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菓子増ましかと三時のおやつ  作者: 闍梨
一章 部活創設編
1/42

一枚目

初投稿。ゆっくり書いていきたい。

塩の辛さ、砂糖の甘さは学問では理解できないが、舐めてみればすぐわかる。

ーーーー松下幸之助



「お前さん……将来なりたいものとか、やりたい事とかーーーーないのか?」


 夏の生徒指導室で僕は担任教師に進路指導を受けていた。元来、生徒指導室というのは僕のような平凡で真面目な生徒がお世話になる場所ではないのだけれど今回の《進路》の件に関していえば僕は不良であった。

 故にこのような生徒指導室の奥に設けてある小部屋ーー僕たち生徒の間では取調室と呼ばれているーーで担任の教師と格闘しているのである。


「先生。僕はやりたい事が無いですし、進学も考えていないので保留というわけには……」


「認められんなー。お前さん保留二回を経てこの状況にいることが分からんのか? 高校二年の夏に進路は決めとかにゃあ、担任としてフォローが出来んじゃろう。フォローが」


 僕に届くか否かのしわがれた声を絞り出しているこの教師、来年か再来年にはめでたく定年退職するらしいのだが、全く怒気がない。いや、覇気か? とにかく怒られに来てはいるが全く怒られている気がしない。かれこれ一時間はこの質問の繰り返しである。やれやれ。


「おい、聞いとるか?」


「はい、聞いてますよ。でもね先生、僕は僕の好きなように生きて、そして死にたいんです。長い人生ですしいつかは見つかるでしょう自分の進路が。……それでは」


 そういって僕は颯爽と席を立ったが、やはり制された。この老師は本当に話が分からない。財布を持ってない人に向かって「飛んでみろ」と言っているのと同義ではないか。

 定年前の老師にカツアゲをくらう希有な体験をした僕はそれから無言劇を繰り広げた。すると


「じゃあ、こうしよう。何か部活動をやりなさい。だらだらと高校生活を送っているだけでは何も解決せん。とにかく少しでも興味がある事に挑戦してくれ。儂から言えるのはもうこれくらいしかないわい……」


 はぁ、と先生は溜息を一つしてようやく僕を開放した。溜息をつきたいのは僕の方だったがまた新たな難題を提出されたものだ。


「うーむ。部活……ねぇ」


 少し考えてみたがこれといってやりたい事がない僕に部活男子になる要素は一ミリも無いだろう。そういって階段を降りて下足場へ向かった。

下足場で上履きから靴に履き替え下校モードに切り替わった瞬間、僕の後から大きな声が聞こえてきた。


「おーい! ハッチ~! 今帰り~? 帰ろう帰ろう帰ろうぜぇ! 今日は委員会長引いたから一人下校かと心配してたんだよぉ~」


 この非常で異常なウルサイ娘は僕の幼馴染、菓子増(かしまし)ましかだ。まるで逆立ちでもして駆けて行きそうな名前だ。


「よう。ましか。いつも通りだな」


「そうなんだよそうなんだよ~。いつも通りでいつものとうり元気で勇気がりんりんなましかちゃんなんだよぉ~! ところでどっこいハッチは何してたのかな?」


「どっこいの使い方が絶望的なまでにふさわしく無いが……。まぁ進路指導だよ。煎餅の説教」


 煎餅というのは先程の老師のことだが、これが本名か渾名なのかはぼくは知らない。ちなみにハッチとは僕の渾名である。


「ヘェ〜。煎餅とねぇ~以外とちゃんとしてるんだねぇ。一回も煎餅クラスだったことがないから、私はわっかんないなぁ~」


 くりっとした目を大きく開いて首を傾げるましか。後ろでまとめているポニーテールまでハテナをつけているようだ。

 取調室の出来事をあらかた語りながら僕たちは校門を抜けた。学外にでるやいなや、ましかは常備しているお菓子の袋を開け始めた。今日のお菓子はカールか……。僕とましかの家は学校から徒歩十五分くらいの位置にあるが、帰るまでに食べ切れるのだろうか。

 下校中は僕から話をすることは殆どない。いつもましかがマシンガントークをする。聞いていて感心するほどよく喋る。こいつの中には実は黒柳徹子が入っているのでは無いかと思っているが、そこは自重。


「ねぇ、部活ってどう思う?」


 とりあえず前置きもなくフワッとした感じに聞いてみた。


「なになにな に? ハッチ~? 部活やるの? 何部何部? 私マネジできちゃう? やっちゃうよーましかちゃんはっ!マネジをメントしちゃうかも~。でもやるなら選手だよね! エースとか憧れるぅ」


 ……………。


「待て待て……聞けよ僕の話を。煎餅に言われたんだよ。進路決めないなら部活しろってさ。本意ではないんだけどね」


「ふぅん。でも部活いいじゃん! 部活って楽しいよね! 若いうちに活動しとけ少年っ!」


「お前は帰宅部だけどな」


「んなっ……真実を見抜かれたっ」


「何年一緒だと思ってんだよ」


「むーん……」


 唇を尖らせているましかをもう少し見ていたかったが、家に着いてしまったので話を終わらせて僕の家の前で別れた。そして僕が玄関を開けようとした時に後ろでましかが言った。


「ハッチが不安ならましかちゃんが一緒に部活やってもいいよーー!」


 小さくも逞しく見えてしまった幼馴染を肩越しに見つめて、少し考える様にして僕は言った。


「じゃあ……野球部で」


 ましかは持っていたカールを袋ごと落としてしまった。


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