……え、今、俺に話しかけた?(ぼっちは黙ってミルクティー)
バイクに乗らない第1話から始まる、バイク送迎ラブコメ(仮)。
捻くれ陰キャが勝手に送迎して、勝手に青春をこじらせます。
ちなみに4話からバイク乗ります。
今すぐ爆発しそうな日常にいる人、ようこそ地獄の入り口へ。
ミルクティー片手にどうぞ。
ここは、どこにでもある地方都市。
派手な観光名所? ない。
インスタ映えするカフェ? 皆無。
“夢みたいな青春”? 笑わせんな、ここは現実だ。
そんな退屈で無味乾燥な街に、俺はいた。
名前は――
> 鷹志 駆、17歳。
偏差値だけが取り柄の進学校、普通科所属。
親曰く、「ここなら大学進学率がいいらしい」だと。
あのな、そんな理由で人生のレールを敷かないでほしい。
でもまぁ、あの頃の俺は、反抗する元気すらなかった。
「どうせどこ行っても同じ」
そんな投げやりな気持ちで入学した結果が、コレだ。
――俺は今、不登校中である。
入学してすぐ、クラスの空気に違和感を感じた。
陽キャ。テンアゲ。映え。バズ。ノリ。
そういう“同調圧力の怪物”が、教室を支配していた。
最初は反撃したんだぜ?
皮肉を込めて、冷静に、論理的に。
「発情期のサルかよ、お前ら。山帰れ。マウンティングでもしてろ」
でも、そいつ――“王子”ってあだ名の、地獄の司令塔みたいなやつが――
俺の言葉を“おもしろネタ”に変換して、教室のBGMにしたんだ。
「発情期って何それウケる〜!鷹志くん、語彙力ヤバ〜!」
……地獄だろ?
こっちは心からの毒を吐いたのに、
やつらはそれすらエンタメに加工して笑いに変える。
肩ポン? そんな甘っちょろいもんじゃない。
あいつら、早押しボタンみたいに俺の肩を叩いてきたんだ。
ピコピコピコピコッ!!
――それで、俺は壊れた。
何も言わず、何も感じず、ただ座っているだけの“地蔵”になった。
何も言わない。
何も感じない。
ただの置物。――それが、今の俺だった。
だけど最近、脳内でずっとリピートされてる問いがある。
> 「このままで、いいのか?」
朝、今日も通学路をチャリで全力疾走。
信号なんて無視だ。俺の未来と一緒に赤信号なんて止まってられるか。
国道沿い、排ガスまみれの空気の中、
目的地は――校門の“外”。
春はとっくに終わって、葉桜だけが風に揺れてる。
花もなければ、希望もない。
> 「……ミルクティーでも飲むか。」
無意識に、自販機でリプトンを押す。
もはや反射。儀式だ。
変わらない朝の流れ、でもチャイムが鳴った瞬間――
生徒たちの目の奥から“魂”が消えるのが分かる。
全員、一斉に“家畜モード”。
> 《貴様らに人権などない》
そんな声が、校舎から聞こえた気がしてゾッとした。
それでも皆、制服という名の首輪を締め直して、笑顔で檻に入っていく。
今日も始まる、
**“義務教育の延長戦”**が。
---
昼休み。
教室の空気はぬるくて、湿ってて、雑巾みたいな匂いがする。
女子はスマホで自撮り連打。
男子はバズった動画の話で盛り上がる。
誰も“今”を生きちゃいない。
「ここじゃないどこか」に逃げ続けてる。
そんな空気の中、俺はひとり、
ガタガタの机で弁当を広げた。
> 「……なんで俺の机、ネジ1本足りねーんだよ」
バランスが悪い。
俺の心と同じように。
ミルクティーの甘さが、少しだけそれを誤魔化してくれる。
そうして、また思い出すんだ。
あの味とともに――
◇
俺には、幼馴染がいた。
“空手のアイリ”。白峰アイリ。
小学校の道場で出会ってからというもの、
そいつはしつこいくらいに勝負を挑んでくる変なヤツだった。
「ねえ、あの年上の出っ歯にやられてるでしょ。ぶっ飛ばそ?」
「やだ」
「でもあいつ、こっち来てるよ〜」
「……けしかけたな、お前!」
毎回こんな無茶苦茶なノリだったのに、不思議とアイリの拳は痛くなかった。
5人に囲まれたときも、真っ先に割って入ってくれた。
「アイリ、やめろ。俺の問題だ」
「じゃあ私は、ヒーローのピンチに現れる、謎の助っ人ってことで!」
いきなりバット振り回して突っ込んでくる姿は、マジでアクション映画。
……喧嘩もよくしたな。
殴るような暑さの夕暮れの日。
たしか、空手の形がどうとか、俺のミットが適当すぎるとか、
理由は今思えば**“しょうもない”の権化**みたいなもんだった。
「じゃあさ、どっちが“バカ”か決めようよ!」
その無茶な提案をしたのは、もちろん白峰アイリ。
いつもの猫っぽい目をキラキラさせながら、俺の返事も待たず走り出す。
「……は?」
気づいたら、小学校の裏手のフェンスの隙間からプールへ。
時刻は午後六時すぎ。
夏の夕暮れがギリギリ空を照らしていた。
「うん。給食当番のときにね。……ちょっと、覚えちゃっただけ」
「いや、“だけ”の範囲じゃねえよ……」
めっちゃサラッと犯罪予備軍発言すんな、この女。
「おい、マジでヤバいって……」
「さあ駆、バカじゃないなら来なよ!」
……その言葉に、釣られた。
だって、小学生男子のプライドってやつは、脳より重いんだ。
気づけば足が動いてた。フェンスを乗り越えてた。
プール棟は静かで、水面はまるで呼吸をやめたみたいだった。
「覚えてる? 小三の時、海行ったのに水着忘れて──」
「あー! 結局、保健室のスク水で泳いだやつな」
「で? どうする気だよ?」
「度胸試し! ……このまま!」
そして――アイリが制服を脱ぎ始める。
「ちょ、ちょっと待て! え⁉ まさかスク水⁉」
「うふふ、男子のくせにビビってんの〜?」
まさかのスクール水着登場。
こいつ、どこにどんな準備してんだよ……。
くそ、こういうところだけはブレないんだ、昔から。
観念して俺もシャツを脱ぎ、トランクス一丁。
冷えた風に晒されながら、思考停止してるうちに――
「せーのっ!」
ザバァァンッ。
水が全身を包む。鼻にくる、鉄っぽい匂い。
「うおっ、つめてぇ!」
「ははっ、サイコー!」
「……で、なんでこんなことしてんだよ」
「バカでいたいからかなぁ」
「意味わかんねえって」
「駆がさ、最近ちょっと大人ぶっててさ。つまんないなーって思ったの」
水の中でくるっと回るアイリ。その横顔が、月の光にキラッと光った。
「前はさ、もっとバカやってたじゃん。
木登りで先生に怒られたり、屋上で弁当食べたり。
あれ、めっちゃ楽しかったのに」
そう言われて、俺も思い出す。
失敗も恥も、笑い話にしてたあの頃。
「……お前、ずるいな」
「知ってる〜」
プールの縁にあごを乗せて、二人して空を見る。
夕焼けが終わり、夜が始まりかけていた。
「なあ、アイリ。お前、いつか突然いなくなりそうだな」
「え、それって告白?」
「ちげーよ。なんか……お前、こういうの似合いすぎて、怖ぇんだよ」
「……かもね」
その声は、少しだけ小さかった。
「でもね、そうなっても、この夜のことは忘れないと思うな。だってさ――」
「バカやった仲だもんな」
「そう、それ! バカ同盟!」
バシャリ。濡れた手と手が、音を立てて繋がった。
帰り道、残った小遣いをかき集めて買った自販機のミルクティーの味は、
今でも忘れてない。
当然、この“夜の水泳大会”はバレて、こっぴどく怒られた。
でも、それすら含めて――俺たちにとっての“伝説”になった。
たとえ、今、アイリが――
隣にいないとしても。
そして、アイリは──
ある日突然、引っ越した。
中学も一緒の予定だったのに。
あれから、もう5年。
◇
昼休み。俺の“家畜モード”が始まる。
机に張りついて、無になるだけの時間。
クラスメイトはみんな仮面つけて、仮面の中で生きてる。
俺はというと、せめて“地蔵”に戻らないよう、
今日もミルクティー飲んでる。
あの日のアイリの分までな。
……まあ、今のほうがずっとタチ悪い。
ここには暴力がある。
法律じゃ裁けない、“ノリ”っていう名の。
「お前マジ事故物件じゃんw」
「空気にもなれないとか、才能じゃん〜」
はいはい、知ってます。
笑うやつも、笑われるやつも、全員病んでる。
スマホ越しの地獄、今日も元気に営業中。
「……事故現場だな、ここ」
ぽつりと漏らした独り言に──反応が返ってくる。
「なんか言った〜? タ・カ・シ・く〜ん?」
またこいつかよ、“王子”様。
清々しいほどのニヤニヤ顔。
てか、お前とまた同じクラスかよ、悪夢か?
返事する気も起きず、弁当の卵焼き潰して、教室を出た。
逃げた? うん、たしかに。
でも、叫んだところで誰も助けてくれないのがこの教室。
教師もスルー。
それが、ここのルール。
──なあ、アイリ。
お前なら、どうした?
ボコる? それとも、世界ごとぶっ壊す?
俺はまだ、動けない。
でもな、心のどこかでは、もう決めてる。
この腐った教室、いつか俺が──
爆破してやる。
音もなく、確実に。静かに。だけど派手に。
今はまだ、準備中。
“送迎前”なんだから。
よくぞここまで辿り着いてくれた勇者よ……!
え? 「バイク出てないじゃん」って? 出ねぇんだよ、第1話は!メカじゃなくてメンタル回なんだよ!
てことで、第1話は“地蔵モード”の駆と、ミルクティーと、地獄の教室がメインディッシュでした。
今後、もっと痛くて笑えて、ちょっとだけ切ない展開に転がっていくので、
「これはちょっとイケるかも」と思った方は、ぜひそのまま“送迎”されてください。
じゃ、次話でまた会おうぜ!同士諸君、腐った日常を破壊せよ