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神威  作者: 桐丸
第1章:旅立ち編
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神技

鬼に襲われていた空子を救うべく立ち向かった海。しかし鬼の力の前に成す術無く返り討ちにあう。そうして死を迎えようとした瞬間、またも前世が蘇る。それは大好きなお日様の笑顔を浮かべる少女との、幼い約束の記憶だった。


 白昼夢は去り、現実の刻が動き出す。

 迫りくる鬼の巨体。俺を庇う様に間に身を滑らす空子。

 異形の背後には紅い空。脳裏を過るは朱色の瞳。

 空に向かって手を突き出す。

 自分を庇う彼女に触れる為でも、空を掴む為でも無い。

 それは遠き日の想い出の中。

 突き出した掌に、


(キラキラ~ってなって~)



 ――収束する、白銀の光。



 目の前には『彼女』の姿。


(じゃあ、いつか私が悪い人に襲われたら、その神技で私を助けてくれる~?)

 確かに交わした幼い二人の『約束』。


(どうしてなのか?)


(いつからなのか?)


(小さい頃からいつも一緒だった、お日様のような女の子)



 ――彼女の笑顔を曇らせたくない。そう思うようになったのは!



 死が迫る。すべてが閉じるその刹那。


『おかえりなさい……スサノオ』


 あの瞬間、彼女はどんな想いで俺を見つめていたのだろう?

 逃げ出した俺の姿は、朱色の瞳にどう映っていたのか?

 分からない。

 だから……今はただ、彼女の笑顔を護る為に!


(ビューンってなって~、ドッカーンってなるの~)



「神技――虚空(こくう)!」



 閃光が走る。

 真名を解き放つ言霊と共に、収束された白銀の光が轟音を伴って掌より飛び立つ。

 女神の未来を遮る悪意の渦を撃ち抜く為に。遠き日の誓いを果たす為に。

 天に伸びるは邪を穿ち貫く銀の輝き。

 一筋の光となった想いの神技は一直線に鬼の巨体を目指し、


「グギャアァーーーーーーー!?」


 いとも容易く異形の腹を突き破り、紅き空へと……駆け抜けた。

 ・

 ・

 ・

 静寂が訪れる。

 一拍置いた後、ドスンという重い音と共に、鬼の巨体が地に落ちる。

 物言わぬ躯へと姿を変えた鬼の体は、灰となって音もなく消えていく。

 風が吹き抜ける。

 残されたのは血に塗れた男女。

 美しい顔を血に穢された女と、ボロクズになった男。

 折り重なるように横たわる二人。


「約束……守れたかな?」


 呟きは男のもの。


「うん……うん!」


 応えるは女のもの。


「ごめん、逃げ出して……」


 謝罪の言葉。

 女は男の胸に顔をこすり付けるように首を横に振る。そこに涙は無く。


「こんな情けない奴だけど……一緒に居てくれるか?」


「……うん」


 紅い空は隠れ、表れたのは満天の星空。

 妖しい星の煌めきの下、重なり合った俺達は、ただ互いの温もりを確かめる様に、いつまでもそうしていた。



 こうして、まだ見ぬ未来へと続く過酷な道を、俺達は共に歩み始めた――。




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