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3/7

陰キャよギアを入れろ

この作品は、2000年代のラノベとかアニメをちょっと意識して書いてます。

『キノの旅』とか『イリヤの空、UFOの夏』とか『砂糖菓子の弾丸は打ち抜けない』みたいな、あの時代の空気が好きな人なら、なんとなくわかってもらえるかもしれません。


スマホもSNSもある令和の舞台だけど、

キャラの空気感とか、モノローグの痛さとか、**あの頃の“ちょっと拗らせた思春期”**を引きずってます。


「なんか懐かしい」「でも現代っぽい」

そんな“ズレ”がこの作品のテーマでもあります。


主人公は、めっちゃ内省的で、自意識過剰で、わりと拗らせてます。

でも、そういうやつが誰かのために動こうとしてる。

それだけで、僕はちょっとグッときてしまうんです。


読んでくれる人が、少しでも「あ〜こういうやつ、昔いたな」とか

「中学のとき自分もこんなこと考えてたかも」と思ってくれたら、

それだけで報われます。


さぁ、湿っぽい話はこれで終わり!

我らが主人公こと拗らせ系男子、鷹志 駆の暴走を生暖かい目でみてやってください!

自室。18時ジャスト。

ついさっきまで夕焼けっぽいオレンジが窓の隅っこに張りついてた気がするけど──気づいたら外は、夜の底だった。


街灯がポツポツ点き始めててさ。

それがまた、なんか……誰にも拾われなかったため息みたいに見えたんだよな。変な言い方だけど。


部屋の蛍光灯が、机の上を真っ白に照らしてる。

シャーペン、消しゴム、ハサミ、定規。整列してる。軍隊かよ。

いや、俺が整えた覚えはないんだけどさ。


でもこの沈黙。なんか、アイツらが命令待ってるっぽい空気出してるんだよ。

「命令を──待っています、隊長」みたいな。なんだこれ。


俺は椅子にもたれて、マグカップに口をつける。

中身はインスタントコーヒー。ぬるめ。

味? 無いよ。ほぼ無。

かすかに苦くて、あとは“熱”だけが喉をすり抜けていく。


……俺って、そういう存在かもなって思った。

何も残らない。けど、一瞬だけ“熱”を持つ。

そういうやつ。よくわかんないけど、そんな感じがした。


親は共働きで不在。

妹? 部活か遊びだろ。

通知も鳴らない。音がない。動きもない。


……ここ、本当に“家”か?


ただの「空間」。気配ゼロ。ぬくもりゼロ。

俺の存在が、ここにあってもなくても関係ないみたいな。

“居場所”じゃないんだ。ただ、生き延びてるだけの場所。


そのときだった。

俺の視界の端に、違和感がひとつ転がってた。


──USBメモリ。

主張ゼロの、黒いやつ。どこにでもあるやつ。

けど今は、妙に浮いて見えた。


まるで、机の上に捧げられた“遺品”みたいに。


俺は、それをつまんで──カチ。

PCのUSBポートに挿す。


「……いけ、起動しろ。ユア便乗──起動」


古びたPCが、ギィ……ンって音を立てて、ディスプレイが明るくなる。


表示されたのは、今どき見ない無機質なインターフェース。

黒文字オン白背景。90年代の掲示板かよ。


けど──ここには、“本音”だけが転がってる。


メニューはひとつ。【送迎依頼を投稿】──以上。


目的地と理由を入力して送信する。たったそれだけ。

アプリじゃない。SNSでもない。

これは──匿名のSOSを拾うための“装置”だ。


【運営者】鷹志たかし かける

【ドライバー】鷹志 駆

【運転資格】普通自動二輪

【車両】ホンダCB400 SUPER FOUR──それは、唯一無二の形見。


すべて、自作。

依頼受付から走行まで、ぜんぶ俺。

……正気じゃねぇ。

でもな、それでも、俺は──やると決めた。


なぜって?

“俺の中の虎太郎”が、笑ってねぇんだよ。


鷹志たかし 虎太郎こたろう

俺の叔父にして、人生でたった一人、俺が「かっけぇ」って思えた大人だ。

社会にゃ馴染めず脱落したけど、その背中は今も俺の道しるべだ。


「笑われるのは慣れてる」

モニター越しに映る自分は、どこか他人みたいだった。

でも、あの頃と同じ目をしてた。乾いて、尖って、けど……火種は残ってた。


「なあ……この学校に、“帰りたくない奴”が何人いると思う?」

誰かにとっての日常は、誰かにとっちゃ拷問なんだよ。


・名前を呼ばれても返事したくない奴。

・理由もなく睨まれる奴。

・家に帰っても、そこに“家”がない奴。


俺も──そうだった。


でも、誰も気づかねぇ。いや、気づいても拾わねぇ。

なら、今度は俺が拾う番だ。


そう、あの夜──虎太郎が、俺を拾ってくれたみたいに。


……あの晩の記憶は、今も色褪せない。


夜の歩道。どしゃ降りの雨。

家出した俺は、スマホも金もねぇ、ただの濡れ鼠だった。

でも──虎太郎は何も聞かずに、バイクで迎えに来た。


「理由は聞かねえ。でも、帰りたくねぇなら、俺んとこ来い。」


あの声が、今でも耳にこびりついてる。

……俺にとっての“救い”だった。


だから今度は──俺がその役目を背負う番なんだ。


──その時だった。

ディスプレイが点滅する。


《投稿1件目》

その文字が、静かに画面に浮かび上がる。


『誰か、送ってください。』

『親やばい。殴られる。てか今すぐ出たい。誰か、パチンコ横のゲーセンまで送って。校門前、19:30。報酬3,000円。バイクでもチャリでも何でも。とにかく頼む。』


俺は、深く息を吐いた。

眉ひとつ動かさねぇ。けど、胸の奥で……火がついた。


「お前んちの事情なんか、俺の知ったこっちゃねぇよ」


そう呟いた声は──どこか虎太郎に似ていた。

優しさと、不器用さを抱えた声。


“送る”ってのは、ただバイクで送ることじゃねぇ。

その人間の“重さ”を、背負うことだ。

顔も知らねぇ。名前も知らねぇ。

でも、一瞬だけでも「必要」とされたなら──


それで、いいじゃねぇか。


俺は、キーボードに指を乗せた。

迷いなんて、欠片もねぇ。

エンターキーを──叩き込む。


「それだけで、十分だ。」


これは正義じゃない。

自己満足だ。

もっと言えば──復讐かもしれねぇ。


クラスに。

学校に。

俺を笑った“日常”ってやつに対しての、小さな反撃。


でもな、俺みたいなやつ……他にも、いるんだろ?


──あの投稿者も、きっと“俺”だった。


わかるよ。

誰にも必要とされてねぇって感覚。

音のない、誰にも見えねぇ日常。

アイリがいなかった、あの中学時代の感覚を思い出す──



中学一年の春──俺は、一人きりで入学式に出席した。


本当は、隣にアイリがいるはずだった。

新しい制服に袖を通して、あの重たいランドセルをリュックに変えて。

そして二人で、あの校門を──くぐる、はずだった。


……でも、現実はクソだった。


アイリは、転校した。

春休みが終わる直前。

担任の家庭訪問、その日に。

理由はただひとつ──父親の転勤。


なあ、それだけだぜ?

なにかもっと、感動的なエピソードでも添えてくれたら、少しは納得できたかもしれないのに。


「実は大病を抱えてた」とか、

「俺を守るため、記憶を消された」とか──そんなご都合主義なラノベ展開でもよかった。


でも、現実は「父親の転勤」。

以上、終わり。


──なにそれ。


残された俺は、どうすりゃよかったんだよ。


まるで、セーブデータのない世界に投げ出された気分だった。


新しい教室。新しい人間関係。新しいルール。

全部が“未読スレッド”みたいで、手をつける気にもなれなかった。


誰かが話しかけてくる。

隣の席の奴が、笑ってくれる。

廊下ですれ違うたび、軽く手を上げてくれる。


なのに、俺はなぜか──応えられなかった。


なんていうか……

俺の中の“会話回線”が、ログイン障害でも起こしてた。


言葉は思い浮かぶのに、

「これ、変に思われないか?」ってフィルターが自動でかかる。

笑いたいのに、「今笑ったら浮くかも」って変な間が生まれる。


そうして、気づけば俺の周りには、誰もいなくなってた。


別にいじめられたわけじゃない。

誰かに無視されたわけでもない。

──ただ、俺が「踏み出さなかった」だけ。


他人に引かれた線じゃない。

俺が、自分で引いた線だった。


「一人で平気なフリ」をするために、

イヤホンつけて、昼休みは無言で弁当食って、下校は寄り道して時間つぶして。


プライド? ……そうかもな。


話しかけてほしかったのか?

いや、それすら自分でもわかんなかった。


ただ一つだけ確かなのは、

──俺は、あの日から壊れたってこと。


アイリがいた頃の俺は、もっとバカだった。

もっと笑えてた。

もっと人間らしかった。


でも、アイリがいなくなったあの日から、俺の中身は……

いや、“中身そのもの”が別人に置き換わったみたいだった。


ずっと待ってた。

「そのうち帰ってくるんじゃないか」って。

「これは一時的なバグで、元通りになる」って。


──でも、時間ってやつは残酷だ。

期待しただけ、その分、地面が沈んでいく。


二年になっても、三年になっても、アイリは現れなかった。


クラス替えのたびに、ほんの少しだけ期待して、

そのたびに、心の中で自分を笑った。


そうして、孤独が“日常”になった。


周りから見れば、きっと「一人が好きなやつ」に見えてたんだろう。


でも、違う。


俺は、「誰かと関わる勇気を失ったやつ」だった。


この違い、分かる奴だけ分かればいい。


あの頃の俺には、勇気なんてなかった。

ただ、“喪失”をプライドで包んで、それっぽく見せてただけだ。


──そして、気づいた。



──俺は今、日常へ反逆を企てている。

SOSの投稿に応えて、バイクで人を迎えに行こうとしてる。


なんでかって?


──たぶん、それは、


あの頃の俺が、本当は欲しかった“優しさ”を、

今さらになって他人に配ってるだけなんだと思う。


偽善? 上等じゃん。


そんな言葉、バイクの排気音にかき消してやる。


俺にとっては、これが**“まだやれること”**なんだ。


──だから、俺が行く。


あの人が言ってた。


『運転はミスれば暴力になる。プロなら責任持ってやり遂げる。当たり前だろ』


だったら俺も、その背中をマネしてみるだけだ。


もう、俺にはそれしかないから。


今までずっと、責められてきた。

だったら今度は、俺が“誰かを守る側”になる番だ。


目は、ギラついていた。

まるで何かを壊しに行くテロリストみたいに。


──でも俺が投げるのは、爆弾じゃない。


ただの、匿名の優しさだ。


「ここから──すべてが始まる」


誰にも気づかれないかもしれない。

でも、それでいい。


これは革命じゃない。

反抗でもない。

復讐……かもしれないけど、そんな大それたもんじゃない。


これはただ、“ちっぽけな誰か”が差し出す手。


でも──

その手が、今夜、誰かの世界を変えるかもしれないんだ。


──そう信じて、俺はギアを入れた。


というわけで、ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


次回からは──ついに!

我らが主人公・鷹志駆たかし・かけるが、バイクで送迎を開始します!!

いや〜、ここまで長かった……正直、俺も「まだバイク乗らんのかい!」って何度ツッコミ入れたかわかりません(笑)


でも、ここまで彼の内面にしっかり潜ってから動き出すのが、どうしても書きたかったんです。

だって、彼が誰かを“送る”前に、まずは自分自身の“迷子”を描かなきゃ意味ないから。


それでも読んでくれた皆さまには、マジで感謝してます。

心から、ありがとう。


次回から、物語は大きく動きます。

変な依頼、妙な依頼人、そして“運転”という名のささやかな革命。

孤独で拗らせたひとりの少年が、少しずつ、誰かのためにアクセルを踏んでいきます。


どうか、もう少しだけ彼の物語にお付き合いください。


それではまた次回、お会いしましょう!

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