよ」


そう言いながら、スナック菓子の袋を開こうとするましかをとめたのは御乃辻だった。


「菓子増さん。図書室は飲食禁止ですよ。図書委員さんに怒られてしまいます」


「ああ! いけない。そうだったねえ。ゴメンさやちん」


ましかはスナック菓子をカバンに収める。

こいつのカバンは授業道具とか入っていないのだろうか。スナック菓子がすんなりカバンに収まるなんて。


「しっかしよぉー。会長の弱みなんてどうやって探すんだよ。しかも、来週の月曜日までって……。今日金曜日だぜ?」


「鈴白のいう通りだ。だから、なんとしても今日中につきとめなきゃあいけないんだ」


「んーーーーしかし、なんなんだろうね? 生徒回復会長……だっけ? そんなオカルトじみた役職の人、ましかちゃんは初めて聞くんだけど」


芒野秋。

確かに、謎の多い奴だ。

自称なんでも知っている、チビ赤眼鏡の姿が僕の頭に浮かんだ。


「まあ、あれこれと考える前に行動しようではないか先輩方! よーし。燃えてきたーー!」


「諸悪の根源が何言ってるんだ」


「酷いぞ! ハッチ先輩。私は汚名を挽回しようと……」


「汚名は返上してくれよ。切子ちゃん。」


「ぬなっ! また痛いところを突いてくる。しかし、突かれるのは存外、嫌いではないぞ」


「分かった、分かった」


「せめてツッコミはしてくれよ先輩ィィィィ」


泣きそうな声で叫ぶ切子ちゃん。

そして、隣の席にいるましかが、小さい声で訊いてきた。


「ん?どゆこと?」


「お前は知らなくていいよ。ましか」


その後、図書委員の人に注意された僕達は(切子ちゃんが叫んだせいだと思うのだが……)場所を教室に変えた。

僕と御乃辻の教室。二年四組に僕達五人は集結した。


「これがハッチ先輩の机だな? 舐めてもいいのか?」


「断固拒否する」


切子ちゃんの首根っこを掴み、僕の席ではない他の席に着かせた。

とりあえず椅子だけを他の席から拝借し、僕の席の周りにみんなが集まった。


「どぉするの? ハッチぃ。このままだと、ましかちゃん達は部活させてもらえないんでしょう? そんなのは嫌だ。嫌だ。嫌だ」


「だから、今から動くんだろ? 僕達が」


時刻はもう4時になろうとしていた。

残された時間は少ない。


「さて、では今からいう通りに動いて欲しい。生徒会長に近づく係りには、ましか。お前が適任だ」


「ええー!? めえええええええええんんどぅぅぅうおおおおおおぉぉぉぉぉくぅぅぅぅさあああああああああああぁぁぁぁ」


「お菓子、食えなくていいんだな」


「やります! ハッチ隊長!」


機敏に敬礼をするましか。

明後日の方向をに敬礼をしているのは、しょうかたなしと腹をくくったからだろう。


「そして鈴白は、少し暴れて欲しい」


「任せろ。会長をぶっ飛ばす係りか。腕がなるぜ」


「阿呆! 僕と喧嘩するんだよ」


「んお? リベンジマッチか? 皮肉屋。

受けてたとう。かっはっは」


「違う。会長をおびき出すんだよ」


「成る程。ハッチさんと鈴白さんが生徒会室の近くで暴れるのですね」


「流石、御乃辻。話が早くて助かる」


僕は御乃辻に親指を立ててGOODのポーズをして見せた。続いて御乃辻は言う。


「そうなりますと、生徒会室に乗り込む人が必要になるのですが、それが菓子増さんの仕事になるわけですね」


「そうだね。ましかは生徒会長に顔が割れていないし、偶然を装うことができる」


切子ちゃんはほうほうと頷きながら教室の天井をみている。シュミレートしているのだろう。


「しかし、会長をおびき出した後はどうするの? ただただ喧嘩を止められるんじゃあ収穫はないとおもうよぉ」


僕は下を向きふっふっふ、と『不敵な笑み』を浮かべながら言った。


「どさくさに紛れて、僕が会長にセクハラをする」


…………。あれ?

女性陣の目が怖い。

ええ!? 切子ちゃんまで!?


「かっはっはっはっは」


鈴白は高らかに笑っていた。


「いやいやいやいや、まてまてまてまて! 僕は生徒会長のカラダがいやらしく、魅惑的だったからと言ってこんな事を言ったんではなくだな……」


「うるせーーーーーー!」


ましかからグーパンチを頂いた。

幼馴染ゆえの容赦の無い力加減であった。

ベネズエラの太陽と呼ばれる日も近いな、ましか。


「どうして会長にセクハラすることが、弱みを握ることになるのさァ! まったくもう! ましかちゃんは哀しいよ」


「話は最後まで聞け、ましか。僕がただセクハラ行為を行うだけだと思うかい? 会長の、あのふくよかな胸を揉む事しか頭にないとーーーーふげぇえ」


今度はボディーに蹴りをくらってしまった。見えなかったぞ、今の蹴りは!


「この作戦は無し! 絶対に無しっ!」


「話はァ、最後まで聞くもんだぜ……ゲホっ、ましか」


僕は腹を抑えながら、ましかを指差しながら言った。


「会長が僕を……。今、ましかがそうした様に、したところをカメラに収めるんだ。スキャンダルだぜ?」


パチパチパチパチ……。

切子ちゃんが惜しみない拍手を僕に送ってくれた。目を閉じて、上を向き、泣いている。号泣している。


「素晴らしいぞ、ハッチ先輩。それでこそ私の先輩だ。感動してしまって涙が止まらないよ。そして、私はその写真を取る係りをすればいいのだな? ハッチ先輩」


僕は態勢を立て直し、椅子に座り、冷蔵庫にいれたライスの様に冷え切った表情で切子ちゃんに言った。


「お前は、何もしないで」


「なんとっ!?」

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