朱色の想い
この第1話だけ試しに修正してみました。
残りの修正については別サイトで投稿している本作を完結させるまでやらないと思います。
初めに在ったのは渦。
ただ、それだけ。
やがて天と地が産声を上げ、何処より現れた別天神と呼ばれる五柱の大いなる神々によって、セカイは形創られていったのだという。
だが、程なく別天神は姿を隠した。ゆらゆらとたゆたう土とは呼べぬ下の国と、尊きいくつかの光を残して。
別天神からセカイを託されし輝き――神世七代と呼ばれる神々は、不確定なセカイに安定をもたらす。音、色、形、火、水、風、土。
理がセカイを支え、数多のルールが作られて行くその道程では、更に多くの神々が誕生する。その中には、ヒトの形と意思を持った神もいれば、形を取らない意思無き力のみの神も多く居たという。
ある者はセカイに存在し続け、またある者は自然に融け、そしてまたある者は理の一部となった。
ならば――。
今この耳に届く穏やかな波の音も、掌に伝わる冷たい岩肌の感覚も、鼻孔を擽る潮の香りも、視界に広がる紅い夕空の色も、そのすべてに神々の息吹が宿っているのかもしれない。
神世七代の一柱、イザナギとイザナミは日本の国土を固着させ、そして数々の命を生み出し、セカイには感情が宿る事となる。
喜び、哀しみ、怒り、嘆き、迷い。
こうして〝世界″は廻り始め、生命の営みは時の流れと共に長き旅路へとついた。
それは悠久を越えた現代でも。
人々は破滅を疑わず生き続け、現実をその目にしている。
遠く響く人々の喧騒が耳を掠め、情けなく地面に腰をつく俺の瞳に映るのは、真紅に染まった夢現。視線の先には血に塗れ横たわる〝異形″の屍。その物言わぬ躯が灰となって潮風に乗り、紅い空へと吸い込まれ消えて行く光景も、すべて……俺の現実。
なら、この時俺の心を虜にする物問いた気な瞳も、きっと幻想でもまやかしでも無い、確かな真実なのだろう。
夕陽に照らされ佇む〝あかい″女。
俺と女の間を吹き抜ける冷たい風は、何故だかに見えぬ壁のように思えて。
彼女は風に乱れる長い艶やかな髪を気にするでもなく。その唇は言葉を紡がず、強き想いを宿した瞳だけが、一心に俺の姿を映し出す。
そう、俺は染まって行く。
〝彼女″という存在に。
〝再会″という喜びに
〝愛″という激情に。
〝裏切り″という後悔に。
〝恐怖″という……現実に。
哀愁に濡れた時の中で、静寂が目を覚ます。
世界の色、音、そのすべてを失い、俺に残されたのは彼女という存在だけ。それはまるで太陽の光のように温かく、心地よくて……懐かしい。
惹きつけられるは〝朱色の瞳″。
彼女の優しさを秘めた、美しくも儚い朱。
俺を捉えて離さないその姿。色褪せる事のない真実の想い。
悠久を越えたこの場所で。
彼女の微笑む〝朱の世界″で。
、すべては、この出会いから――。
泣き笑いのような切ない表情。
けれどその声は、これ以上無い幸福に満たされていて。
こうして、朱い女の唇は、この物語の始まりを告げた。
さよならを届ける運命の刻へと向かう、俺達の旅の幕開けを――。
「おかえりなさい……スサノオ…………」