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満員電車

作者: 通りすがり

朝の通勤電車は、社会の縮図と言われる。人々は皆、疲れた顔で座席に身を委ね、あるいは吊り革に力無く掴まっている。私もその一人だった。毎日同じ時間に家を出て、同じ電車に乗り、同じ駅で降りる。そんな日々が永遠に続くかのように思えた。

しかし、その日は違った。電車に乗った瞬間から車内は何か異様な雰囲気に包まれた。乗客たちの顔はいつもより険しく、そして互いに警戒し合っているようだった。私はすべての人が剥き出しの悪意に晒されているような、そんな不安感を覚えた。

世界は悪意に満ちている。それは誰もが知っていることだが、この電車の中では、それがより鮮明に感じられた。人々は皆、自分のことしか考えていない。他人を蹴落としてでも、自分だけが生き残ろうとしている。そんな風に思えてならなかった。

私は絶望していた。この世界に希望なんてない。あるのは、人間の醜さ、愚かさ、そして悪意だけだ。そう思った時から、私の心は黒く染まっていった。苦しみ、怒り、悲しみ。そんな負の感情が渦巻く中で悪意に染まっていった。私は愚かな世界に復讐を誓っていた。

その時、突然の急ブレーキが電車を襲った。激しい振動に、乗客たちは悲鳴を上げた。何が起こったのか分からず、人々は混乱していた。しばらくして事故があったとアナウンスがあった。

乗客たちは皆が苛立っていた。遅延は日常茶飯事だが今日のは特に酷い。人々は舌打ちをし、携帯電話を取り出して連絡を取っていた。人々の悪意が増幅されていくのが分かった。

そして遂にそれは形を成して姿を現した。それは人間の悪意が具現化した化け物だった。化け物は殺戮を目的とし、不条理を象徴する禍々しい姿をしていた。

近くにいた乗客の一人が化け物にあっさりと血祭りにされた。

それを見た乗客たちは恐怖に駆られた。しかし一部の者は悪意を力に変え反撃を試みた。そして無秩序な戦いが始まった。電車の中は血と怒声、そして哀れな悲鳴で溢れかえった。

私はその光景をただ呆然と見ていた。私の復讐が始まったはずなのに、私は何もできなかった。ただ悪意の化身が人間を殺戮していく様を、無力な傍観者と成り果てて見ているだけだった。

この世は地獄だ、そう思った。人間は自分たちの悪意によって滅ぼされる。それはもうすぐ現実になるだろう。

あっけない世界の滅亡が始まった。

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