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神威  作者: 桐丸
第2章:ツクヨミ編
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追憶3 『アマテラスとツクヨミとスサノオと』

いきなり攻撃を受けた海は意識を失ってしまう。そんな中空子の前に現れたのは前世の仲間『ツクヨミ』だった。しかしツクヨミは空子を拒絶し攻撃を仕掛けて来る。応戦するも力量差は圧倒的で、空子は呆気なく敗れた。そうしてツクヨミがトドメを刺そうとしていた時、海は遠く彼らの声を聞いていた。こうして、大切な想い出がまた1つ蘇る。


「ん~、出来ないよ~」


 陽の光が傾き始めた空の下。地面に咲き乱れる花の香りは甘く優しく。そんな光景に負けず劣らず可憐な声が、視界いっぱいに広がるお花畑に情けない響きを残す。

 声の主は朱色の瞳を湛えたお日様の少女アマテラス。


「そっか、よかったな」


 地に落とした腰下から伝わる草花の柔らかな感触を感じながら、僕は気の抜ける様な声へ適当に相槌を打って自分の作業に戻る。


「よくないよ~。スサノオちゃんのばか~」


「そっか、ばかでよかったな」


「う~、全然お話きいてないでしょ~」


「うん」


「ちゃんと聞いてるんじゃな~いっ。わ~ん、スサノオちゃんのいじわる~」


「お前たち、うるさいぞ」


 埒も無い言い争いをしている僕たちを窘める男の子の声。

 僕たちと同じく綺麗な花に囲まれて、視線を手元に向けたまま手元の作業と格闘しているのはツクヨミ。

 しっかり者のツクヨミが言い争う僕たちを止めるのはいつもの事。そしてそんなツクヨミに甘えた声が向けられるのもいつもの事。


「だって~。スサノオちゃん、お話ちゃんと聞いてくれないし~、お花はぐちゃぐちゃだし~、お腹減ったし~」


「何だ? 最後のは?」


「ぶ~、スサノオちゃんには教えてあげないっ」


「いいけど……」


「や~、聞いてよ~っ」


(聞いてほしかったのか……)


 毎度の事ながらアマテラスは呑気な性格だ。

 そうして心の中でため息を吐く僕の横では、ツクヨミが大人びた笑みを浮かべる。


「ほら、出来たよアマテラス」


 そう言ってアマテラスの頭に手に持った物を乗せるツクヨミの顔は満足そうで。


「わ~、すご~い。さすがツクヨミちゃん! やっぱり何でも出来るんだね~」


 頭の上に飾られた物を触るアマテラスの顔も嬉しそう。

 お日様の少女を彩るのは色彩豊かな花の冠。


「へへへ~、どう? スサノオちゃん。似合う?」


 幸せそうな顔ではにかむアマテラスの方を横目で一瞥して、すぐに自分の作業に戻りながら僕は答える。


「ああ、似合う似合う。お花「は」綺麗だね~」


 意地悪く『は』の部分を強調してやる。それは子供ながらの些細な対抗心。


「なによ~、お花「は」って~? それじゃあ私は綺麗じゃないみたいじゃな~い?」


 ぷくっと頬を膨らませ抗議するアマテラス。見慣れているはずのそんな拗ねた顔も愛らしく。だからこそ、素直に言葉が出て来ない。


「はいはい、そこまで~。ほら、もう陽が暮れるよ。二人ともそろそろ帰らなくちゃ」


 でもそんな僕とは正反対で、どんな時でもツクヨミはしっかり者。やっぱり敵わないなと思い知らされるのだけれど、それが悔しくもあり誇らしくも思う。


「私、お腹減った~」


「さっき聞いたよ。腹ペコ大王」


「私、女神~」


(腹ペコは否定しないのか……)


「ほら、スサノオも早くしなよ」


 急かすツクヨミの顔に浮かぶのは苦笑い。これもいつもの事。ここで僕が諦め悪く作業を止めない事をツクヨミは知っているから。

 だから僕はその声を無視して自分の作業に集中する。


「もうちょっと…………出来たぁ!」


 言って、すくっと立ち上がる。きっと今の僕は得意げな顔をしているんだろう。


「へへへ~」


 自慢げに完成した花冠を夕焼け空にかざしてみる。

 白と桃色の花びらが紅い夕陽に照らされて、何故だか少し哀しく見えた。


「へたくそ~」


「うるさいな。そういうお前は完成すらしていないじゃないか?」


「いいも~ん。私にはツクヨミちゃんの作ってくれたのがあるも~ん」


 その一言が胸にチクリと痛みを残した。だから僕は自分の心を悟られない様にそっぽを向く。


「ふん。いいんだよ。こういうのは気持ちが大切なの!」


「負け惜しみ~」


「あ~もう、うるさいな~。いいよ、そんなに言うんだったら壊せばいいんだろう?」


 ヤケになって心にも無い事を言う。寂しかったから、悔しかったから。


「あ~、まって、まって~。折角作ったのにもったいないよ~」


「別に、どうせ僕が着けるわけじゃないし……」


(そう、一所懸命作ったのは)


「じゃあ、どうするつもりだったの~?」


(お日様の笑顔が見たくて)


「知らない。二人が作ってたから、なんとなく」


(ツクヨミに負けたくなくて)


「ん~、じゃあ、それ、私が貰ってあげる~」


(アマテラスの傍に居たいから)


「あげない」


(子供心に)


「や~っ! ちょうだ~いっ、ちょうだいったらちょうだ~い!」


(何かしてあげたくて)


「痛い痛い、ひっぱるなよ~。……わかったっ、あげるっ、あげるからひっぱるなーっ」


(喜ぶ顔が見たくて)


「ほんとう? やった~!」


(ただ、それだけで)


「ねえねえ、スサノオちゃん着けて! はやく、はやく!」


 僕に向けられる小さな頭。そこにはツクヨミの作った綺麗な花の冠。僕が作ったのとは大違い。


「ねえ~、はやく~」


 待ちきれないのか。僕を見上げて来るのは期待に胸膨らませた朱色の瞳。それが嬉しくて、誇らしくて。


「……ほら」


 でも少し照れくさくて。ツクヨミの作った冠にみすぼらしい冠を乱暴に乗せる。

 少女の頭の上で重なった二つの贈り物は見るからに出来が違っていて、僕の心には少しだけ影が差す。。


「うわ~、うわ~」


 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、アマテラスは目を輝かせて走り回る。


「ふん」


「何ふてくされてるんだ? 喜んでるじゃないかアマテラス」


 普段大人びた言動と雰囲気のツクヨミも、無邪気に走り回るアマテラスの姿を見つめる横顔は年相応の少年の表情。


「ふてくされてないよ、呆れてるの」


「フフ、そうか」


 そんなツクヨミとアマテラスの笑顔を見ているうちに、自然と自分の頬が緩むのが分かる。だって、僕は二人共大好きだったから。


「お~い、早くしないとご飯全部食べちゃうぞ~」


 いつの間にか僕たちから遠く離れた場所にいるアマテラスが叫ぶ。勢い良く手をブンブンと振りながら。


「全部食べれるわけ無いだろ~」


 言って後を追う。少女の隣に立つ為に。


「ふふふ~ん、食べれるも~ん」


 逃げる様に駆け出すアマテラスの笑顔の前には、綺麗な花すら霞んで見える。


「お~い、二人とも待ってくれよ~」


 ツクヨミも走り出し、二人並んでアマテラスを追う。お日様の笑顔を傍で見ていたいから。


「あいつ、腹減ってたんじゃないのか~?」


 呆れ顔の僕。ツクヨミからはいつもの如く冷静な返事。


「だからだろ? 早く飯が食べたくて仕方ないんだろう」


「変な奴」


「せめて無邪気って言ってやれば?」


「そんな難しい言葉分からないよ」


「優しいって事だよ」


「ふ~ん」


「なあ? スサノオ」


「んー?」


「もし、アマテラスを泣かせる奴がいたらどうする?」


「何? 突然……」


「もしもの話」


「ん~? そうだな~……。とりあえず、僕の神技でぶっ飛ばす!」


「あはははは。そうか、ぶっ飛ばすか」


「どうしたんだよ?」


「いや、ほんとに特に意味はないんだけどね。アマテラスの表情みてたら何となく」


 そんな事を呟くツクヨミの表情は温かく穏やかで。包み込む様な優しい眼差しがお日様の少女を映し出す。


「ふ~ん。そういうツクヨミは?」


「僕? ……もちろん、ぶっ飛ばす!」


「…………」


「…………」


 自然と視線が絡まる。

 次の瞬間お互いの顔に浮かんだのはクシャクシャに歪んだ笑顔。


「ははは……」


「あはは……」


「「あはははははは」」


 何が面白いという訳では無かった。ただ、嬉しかった。同じ考えだった事が頼もしく……幸せだった。


「大丈夫! どんな奴が出てきたって、僕とツクヨミの二人がいれば!」


「うん! 僕とスサノオの二人なら、きっとアマテラスを守れるよね!」


「遅いぞ~、置いて行っちゃうよ~!」


 遠くからは緊張感の欠片も無い呑気なアマテラスの声。僕たちを包みこむのはお日様の笑顔が見つめる朱の世界。


「……あいつ絶対転ぶよな?」


「……言わないでおいてあげなよ」


 苦笑する二人を放って落ち始める夕陽。二人の影は先を走る少女の影を追いかける。


「……ねえ、ツクヨミ?」


「ん? なあにスサノオ?」


「さっきの「もしも」じゃないけど……アマテラスを泣かせてるのが僕だったら……どうする?」


「……もちろん、ぶっ飛ばす!」


「……そっか」


 何故だかツクヨミの言ったその力強い言葉が嬉しかった。


「じゃあスサノオは? 僕がアマテラスを泣かしてたら……どうする?」

 チラリとツクヨミの方を見る。こいつがそんな事をするはず無い。僕と同じで何よりもお日様の笑顔が好きなのだから。

 でも、もしもそんな時が来たとしたら……。


「もちろん……」


 視線を前に。そこには二つの冠を頭に乗せはしゃぎ回るお日様の少女。

 綺麗な冠と不恰好な冠。けれど少女にとってはどちらも大切な宝物。


「もちろん……何?」


 そう。あの笑顔を曇らせるというのなら、それが他でも無い大好きなツクヨミだというのなら、僕がやるべき事は一つだけ。


「もちろん……、僕の神技でぶっ飛ばす!」


 お互いを見る。共に満面の笑顔。それは当たり前の事。

 僕たちのどちらかが道を間違ってアマテラスを泣かせるというのなら、それを正すのは残った方の役割だから。少女の笑顔を護るのは、僕たちにしか出来無い事だから。


「そういえばスサノオ。神技の名前は決まったの?」


「う……いや、まったく……」


「じゃあさ、『虚空』っていうのはどう?」


「こくう?」


「そう、虚空」


「う~ん、どういう意味?」


「え~と、なんとなく……。あ、ほらっ。何か悪は許さないぞ~、みたいな感じだし……」


 言葉尻がだんだん小さくなり仕舞には頬をポリポリし出すツクヨミ。

 ちょっとだけジト目を向けてやる。


「単なる思い付きじゃん……」


「いいんだよそんなの! いいじゃないか強そうで」


「そういうアマテラスみたいな事いうなよ」


「あはははは」



 幼き日、少女を護ると約束した小さな二人の戦士。

 夕陽が見つめる時間の中、前を行く少女の影法師を追う二つの影法師。

 少女の影法師がコテンと転がる。

 後を追っていた二つの影法師は、慌ててへたり込む影法師の下へ。

 夕暮れ時の紅い時間。

 永遠に在り続けると思っていた幸せな場所。

 辺りに響く少女の泣き声。

 心配する二つの声。

 朱色の瞳を湛えた少女は小さな戦士達にとって何よりの宝物。

 彼女と共に過ごす時間、朱の世界に三人の声が木霊する。

 それはとても賑やかで、嬉しくて、愛しくて、切なくて、寂しくて……哀しい。




 そんな、夢を見た――。




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